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小話1 馴染みの居酒屋で、後輩と呑んでみた。

はい、異世界での出稼ぎ先輩、修司君が再登場、語ります。異世界とはいえ仕事であれば、ノミニケーションって大事ですよね?


修司先輩にはモデルとなった人物がおりまして。いや~使いやすいキャラクターで作者のお気に入りです。



「なんや、優くん、おっさんスキーかいな」

「修司先輩、それ40歳以上の男性に失礼ですよ」


 俺の口から飛び出たからかいの言葉に、ふたつ下の後輩、越谷優こしたにゆたかが、思い切り眉間にしわを寄せた。



 いま俺たちは、最初にこの子が連れてきてくれたタブラオに来ている。


 俺は二泊三日かけさせられた、少々骨の折れる魔獣を駆除したあとで。この子も別の場所で大物を倒してきた帰り。報告に訪れた上司であるルーカス氏の書斎でばったり会ったのを幸いと、飲みにきたのだ。


 ちなみにこの子と飲むのは数回目だが、かなり久々ではある。


 そして久々ではあるが、最初に飲んだ夜からかわらず、まるで男同士のように遠慮なく馬鹿話ができるこの時間は、俺にとってはかなり心やすらぐ時間であった。

 


「あくまで個人的な考えですが、男性の本当の色気がかもしだされるのは、40歳を過ぎてからだと思います。まぁ中には30代半ばでその域に到達しておられる方もいますが」 


 この時期にはこればかり食べるといつだか言うてた、日本のカキにそっくりな貝のフライをつつきながら、優くんが熱く語りはじめる。ふたりとも、すでに二杯目のウーゾのグラスが空になりかけてた。



「へ~。たとえば誰?」

「そうですね。騎士団のハッスナー隊長なんていいですね。目じりや口元、それに肌艶をみれば30代半ばと思われますが、がっちりした顎、太い首、そしてなによりあのバリトンボイスが大人の色香を感じさせますね」

「うわっやらし~な~。ハッスナー隊長、視姦されてるやん」

「そうなりますかね」


 俺のからかいにも、この子はまったく動じない。そこがまた、おもしろい。


「ん? あれあれ~? その基準で行くと、俺なんかまだまだってこと?」


 もうひと押し、突っ込んでみよか。まぁ答えは、分かっているけど。


「…そうですね。本音を言えば、10年後の修司先輩に、いまお会いしたかったです」

「うわっきっついわ~優くん。ドラコの衝撃波なみに痛かったわ」


 うん。なんや、予想外に痛かったわ。自虐プレイ、ちゅう奴やね。







「んで。優くんはいま恋人おらへんのやろ?」

「は? まぁ素敵と思う方はたくさんいますけど、恋人はいませんね。そう言う修司先輩はどうなんですか?」


 って、おい!「素敵と思う方」って、誰と誰やねん。詳しゅう聞いとかんと。

 思わず胸の内で黄金の右腕をばしんと振り回して突っ込みをいれたが、まずは会話をつづけなね。


「いや~、おったら俺、世界ここにはおらへんわ」

「……そうですか? でもルーカスさんの転送陣使えばすぐですよね? 遠距離、と言っていいのかわかりませんけど、会いたいと思えばいつでも会えるのでは。それにこちらにも奇麗な女性が沢山いますよね」


 不思議そうに小首をかしげて、優くんが返してきた。

 そう言われるとそうやねんけど、ね。


「ん~。俺たぶんな、寂しがりねんよ。好きな子とはいっつも一緒に居りたい。んで、わがままっていうか、亭主関白?」


 うん。なんかうまく言われへんね。っていうか、なに真面目に答えてんねん、俺。


「亭主関白? …女房は家にいて、三つ指ついてお出迎えしてほしい、ってやつですか? 確かに男女同権が日本よりは確実に進んでいるこの国では、そんな女性はなかなかいないでしょうけど」


 うぉっ、心なしか優くんの目がきっつくなった気がする。ちゃうねんて、ほら。


「んんーなんやろ。そうじゃないねん。なんちゅうかホラ、パスタやらステーキやら、確かにうまいし、好きやねん。けど、毎日喰うんやったら、和食っちゅうか、白いご飯にいろんなもんがついてくる日本の飯がいい。ソース味なら最高。そんな感じ?」


 女の子をご飯に例えるものアレやけど。俺の言いたい事にかなり近い説明はできたと思う。


「……わかるような。わからないような」


 優くんにはいまいち伝わらんかったみたいやけど……。




●●○○●○○○



「んで? いままで付き合うた人は、みんなだいぶ年上? なんか優くんは年下に、もてそうやけど」


 二人だけで飲んでるから、つまみがわりの料理たちは、そこまで減ってない。でもザルどころかワクとも呼ばれる俺と、かなりいける口の優くんの座るこの席には、看板娘のヴェニィツィアちゃんがせっせと往復しても運びきれない空瓶が並んでいる。


 よっしゃ、よっしゃ。酒もだいぶ回ってきたし。こっから本番、全部聞きだしたるで。


 俺はウーゾよりも強いカヴァスという名の、ウィスキーににた酒で舌をしめらせてから、本題にはいることにした。



「もてたかどうかは分かりませんが、学生時代はそうですね。男女の別なく年下から告白されましたね」

「あ~やっぱりな……って男『女』?」

 

 俺のジェスチャー付きの鋭いつっこみにも、相変わらず優くんはきょとんとした顔で見返してくる。

 ほんまこの子は、天然さんやね。

 

「10代ではよくある事じゃないですかね? 髭やすね毛が急に濃くなった同年代の男が嫌で、年上のボーイッシュな先輩に憧れるってのは」


 いやいやどうやろ? 取り合えず自分のまわりに百合やらはおらへんかったよ?

 たぶんやけど……。


「でも告白やろ~。どんな感じ?」


「……まぁ、よくあるって言ったらその子に失礼ですけど、バレンタインデーでしたね。テニス部の後輩だったんですけれど。手を後ろに隠して赤い顔してクラスに来たんで、クラスメイトの誰かにチョコを渡すんだなと思って、呼ばれてホイホイ言ったんですよ。朝のホームルーム前でしたね。で」

「で?」

「『優先輩好きですっ!!』」

「ぶはーっ直球や~」

「可っ愛らしいラッピングのピンクの箱に入ったハート型のチョコでした。美味しかったんですけど、茹でダコみたいな顔でチョコをまっすぐ差しだして。感極まっちゃったのか、その場で号泣しだしたんですよ」


 その時の修羅場?を思い出しているのか、優くんのいつもはきりりとした眉毛が、八の字に下がっている。

 そこがまた、笑いのツボにはまってしまい、俺はとうとう身体をふたつおりにして笑い転げてしまった。


「…っ…っぐはっ……腹筋、よじれるっ」

「朝のホームルーム前でしたから、その当時わりと声が好みだった担任の先生も、その場におられたんですよね。

『越谷~女の子を泣かせちゃいかんぞ~』なんて、耳元で囁いて欲しいと思っていた声に、笑いながら言われて。さすがにブルーになりました」


 追い討ちをかけるように、優くんがつづける。


「……っ…っも、やめてっ腹、壊れるっ」


 笑いすぎで目じりから涙まででてきた。っていうかホントに腹が痛いです。勘弁してください。


「相変わらずゲラですね。お楽しみいただけたようで何よりです。だいたい修二先輩の素敵な腹筋なら、そんなことでは壊れないでしょう」


 優くんの軽蔑するようなまなざしも痛いけど、腹の方が痛いです。



続きは明日の朝11時に。

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