025 ボヤのうちに消そうと思います。
帰省&喘息発作で更新遅れました。
描写が足りないので、後で直しを入れますが、忘れないうちにあげときます。
情景描写を少々追加しました(131009)
『ユタカさん。……その力を見込まれて、皇国にとりこまれたくなぞ、ないでしょう?』
これも説得のためだと、自らを励ましついた、少々の嘘。
こちらの思惑どおり、「皇国にとりこまれる」という言葉に、彼女の眼の色が変わり、一度開いた眉がまた寄せられ、私に焦点があったのがわかった。
「私は先程、隠す理由はいくつかあると申し上げました。そして以前、ユタカさんと最初に契約を交わさせて頂いた時、こうも申し上げたのを覚えておられますか?『異世界の人々(あなたたち)は魔力の多寡はあれど、魔導学校で10年以上かけて学ぶことを半年たらずで習得される』と」
自由であること、なにものにも捕えられないこと。
一年に満たない付き合いではあるけれど、彼女がそれをどれだけ重視しているかは、よくわかっているつもりだ。
たとえ誰かが……私が、どれだけ貴女を欲していても。手を伸ばしたとたんに、手の先からするりと逃げていってしまうんでしょう?
「そして、いままであえて詳しく申し上げませんでしたが、ユタカさん達異世界から来られた方々は、魔力の量が多いのです。単純には比較できないのですが、契約させて頂いた12名の中で一番少なかった方でも、私たち魔導団の小隊長クラス。
ユタカさんと仲の良いサカモトさんですと、錬金術の知識も豊富でいらっしゃいますから、実力だけで言えば、中隊長でも上位の1か2を勤められます」
いままで私は、貴女を「特別」には扱ってこなかった。特別視すれば、面倒はごめんと、貴女はあちらへ帰ってしまうのが分かっていたから。
だから、何もないふり、何気ないふりを装い、「日常」を過ごしてきたのに。貴女が逃げていかないように、皇国の馬鹿どもにできるだけ気づかれないように。サカモトとは会ってしまったけれど、それは痛恨の失敗だったけれど、他の異世界人には会わせないよう、細心の注意を払っていたのに。
あの馬鹿皇子のせいで……!
「ユタカさん。貴女はおそらく、私よりも魔力の量が多く、質も……高いといいましょうか、濃いです。私が貴女と競っていま勝てるとすれば、魔導の知識くらいでしょうか。そんな貴女の存在を、皇国の魔導団上層部が知れば、大臣や宰相などが知ればどうなるか……」
「あ、その先は言わなくていいです。よく分かりましたから」
腸が煮えくりかえるほどの激情をいつもの笑顔で押し隠して続けようとした言葉は、開けられた空間を詰めようとして前のめりになった私を止めるかのように、前にかざした彼女の手で遮られた。
くっきりとした眉をよせ、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
彼女の不穏な空気を察っしたのだろう。扉近くに控えていたセバスチャンが、彼女の後ろに、まるで護るように移動するのを、私は目の端にとらえた。
グレイの優しげな瞳は色を銀にかえ、こちらにひたとあてられている。
彼の動きを敏感に察知してか、ちらりと振り仰ぎ、微笑みを浮かべる彼女。せめてあの男の立場にたてるなら、なにを投げ捨てても惜しくはないのに。
「いやでもそうなると、ますますわたしが、皇帝に会うメリットはないですよね。と言うよりむしろ、会ったら最後? よくて強制リクルート、悪くて監禁じゃないですか? なんとか断れないんですか」
「今回に限っては、無理です。なにしろ皇帝ご本人からの依頼ですから」
私の返答に彼女の顔がさらにしかめられた。鏡を見ずとも、私の顔も同じ状態になっていることがわかる。
私だって、本当なら会わせたくなどない。皇帝だけではなく、誰とも。
「だからなんでその皇帝が、ただの出稼ぎ労働者を知ってるんでしょうか。わたしがしているのは、ただの魔獣駆除ですよ? もんのすごい技能を要するわけでも、難しい魔術を駆使しているわけでもない。使う魔力だって、知れてますよね」
紅色の唇をすこし尖らせてそう言う彼女は、どうやら忘れてしまったらしい。彼女が最初に瞬殺したハーピー。それを倒すために、皇国騎士団の精鋭であるハッスナー達がどれほど苦労していたかを。
彼女の実力とその性格、なによりも魔獣を殺すことに対する躊躇のなさを知ってからは、騎士団との連携は行わず、私と彼女のみで討伐していた。そのため、自分がどれほど規格外な存在なのかを、彼女はいまだ認識していない。
彼女が魔導を駆使する姿は、彼女の存在を出来るだけ隠すために、あまり他人の眼に触れさせないようにしている。
無詠唱で繰り出される、無限に出てくるとしか思えない、火球や氷の針。
「大抵の生き物は呼吸できなきゃ死にますから」あっけらかんとそう言いながら、獲物の顔の周りのみ真空(それがどういう状態なのか、彼女が説明してくれたが、すべて理解できたわけではないが)にし。
触れるものすべてを溶かす酸をはく魔獣に対抗するため、掃除機と呼ばれる製品が飛び出してきた時には、頭を抱えそうになった。
自分が学び、研鑽してきた魔導とは、いったいなんだったのか。そう思ってしまったのである。そんな彼女を本質を、気付かれるわけにはいかない。できれば彼女本人にすら。だから、ある意味での彼女の無知を利用しているのだ。
「皇帝陛下に知られてしまったのは、私のミスです。まさかあのプライドしかない愚かな皇子が、自分より遙かにちいさな貴女に手もなくやられたことを、正直に話すとは思わなかったものですから」
「……愚かな、皇子?」
矮小な思惑なぞかけらも見せないよう、わざと深刻そうにため息とともに吐き出せば、彼女が左の眉だけ器用に上げた。その顔には、誰だそれと書いてあった。
……以前本人が言っていたように、嫌なことはさっさと忘れてしまったらしい。ほんのひと月前のことなのに。
「貴女が市場で教育的指導を施した、我が国の第三皇子殿ですよ」
私も彼女のように、忘れてしまえればよかった。そう思いながらも答えれば。
「……やっぱりあの時、絞めときゃよかった」
ゆらりと、後ろから黒い影のようなものを立ち昇らせて、低く呟く。
「そうですね。私もあの時貴女を止めねば良かったと、いまは後悔しております」
そしてその方が、遙かに我が国のためになっただろうに。
思わずもれた呟きに、彼女の後ろのセバスチャンから、まるで共犯者のような微笑みが投げられた。
「しかし、知られてしまったのであれば、仕方ありません。少々顔見せをして、皇帝陛下の好奇心をさっさと満足させる。それが一番かと思いますので、ユタカさんにとっては何のメリットもないでしょうが、ご協力をお願いします」
ともかくも、彼女と約束を取り付けねばならない。私は一息に言った後、座ったままの膝につくほど頭を下げ、しばし待った。
この世界にはない、彼女が引越しの際に持ってきたという飴色の柱時計の秒針のすすむ音だけが、かすかに聴こえる。
ボーン、ボーン、ボーン。
重くゆったりとした鐘が、3回鳴った。これは、3時になったということか。
頭を下げたままそう考えていると、ため息とともに、彼女の声が降ってきた。
「……分かりました。2、3の条件を飲んでいただけるならば、お会いしましょう」
あぁ、やっぱり彼女はこちらの思惑通りにはなってくれない。
私は顔をゆっくりあげ、またひとつため息を押し殺して。彼女の条件とやらを、拝聴することにした。
あらあらルーカスさんたら。途中本音が駄々漏れていましたね。




