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016 No,と言える日本人。

お待たせしました。地獄の締め切りが終わりましたので、復活です。

休んでいた4日の間に、お気に入り登録は1270件にまで増やして頂き、感謝感激でございます。

『そろそろ引っ越してきませんか』



『この世界で、暮らして頂きたい』




 うん。ずいぶん簡単に言ってくれましたね。びっくりですよ。


 たしかに扉を開け閉めすれば、こちらとあちらは簡単に行き来できる。ルーカス氏が毎日時間通りに迎えに来てくれ、わたしをこちらに連れてきてくれるのも、とても簡単そうだ。

 どうやってつなげているのか、どんな仕組みかなんて、数学的素養のないわたしには永遠に理解はできないだろうが。「界渡り」なんて大仰なセリフにまったくそぐわず、開けて~、閉めて~、はい終了。まさにど○でもドア。あぁ便利。


 あくまで、ルーカス氏にとっては、ね。でもたぶん、やり方もしくは転送陣? 魔法陣? があれば、わたしにもできるだろう。って言うよりやる。他人に生命線をにぎられるなんてあり得ないから。だから、それはいい。




 放浪の旅に出る前に住んでいた家は解約しているし、元から仕事が決まってしばらく定住することになれば、実家からでて仕事場の近くに家をみつけようとは思っていた。

 それがたまたま「異世界」だっただけで、言葉も通じ、上下水道ほぼ完備。電気ガスはないけど魔導で代用しているから問題ない。

 

 この世界はひとが少ないおかげで、土地が日本よりはだいぶ安いのだろう。セバスチャン検索&街で買い物した感覚では、物価はフランスの田舎町レベル。物の流通もそれに近い。

 現代日本のようにコンビニで24時間大抵のものが買えるわけでもないし、金をだせば季節はずれのもの、何千キロも離れた土地の物産が手に入るわけではないけれど、旬の美味しいものを、適宜食べられれば満足のわたしからすれば、ALLOK。どうしても欲しかったら、日本で買うか、魔導で取り寄せればいい。


 魔獣はでるけれどそれは自分で対処できるし仕事だし。治安はそこまで悪くなさそう。

 だって、いかにも高そうな身なりのひとが、供ひとり(見たところ武器なし)連れただけで、往来を呑気にあるいてる。ってことは、強盗や追剥を心配する必要はないってことでしょう?


 内戦・外戦はいまのところなさそうで、権力闘争なんかはいっかいの出稼ぎ労働者には関係ない。


 他の国は知らないけど、このサカスタン皇国は寒すぎないし、暑すぎない。昼夜の気温差もそんなにない。四季があるのかは後でセバスチャンに聞いてみなきゃだけど、現在の季節は……初夏?

 眼を閉じると瞼のうらが白くみえる(日本だと赤いよね)紫外線含有量の多そうな日差しと、爽やかに吹きすぎる風が、西欧の初夏を思わせる。空気がおいしいね。


 あとは国教か……。


 できればない方がいいけど、この国は一神教だろうか? キリスト教はないにしても、宗教施設らしき場所はある気がする。でも彫像や偉人? だかの像もあり、その周辺を綺麗に保ってるから多神教だろうか。だったらいんだけどなぁ。

 差別するわけではないけれど、神はひとり(ひと柱?)と信じ込み、自分の信望する神が唯一であると断言すると言うことは。違う神(=考え方)を認めないということで。あっきらかに排他主義につながると思う。


 お前何様だよと言いたい。



 わたしはそうやって脳内で指おり数え、住むのに問題がなさそうなことを確認した。


 最後の確認事項のネット環境は、セバスチャンがいるから、いいか。

 あぁいやいや、いいかなんて彼に失礼。ネットなんてつながらなくても、貴方がいてくれればいいのよセバスチャン。



 思わず左後ろにいる、愛しの執事様を見上げて笑顔を交わしてから(うっとりしてフリーズしかけたのは内緒)。わたしはルーカス氏に向き直り、口をひらいた。



「ルーカスさん。お手数ですが、不動産屋さんを紹介してください」

「………は?」


 はい、美人の「目が点」顔頂きました~。今日初めての、笑顔以外の表情ですね。


「あ、『不動産屋』が分からなかったでしょうか。え~っと、他人に貸せる部屋や家を持つ貸す側と、それを借りる側を仲介する業者のことなのですが。こちらにそう言ったものがなければ、貸し部屋か家をお持ちの方で、異世界人に貸すのに抵抗のない方を、ご紹介いただけますか?」


「……不動産屋は、わかります。あちらでオフィスを借りる際利用しますから。しかしユタカさん、家の件でしたら」

「ルーカスさん」


 俺様発動! ルーカス氏のお株を奪わんとする勢いで、話をぶった切ってあげました。

 ふふん。




「……なんでしょうか」


 最近気づいたけど、この方返事をする時や話しはじめる前のタメが長いよね。特に、自分の意見が通らないかもと察知した時は。

 そのきれいなラインを描く顎を引き気味にするところといい、構えている? それに近いと思う。


 ま、無視するけどね。



 わたしはにっこり笑顔を浮かべて、彼に世の理を説いてあげることにした。


「ワーカホリックって言葉をご存知ですか?朝から晩まで365日休みなく仕事ばかりして、仕事をしていないと不安になる病ですが、ルーカスさんもそれに罹患しているように、わたしには見受けられます」


「…日本やアメリカの都市部で生きる人々に良くみられるその病のことなら、存じております。しかし、私にそれが当てはまるとは思えないのですが」


「そうですか? ではちょっと確認してみましょう。わたしとルーカスさんは週4日、朝の9時か10時にルーカスさんが迎えに来てくださり、お昼をはさんで、2時か3時ごろにあちらに送って頂くまで、ずっと一緒に仕事をしていますよね。時には泊まり仕事まで」


「えぇその通りです。私としてはもっとい」

「で」


 はい、今はわたしのターンですから。口は挟ませませんよ。


「で。わたしはそれで仕事は終わり、あとはの~んびり実家の猫と戯れていたりしております。でもルーカスさんは魔導団の隊長を務めておられるから、わたしといない時間、早朝や午後遅く、もしくはその後もそちらの仕事をしておられる。違いますか?」


「えぇ…その通りです」


「つまりルーカスさんは、少なくとも…わたしの世界で言うところのウィークデイ、にプライベートの時間など、ほとんどないと。そしてこれはわたしの偏見かもしれませんが、ウィークデイに遊んだり休んだりしない、出来ない方は、休日でも休めない」


「……」


「さて。そんな状態のルーカスさんの家……あ、ここは別邸とのことですが、皇都にある以上、こちらでルーカスさんは通常暮らしておられますよね?」


「…はい」


「その家に、仕事相手であるわたしが居候なぞしたら、どうなります? 仕事も一緒、家でも一緒。気の休まる時なんて、なくなりませんか?同じ屋根の下にいる以上、休日でも顔を合わせるんですよ、わたしと」


 くどいくらいに噛み砕いた説明がルーカス氏の頭にしみわたるのを待つべく、わたしはそこで言葉をきった。



 ね~?すこしはご自分の言った事を理解してくださいましたか?プライヴェートと仕事はわけないと、身体に悪いですよ。


 そんな想いをこめて、すこし俯いて花茶の繊細なカップを見下ろしているルーカス氏を見つめていると。



「………ユタカさんは、お嫌、ですか?……わたしと休日も顔を合わせるのは」


 妙に慎重な手つきでテーブルの上の、お揃いのソーサーの上にカップを置き。なぜか意を決したように桜色の唇をひき結んだあと、そう聞いてきた。

 


 んん? なにをいうかと思えばこの人は。そりゃもちろん、


「はい。嫌ですよ?」


 No,と言える日本人。それがわたしです。

続きは明日中に。その続きはすでにできていますから、しばらくは日に一回更新できると思います。

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