021 ゴミ掃除は自分で。たとえ市場でも。 1
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今回は短いですが切りが良いので。
「優様。ここは私が」
「え、やだよ。セバスチャンの美しい目にあんなの写したくないし、ただでさえ綺麗でも快くもないあれらが、さらにつぶれる様なんて。それにわたしは嫌なことは即消去するけど、貴方の優秀すぎるメモリーは残さず記録しちゃうでしょう。それは嫌」
庇うように、スッと前にでたセバスチャンにわたしがそう言いつのれば。
彼の顔を見上げ、珍しくうっとり蕩けていないわたしの顔をしばし見つめた後。その形のよいうすい唇の片方だけをあげて、胸に手をあて浅く礼をして、一歩さがってくれた。
「……お心のままに」
「ありがとう」
譲ってくれた優しい執事になんとか笑顔をうかべて御礼を言って、わたしは馬鹿どもと正面から向きあった。
越谷優28歳と5か月。いま、猛烈に怒っております。
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ことの起こりはこうだ。
サカスタン皇国の皇都アナウは中々に洗練された大きな都市ではあるが、宮殿を中心とした大邸宅(ルーカス氏の別邸含む)が集まる地区とは別に、中流から庶民の暮らす地区がある。
そしてそのいくつかある地区にはそれぞれ大中小の広場があるのだが、そこではほぼ毎週、市場が開かれるのだ。
市場、愉しいですよね。何も買わなくとも、まぁ行ったらどうせなにかしら買っちゃうんだけど、見ているだけでダダあがりするあのテンション。何なのでしょう。
近郊の農村から早朝馬車(あちらの馬とはちと違うけど)に積まれて運ばれてくる、旬の野菜に果物。酒屋ではお目にかかれないウーゾにカヴァにブルサ、そして色とりどりの果実酒たち。あちらと味が良く似ており、土地の力がまだ強いのか効果が段違いに強いハーブとハーブティ。それらを使ったポプリや化粧品、石鹸などなど。
あちらで旅行する際には、必ず市場に立ち寄るわたしですから、市がたっていると聞いて以来、足しげく通っております。
そしてもちろん、市場の出店者、利用者をあてこんで出される美味しそうな食べ物屋さんを、着々と制覇しつつあります。
で。本日は魔獣駆除お休みの日。もちろんルーカス氏の緊急呼び出しをくらえば出動するけれど、その時にはセバスチャンにメールが(はいルーカスさんついにスマホ購入です。でもヒト型にはしないんだって)が入るから、お出かけはできるわけで。
買い物と買い食い欲を満たすため、愛しのメイドちゃん達アヌリンとヤスミーナに見送られ、朝もはよからセバスチャンをおともに、宮殿からほど近い広場にたつ、お気に入りの市場に来ておりました、と。
ここまではいい。
「優様、お腹がはち切れて歩けなくなりますよ」なんてセバスチャンに笑ってたしなめられながらも、おねだりして目につくものを片端から買い食いし、「ひゃっはー」なんて心の中で叫びながら、ついでなんだからとアヌリン達からもぎ取った買い物メモの食料を買わんと馴染みの八百屋さんへ足を向けた時。それが目に入った。
そして、絶望しかけた。
あぁ保食神よ、大宜都比売よ。そしてなにより、保育園の頃からお世話になってます、もったいないお化けさんよ。こんな事が許されるのだろうか!
わた、わたしが、今日買おうとしていた、その味を思い出して(セバスチャンにはばれているだろうけど)、こっそり涎まで垂らしていたナマウスさんの八百屋の野菜。
その自慢の逸品たちが、どこのならず者か知ったこっちゃないし、いまから二目と見られないくらい潰すから名を訊く必要も覚える必要もないけれど、そいつに、足蹴にされている! こんな非道が許されていいのだろうか、いやない!
いい度胸だこんちくしょう、産まれてきたことをこのわたしが後悔させてやる!!!
わたしは声高らかにそう宣言すると、八百屋さんの前につっ立つ馬鹿ものどもに向かって、駈けだした。
先ほど保存しようとしたデータが、ネット接続が悪かったのか、飛びました。
続きは明日中に出来れば。




