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012  魔獣より怖い(ひとがいます)。

お気に入り登録は、もうすぐ1100件に届きそうです。評価ポイントは過去最高の3000PTに?


3000PT超えたらば、御礼と称してルーカス視点の小話でも入れようと思います。

「いえですから。わざわざうちまで迎えに来ていただく必要ありませんて。わたしが自分ではまだこちらに来れなくて、あのオフィスが今日だけのレンタルなのは分かりましたけど、それならあっちの、ルーカスさんの都合のよい場所で待ち合わせすれば済むことですよね?」


「しかし先程から申し上げておりますように、ユタカさんの家まで迎えにあがれば、その手間は省けますよね?」


「いやだからね」



 若干口調が荒くなったのは、ご容赦いただきたい。なにせこの押し問答、もう10分以上は繰り返しているのだ。


 たっぷり睡眠をとった後、迎えに来てくれたルーカスさんに連れられ、この書斎へと戻り。交渉した通りの条件が追加された三ヶ月期限の契約書を、無事取り交わし。

 魔術で保護されているので破いたり燃やしたりついでに失くしたりの心配(おそれ?)もないという、羊皮紙のような質感のそれを、持ってきたバインダーにほくほく気分で納めて。


 さ~て帰ったら家族に仕事が見つかった報告して、ビールで乾杯だと、カバンを持ってくれるセバスチャンとともに立ち上ったわたしに、ルーカス氏がさらりといったのだ。



「明日からはご自宅まで迎えにあがりますので」と。


 いや、契約書では対等な立場だから上司ではないにしても、仕事をくれるクライアント様に迎えに来てもらうって、どんなVIPだよ!


 明日は木曜日。フルタイムで働いている母上に、大学生の弟はいいとして。自営業で朝なら確実に家にいるだろう父上と、シフト制で平日休みが多く、「家より居心地いいから」と言って入り浸るため、かなりの高確率で遭遇するであろう従妹にルーカス氏を紹介する手間と危険を考えれば、迎えに来てもらう選択なぞ、あり得ない。


 それ以前に、わざわざ来てもらう意味が、わからない。しかも「から」ってなに?


 え、それとも何ですか? とんずらしないかと心配ですか? それともそれとも、契約書に書いた内容に嘘がないか、家探しでもしようってんですかね。


 ルーカス氏の底が見えないのは笑顔だけでなく、考え方そのもののようだ。が。どちらにせよ、



「もうほんとにお迎えは結構ですから。大体」

「―――優様。待ち合わせは本日お越しになった貸しオフィスの最寄駅、その前にある、ド○ールでいかがでございましょう」 


 いいかげんループに陥りかけていた会話に、切れたわたしが口を開く前に。それまで影のごとく後ろに控えていたセバスチャンが、そう提案してくれた。


 なぜ○トールがあるのを知っているかは、謎だけど。元スマホだし、この書斎でもアンテナ三本たってたから、脳内ネットでさくっと調べてくれたのかもしれない。



「あ、いいねそうしよう。ルーカスさん、そこにしましょう。ね、決まり。そこに朝9時? あ、10時がいいですか? じゃあド○ールの1階の入口はいってすぐのカウンターで、わたしの世界の、日本標準時の朝10時に待ち合わせで」



 無表情笑顔でこちらを見つめるルーカス氏に、渡りに船とばかりにたたみかける。


 はいもう今日の仕事は終わりっ。わたしはさっさと帰りたいんですよ。


 我が優秀なる執事どのは、そんなわたしの心の内をしっかり読んでくれ、慇懃な態度と笑顔をみじんも崩さず、明日の待ち合わせ場所の確認ですと、

 くだんのド○ールまでわたし達を送らせるべく、ルーカス氏を操作していた。


 うん、鉄壁のディフェンス。ん? でも操作だからオフェンス?

  ………まぁいいや。帰れてビール飲めたから。



 ○●○●



 そして本日は、お掃除業務ではないのですかね?



 一ヶ月前から始まっていたと思われる、セバスチャンとルーカス氏の静かな攻防を思い返しているうちに、と言っても一瞬でついたそこは、あれから何度かお邪魔したことのある、ルーカス氏の別宅の書斎だった。



 相変わらず美術館か博物館のような調度品ですね。我が家の、猫の爪とぎと成り果てている坐椅子、持ってきて良いでしょうか。もしくはこの靴が沈むほどに柔らかい絨毯に、直座りでもいいのですが。


 最近は、皇国の国境近く森や、洗濯ものが万国旗のように干されている下町、そして鉱山などの清掃場所への直行直帰ばかりで。しかもそれがとても快適であったので。ルーカス氏の背景としては実にしっくりくるこの書斎の雰囲気が、なんとも落ち着かない。


 別に自分が場違いだと卑下しているわけではないし、匠達が丹精こめてつくった芸術品ともいえる家具は美しいと思うし、嫌いではない。ただ、ここでくつろぎたいとは思えないだけだ。




「ユタカさん。貴女がこちらで働きはじめられて、そろそろ一月になります。いかがですか。なにかお困りのことはありませんか」


 執事(で合ってました)のグレアムさんが入れてくれた花茶を前に。いつかのように指を尖塔の形にあわせてルーカス氏が問うてきた。


 ふむ。もしや本日は、試用期間から本採用に移行する前の、面談をするつもりだろうか。



 約一ヶ月前にここで取り交わした契約書の期間は、三ヶ月。開始から一ヶ月は試用期間をもうけてもらい、労使双方が相手の適性を見極め、契約期間続行の意思を確認する。たしかにそう決めた。


 わたしとしては、最初の報酬を手にするまでは完全には気を抜けないけれど、ハーピー(スズメくん)販売時における連絡、支払時の対応のよさと誠実さ、その他の契約事項もいまのところ過不足なく守られていることを考慮すれば、このまま契約続行を望むところである。


 あ、ルーカス氏の送迎はそろそろやめてもらいたいですよね。過不足で言えば足りまくりでむしろ、遠慮したいですよね? これも「お困りのこと」に含んでいいんですよね?



「お陰さまで、仕事面での困っていることは、ないです。が、ひとつ難を言えば」

「実は私も困っていることがあるのですが、きいて頂けますか」



 うん。貴方は本当に、俺様ですね。自分で訊いといて、途中でさえぎるってどうよ?


 わたしは思わず、花茶の繊細なカップ越しに、無表情笑顔の美人を睨みつけようとして……やめた。



 違うな。ルーカス氏の地は間違いなく俺様だろうけれど、いまのは違う。自分の聞きたくないことだと敏感に察知して、日頃の慇懃な態度もどこへやら、先制攻撃をしかけてきたのだ。


 もちろん、素直に聞いてなんかあげないけどね~。



「ひとつ難を言えば、多忙な魔導隊長にわざわざ毎回送り迎え頂くのが、非常に心苦しく感じておりましたから。わたしもこちらにだいぶ慣れてきましたので、そろそろ自分だけで渡ってこれるようになりたいなと思いまして、その方法をご伝授頂けないかと思うのですがどうでしょう?」


 ふふん、スルースキル発動です。そして口をはさめないよう笑顔で一息に言いきってやりました。



「……そうですか」



 おっほぅ。


 なんでしょう。この一ヶ月、どれだけ恐ろしげな外見をもつ魔獣にも発動しなかったわたしの警戒警報が、いま、最大音量で鳴り響いてますよ。もちろん脳内ですが。

 警戒対象はもちろん、目の前に座るルーカス氏です。



「ユタカさんの方からそう言って頂けると、丁度良いです。実は私の困っているというのも、その件に関係しているのですよ」



 無表情笑顔ではなく、見た目だけなら花も恥じらう素敵笑顔を浮かべておられますが、はっきり言って怖い。なんすか。なにが嬉しいんですか。

「私もそう思ってました」と捉えられなくもない言葉なのに、そう思えないのは、そして答えたら負けな気がびしばしするのは、何故でしょうか。


 いま座っている、カーブの美しいひとりがけの椅子の後ろにセバスチャンが間違いなくいるのを、振り向いて確認して。その慈愛に満ちた微笑みに萌えと勇気をもらって。

 わたしはルーカス氏の言葉の続きを待った。

いつもお読み頂きありがとうございます。

つぎの更新は、明日中できるよう、気張ります。

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