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019 ひと様が淹れてくれた珈琲は、美味しいです。

これも、R15以下ですよね?

「いや~生まれて30年、男になって14年やけど、こんな反応する子はじめて見たわ」


 笑いすぎてでたらしい、目じりの涙をぬぐいながら、阪本氏はのたまう。



 いや、男になってって。あれですか、初体験から数えてですか。って別にあなたの過去にあまり興味はないのですが。

 

 爆笑される理由がいまひとつわからず、正座したまま首をかしげているとまた発作をおこしたように腹をおさえて笑いだした。

 そう言えば昨日もほとんど笑っていたけれど、黙っていれば精悍に見えなくもない顔をしているのに、ゲラだなこの人。



「キミあれやね。天然さんなんや」


 いや意味がわからないです。

 天然て何だ。いやその意味するところはわかるが、そんな非難をされたのはこっちこそ初めてだ。


 どちらかと言えば、わたしは敏いはず。父上様に仕込まれているからね。生き残るには必須のスキルだよね。



 少々むっとしたので、上目づかいに阪本氏をにらんでやると、今度は困ったように微笑まれた。


「いや、うん。その格好、男としたら嬉しいねんけど、俺今日も仕事あるし。時間もないし。その目も反則やし。非常~に残念やけど、できればなんか着てくれへん?」


 言いながら、首にかけていた布で自分の目を覆ってしまった。




 んー?………ああ、忘れてた。




 ふたりで昨夜した運動のせいか、まだ酒が残っていたのか。あまり寒さを感じないから忘れていたが、わたしはまだ裸でした。


「服を着る前にシャワーをお借りしたいのですが」

「この扉、でて左。シャンプーやら好きに使うてええけど、シャワーの使い方わかる?」


 目を覆ったままこたえてくれる阪本氏。案外律儀だな。


「あ、たぶん。わからなければお聞きします」


 その律儀さに免じて、下がやや反応しているのは、指摘しないであげよう。朝の生理現象もあるだろうし。






 いわれた場所にあったバスルームは、こちらで初めて泊まったルーカス氏の別邸と同じようなタイプで、灯りやシャワーのスイッチ部分に魔力を通せば使えた。


 時間がないと言っていたので、お言葉に甘えてハーブのような香りのシャンプーとバスソープをつかって、手早く身支度。


 いや魔術でぱぱぱっと洗浄はできますよ? やろうと思えば。でもせっかくシャワー設備があるのなら、使いたいではないですか。

 床に放置したままくっしゃくしゃになった服や下着を着るのは嫌なので、新しいのを4次元ポケット(亜空間)から出したけど。


 ベリーショートの髪はタオルドライでも乾くけど、風をおこして手早く乾燥、セット。





「お待たせしました」


 寝室に戻ってもいなかったので、いつの間にか奇麗にたたまれてベッドの上に置かれていた洋服と下着を回収し、廊下にでると。

 生成りのシャツに濃い緑色の細身のパンツ。引き締まった腰には細身の剣をはき、広い肩にはフード付きのマントをひっかけた阪本氏が、玄関とおぼしき扉の前にたっていた。



「なんや、もっとゆっくり浴びてったらえぇのに。俺はルーカスさんと約束あるから出なならんけど、珈琲いれたし、よかったらのんでってや」


 言われてみれば、玄関脇の、おそらくキッチンだろう戸口から、珈琲の、かつてタンジールのスークの片隅で飲んだのと同じくらい、馥郁たる香りが、漂ってきている。



「いえお気づかいなく……と言うべきところですが、この香りには抗えませんね」


 いままで飲んだ中で一番の味に想いをはせて、誘惑にあっさり負けをみとめれば。


「やろ~? 俺、珈琲にはちょっとうるさいねん。無駄にならんでよかったわ」


 阪本氏が嬉しそうにニカッと笑った。


 ふむ可愛いじゃないか。昨夜の衝動についてもとくに意味をもたせることなく、さらりと流してくれているようだし、ありがたい。


「この部屋オートロックみたいになっててな、鍵の心配せんでええから、好きなだけのんでってや」


 肩越しにそう言ってくれるその顔を、わたしは改めて見つめてみた。



 美形、と言うわけではないけれど、人好きのする顔だと思う。肩肘はらず、自然にバランスをとった歩き方、きちんと使っている筋肉がきれいについた身体。そして昨夜の、疲れを知らぬスタミナといい、ルーカス氏が以前言っていた「優秀な先達」とは、きっとこの人のことだろう。


 顔、まぁまぁ、身体二重丸。話題が豊富でノリがよく、仕事もできる。こう来ればあちらでもこちらでも相手に不自由はしないだろう。遊び人といわけではなく、きっとそれなりに場数を踏んでいるがゆえの、余裕さえ感じられる。



 個人的には、過去お手合わせしたなかで、五指に、それも上位に確実にはいる美しい手をおすすめしたい。いや誰に、というわけではないけれど。



 つらつら思い返して、非常に有意義な夜であったとひとりふむふむ頷き、労をとってくれた礼にせめて見送るくらいしようと、その場で待っていると。





「なんか、ええね」


 扉に手をかけて、足を踏み出しかけていた阪本氏がぴたりと立ち止まり、振り返った。


「…? なんでしょう?」


 この人は、本当に表情豊かだ。最近また無表情笑顔がデフォルトになっているルーカス氏も、すこしは見習うべきだと思う。


「こうやって、見送ってもらうの。こそばゆいけど、ええね」



 はい、大人の男のハニカミ笑顔頂きました~~!



 恋人同士じゃあるまいしと思いつつも、微妙に頬が赤くなったのは、自覚している。

 そして柄にもなくうつむいてしまったのは、不可抗力だと思う。




「ほなら、俺行くけど」

「はぁ」


 失礼とは思うが、いかんせん熱い顔をあげられず、俯いたままこたえると。

 一歩で間合いをつめてきた阪本氏に、きれいな先細りの人差指と中指で顎をすくわれ。




 ちゅ。



 


 軽やかなリップ音をさせて、頬にキスされた。




「ぅえぃっ」


 なんとも間抜けである。耳にはいってきた瞬間、その場にうずくまりたくなるほどの、間抜けな声をあげている。わたしが。たかが頬のキス一つで。

 昨日それ以上のことを存分にしたのに。




「やっぱおもしろいわ、優ちゃん。気ぃつけて帰ってや」


 笑みを含んだ声音でそう言い、阪本氏は出かけて行った。





 ……「もひとつ自慢の朝食は、また今度」は、聴かなかったことにしよう。


 まだ熱い頬をぺちぺち叩きつつ、きっちり状態保存までかけてくれた阪本氏ご自慢のあつあつ珈琲をゆっくり味わってから、あえて乗合馬車でのんびり帰宅したらば。





 絶対零度の微笑みを浮かべたセバスチャンに、出迎えられましたとさ。

続きは、月曜中には。

なんて言いながら、すでに火曜日に日付が変わりました。ルーカス目線第二弾であるとか、今回できてた新キャラ修二君目線のはなしであるとか。もう書きあげていたのですが、それらは活動報告でお話しした理由により急きょ追加する、第三者目線(に決定するかどうかは未定)を書き上げた、その後に掲載しますので、いましばらくお待ち頂けたら幸いです。


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