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002 おいしい仕事には、美味しいご飯がつきものです? 2

自分で食べるものは自分で獲ってさばく。

命の基本だとは思いますし、さらりと書いてはいますが。苦手な方はお読みにならない方が。

 レッツ3分クッキング!


 用意するもの

 ・縦5×横5メートル以上の大きな袋 1つ

 ・袋と同程度の大きさの、密閉できる、遮光ガラス 1個

 ・火を噴く魔獣スズメ 1羽

 ・塩、ハーブ類などお好みで。

 ・盛り付け用の皿 1枚

 ・とりわけ用の皿とナイフ・フォーク 人数分

 ・スズメを〆て、羽をむしって血を抜いて、こんがり焼くだけの、魔力


 絶対にその時間ではつくれないだろう料理方法を、お昼前に紹介する番組。

 そのテーマソングを脳内に再生しながら、わたしは調理に必要なものと手順を確認し、まずはそのうちのふたつ、袋とガラス瓶を魔法でだしてみることにした。


 え~~イメージ、イメージっと。袋は羽毛を入れるんだから、こぼれないように口が巾着になってるのがいいよな。

 ガラス瓶はあのトルコで買ったローズオイルの濃い藍色の瓶で、あ、血を入れやすいようにロートもいるか。

 頭の中で、家で実際つかっているそれらを細部まで思い出し、スズメ(確定)が入る大きさにまで拡大する。



「ホイッと」



 完全にイメージが固まったので、思わずでた間抜けな掛け声とともに、右手を前にふってみた。


 バサッ!

 ドシンッ!


 うん。重さを忘れてましたね。

 数歩先の草の上に突如あらわれたふたつの道具。おおできたよと、顔が思わず綻んでしまうほどイメージどおりで大変満足なのだが、大きいものは当然重いわけで。特にガラス瓶が。


 地響きと風圧がすごかった。



「………これは?」



 風圧で乱れた前髪をかきあげ、しばし無言で袋と瓶をみつめた後、ルーカス氏がきいてくる。



「見てのとおり、袋と瓶です」



 相変わらず脳内でテーマソングを再生しつつ、見たままを律儀に答える。

 よい仕事は円滑なコミュニケーションからですよ。



「ずいぶん大きいようですが……?」

「そりゃあのスズメの羽と血を入れるんですから、これくらいいるでしょう」



 お次は塩とハーブだけど、料理の基本は材料とおなじ土地のものを使うと、どこかで読んだ気がする。



「ルーカスさん、このあたりに塩の採れる場所はありますか?それとハーブなどが自生しているところは」


 ハネ…?チ……?とぶつぶつ呟いているルーカス氏に、きいてみる。なかったらまた出さなきゃいけないしね。



「…は? 塩、ですか。あの……料理に使う塩?」

「はいその塩です。塩湖や岩塩なんかが近くにありません?それからハーブ。あそこの森に生えてそうな気がしますが」



 わたしはスズメ(確定)の向こうに見えるファン○ルンの森(仮)を指した。

 あ~でも岩塩や塩湖はともかく、ハーブは生よりドライの方がいいかな~~。あ、煎ればいいのか。



「岩塩、は……ここから山ひとつこえた場所に採掘場があります。ハーブ、香草は貴女の世界と同じようなものがこちらにも存在しますが、あの森は魔の森と呼ばれ魔獣の討伐目的でもない限り入りませんので、それらが生えているかどうかはわかりかねますが……」



 先ほどの勢いはどこへやら。また困惑を身体全体であらわしながらも、ルーカス氏は答えてくれる。


 ふむ。岩塩とハーブは次回に譲るか。時間もないことだし。

 美人は困り顔でもきれいだなと余計なことも考えつつも、わたしは準備を切り上げることにした。

 さて、調理をするまえに、作業スペースを確保しましょうかね。



「ルーカスさん。調理、っと。え~駆除はじめますんで、騎馬の皆さんにどくように伝えてくださいませんか」



 なにせまだ超のつくほど魔法の初心者だし、袋と瓶の例から考えると、何かやらかさないとも限らない。

 やっぱり火を使う時は、まわりは片付けとかないと。火事になったら大変だしねぇ。


 まだ自己紹介もしてない新人、というか体験入社(?)の人間がお願いしても聴いてはくれないとおもうので、ここは派遣で言うところの指示命令者におねがいしましょう。


 そうだよ、元々わたしは、派遣の仕事だとおもって今日面接にきたんだし。ルーカス氏の言を信ずるならば、ここは異世界とやらだそうだけど、勤務地が予想と違っただけで、どこでやろうと仕事は仕事。責任者(推定)ルーカス氏もいるんだし、つかわにゃ損損!


 あ、でも後で、勤務地の要綱と危険手当の有無は書類を再確認しよう。だってほら、仕事はきっちりするんだし、危険物(魔法?魔術?)取り扱うんだし、報酬はそれに見合うものをもらわにゃ。ねぇ?



 な~んてことをつらつら考えながら、イタリアンハーブとアルプスの岩塩をしっかり魔法で召喚だか精製して、大きな盛りつけ用の皿まで準備したのに、ルーカス氏の声がいっこうに聴こえない。


 ん? さっきのお願いきこえてなかった?

 それとも、軍隊みたいに指文字かなにかで指示したとか?


 首をかしげて確認するも、さっきよりさらに人数の減った騎馬のひとびとは、スズメ(確定)のまわりで奮戦中。



「ルーカスさん? 駆除したいので、騎馬の皆様を」

「もう、宜しいのですか?」



 ホウレンソウは基本です。依頼は相手の返事をきいて初めて届いたと言えます。

 そう思って再度口にした依頼は、途中でぶったぎられました。


 あらあらルーカスさんたら、ちょっと俺様? ひとの話はとりあえず最後まできけって、誰かに教わらなかったのかしら?


 そんな内心の想いをおくびにもださず笑顔をうかべてルーカス氏をみれば、眉間にしわをよせてわたしと袋や瓶などの用具を見比べている。



「よろしいって、準備がですか? はい終わりですよ」



 きっとこの御仁は料理をしないのだろう。こっちにコンビニがあるのか知らない、というよりないだろうけど、レストランだのテイクアウトだので食事を済ませるから、生きたスズメ(確定)とこの用具でどうするのか想像できないのかもしれない。



「あとは、あのスズメをしめて、羽をむしって、血と内臓をぬいて、ハーブと岩塩をからめながら焼くだけです」



 うん。牛の肉なんかは熟成させるべきかもしれないけど、今回は鳥だし。しめたての新鮮な材料を使うならば、調理方法も味付けもシンプルな方がうまいに違いない。

 はい、ここでポイントです。

 塩とハーブは、最初からかけすぎないように。味をみつつ、焼きながら加えましょう。


 おおそうだ。



「絞めたり毛むしったりする作業は、慣れてないと気分悪くなるらしいですから、ルーカスさんも離れてた方がいいですよ」



 わたしは小さい頃から両親、とくに愛しの父上様により、魚も鳥も、自分で食うものは何でもさばけるように教えられてきたけれど、やはりそれは、一般的ではないようで。

 こっちの世界ではどうか知らないけれど、採用されればクライアントさまだしね。気を使うのに越したことはない。



「……はぁ。どうも、お気づかいいただいて……」



 頭痛でもするのか。ルーカス氏は右のこめかみを、そのほっそりとした指でもみがら、なんだか脱力したようにそう呟くと、騎馬軍団に陣をとくよう指示をだした。


 あ、普通に声かけるだけですか。


 ちょっとだけがっかりしながら待っていると、わたし達がこの原っぱについた時からずっと馬を巧みにあやつりつつ声をはって指示をだしていた、マントに金の縁取りのある隊長っぽい人が、ちらりとこちらをみた。

 彼我の距離はだいぶあるけれど、声も魔法で届くのだろう。便利ですこと。


 のんきに突っ立っているつなぎの怪しい女と、スーツ姿の華奢な男。まわりには、でっかい袋と瓶と塩とハーブと皿。


 彼はこの光景に不安を覚えたのだろう。深くかぶった兜で顔こそ見えないけれど、一瞬ためらったように首をふった。

 が、それでもルーカス氏が再度うながす前に、鋭い声で部下たちを散開させた。




 OKそれじゃ、レッツクッキング!


 騎馬君たちが退いたとたん、三本の太い縄を羽と胴体ににかけられたまま、強引に跳びたとうとしたらしいスズメ(確定)くん。ちょうどいい具合に首を上にのばしているので、それをそのままポキッとね。


 あ、予想外に音が大きかった。ルーカス氏は大丈夫かな。



 はいここからはスピード勝負。ジビエですからね。臭みが出ないように、ちゃちゃっと処理しましょう。

 まず羽毛をむしって~。

 あとで布団とかクッションに使えそうだから、血がつかないように、羽毛を袋に入れて~。


 ルーカスさん、見ないようにねー。なんて思いつつ、丸裸にしたスズメ(確定)のお腹をさいて内臓を消去。

 おお。掃除機で一気に吸い込む感じをイメージしたら、消えました。それをロートをさしこんだ瓶の上に移動させ、首をちょいと切って、逆さに固定。


 あ、そうだ。これ魔獣だし、ファンタジーものでよくあるように、嘴とか爪とかも武器の道具や錬金アイテムとやらで使えるかも。

 あ~内臓もとっときゃよかった? もったいないことしたけど匂いがな~。しょうがないか。消しちゃったし。 

 なんてぶつぶつ呟きつつも、血を抜いている間に、スズメの足と嘴はさっくり切っておく。


 お、瓶の容量足りたな。どのくらい血があるのかわからなかったから、大きめの瓶にしといてよかった。


 しかし魔法って本当に便利だ。

 よく研いだ包丁やナイフでも、鳥をさばいていると脂で切れ味が鈍って手こずる場合もあるのに、切れてるところを想像するだけで、プシッとかまいたちのごとく切れてくれる。

 血だって、早くぬけろと念じれば、あっという間に瓶の中に吸い込まれていった。


 なんといっても後片付けがいらないってのが、いいよね!


 ほんとは綺麗にしたお腹にワイルドライスもつめたいとこだけど、このスズメ(確定)にあうかわからないし。これも次だな。


 血がこばれないよう、それで他の魔獣を呼び寄せたりしても面倒なので、ロートにしたたる血まですっかり瓶にすいこませて、密封。

 滴る脂も大事なごちそう。ソースに使うしね。万が一にもこぼさないよう下処理の終わったお肉くんを皿の上空に移動させってと。


 ファイヤ!


 もっこもこの羽をむしったら、やっぱりスズメ。鶏ほどには丸々していないけれど、これだけ大きいんだし、じっくり弱火~中火で焼いて。ん~~30分くらいで様子見? それから徐々に味付けかな。

 肉全体を炎が覆っているのを確認してから、わたしは大事なことを思い出した。





 おお、お馬さんの応急処置しなきゃ。


さっそくのお気に入り登録ありがとうございます。

そして、あまりファンタジーらしくない出だしの物語を、ここまでお読み頂きありがとうございます。


次は明日の夜、投稿予定です。

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