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010 ハートを射抜かれました。

お気に入り登録1000件こえました。少々震えております。


 イエス! イエス! 成功しました。お父さん、お母さん、ついでに不肖の弟、姉ちゃんはやったよ! 


 イメージ通り、いや、イメージしたよりも数段素敵なおじ様の登場に、わたしはここが図書館でなければ大声で叫んでしまうところでした。

 もちろん心の内では大絶叫です。ワールドカップ出場を決める一戦で、先制点をあげたくらいの雄たけびです。皆ありがとう! すべての人に感謝します! それくらいです。



「……ユタカさん。これは」



 あ、はいはい。ルーカスさんを忘れていたわけじゃぁありませんよ。だからちょっと距離をあける必要も、そんな冷たい声を出す必要もないですよ?



「見てのとおり、わたしのスマートフォンを擬人化させた、セバスチャンです」

「………『セバスチャン』、ですか」

「はい。手始めに彼にこの図書館の蔵書のうち、制限のないものをすべて記憶してもらって。わたしだけの検索エンジン、この世界における指南役になって頂こうと思いまして」



 ニタニタと笑ってしまう顔をそのままに、頭半分上の位置にある柔和なセバスチャンの顔を、ね? とばかりに見上げれば。



「ご主人様のお望みのままに」



 手袋につつまれた手を左胸に軽くあてて、恭しくお辞儀をしてくれる、セバスチャン。

 完璧です。



「―――『指南役』は、私では、不足だったのでしょうか?」



 んんんんん?

 わたしのストライクゾーンをガツンと打ちぬく素敵セバスチャンに見惚れていたら、なんだか地の底を這うような低い声が聴こえてきましたよ?



「私は先程、できうる限りご協力させて頂くと、申し上げたはずですが。……お聞き頂けていなかったのでしょうか」



 え、やだ、なにこの人。コワイ。


 声のした方向をみれば、なぜか無表情笑顔の復活したルーカスさんで。先程までは秀麗な顔を、まるで後光がさしたように縁取っていた金髪が。なんだかメドゥーサの髪のように逆巻いて見えるのですが――――――気のせいですよね。



「グラヴェト様」



 せまい書庫なので限りはあるものの、出口に向けて後ずさっていたわたしと、それを追いかけるようにわざわざ机を回りこんできたルーカスさんの間に、セバスチャンがすっと割って入った。



「我が主人はただ、多忙なグラヴェト様のお手を煩わせずともすむようにと、願ったまででございます。どうぞこちらはわたくしめにお任せいただき、お仕事にお戻りくださいませ」



 素敵すぎるよセバスチャン。わたしのイメージは執事だけだったはずなのに、無意識のうちにナイトも付け加えていたのだろうか。

 あぁ目の前の広い背中、瞳の色と同じグレイのお仕着せでは隠しきれない、鍛えられた厚みのある肩に、すがりつきたい………。


 なんちゃって。



「セバスチャン、『ご主人さま』呼びはむずがゆくなるから、出来れば名前で呼んでくれる?」



 広い背中に触れるのはなんとか我慢し、横に並んでお願いすれば。



「畏まりました、ゆたか様」



 優雅な一礼で答えてくれる。

 ふっ、毎回その所作に見惚れているようでは、ご主人さま失格ですね。自重せねば。



「それでセバスチャン。ダウンロードにどれくらいかかりそう?」

「この身に変えて頂いた折に、三割ほど終わっておりましたので。情報整理、精査、データベース化と合わせまして、二時間ほどいただければ」



 おお。スパコン「京」とまではいかないけど、情報センターのサーバーぐらい処理が速かったらな~なんて、考えていたおかげでしょうか。

 セバスチャンがスーパーマシンになっていました。



「了解。頑張りすぎないでね?」

「お任せください」



 セバスチャンは微笑みながらそう答えると、ダウンロードに集中するためか、すっと目を閉じた。


 おぉう、けぶる双眸が見えないのは残念だけれど、目を閉じたことでひいでた額と奇麗に鼻筋のとおった鼻梁が強調されて、またなんとも………。



「ユタカ、さん?」



 ふふ。また見とれてしまいましたよ。声の冷水を浴びせてくださり、ありがとうございますルーカスさん。おかげで正気に戻れました。



「ということで、ルーカスさん。お聞きの通り、ダウンロードには2時間以上かかりますので、お付き合いいただくのも申し訳ないですし、書斎で確認させて頂いた条項をかいた契約書の準備などもして頂かないといけませんから、とりあえずここでいったん解散、ということでどうでしょうか。

 さきほどお使いになった紙をお貸しいただいて、使用方法をお聞きすれば、ルーカスさんの書斎にはたどり着けると思いますから、ダウンロードが終わり次第、またお邪魔させて頂きます。

 本日は『体験清掃』ということでしたから、そこで契約書が完成していれば確認して、取り交わして。その後お手数ですが、わたしの世界……あの面接会場で結構ですから、送っていただけませんか?」



 今後の段取りを組み立てて、どうでしょうと碧い瞳をみかえせば。



「……わかりました。二時間後に、こちらにお迎えにあがります」



 あれれれれ?もひとつレレレのレ?

 無表情笑顔MAXと表現したくなるような表情の、ルーカスさんがいますよ?髪は逆立ってはみえませんが、なんだか青白い炎のようなものが後ろにみえます。


 ………まぁいいや。

 なにが地雷だったか知らないけど、きっとあの紙は門外不出とかなんだろう。言った通りの契約書さえ作ってくれれば、なにも言うまい。



「ありがとうございます」



 笑顔で御礼をかえせば、眉間にくっと皺をよせてから、ルーカス氏退場。




 さてさてそれではわたくしは。



「セバスチャン。集中して仕事してもらってるとこ、申し訳ないけど。ちょっと眠くなってきたから、待ってる間に寝てていいかな?」



 わたしが彼をつくるときにイメージしたのは、「できるだけ早く簡単にこの図書館の閲覧制限のかかっていない蔵書すべてをダウンロードできる能力も持った、素敵な執事のおじ様」という、甚だざっくりしたもので。実際に彼がいまどんな魔法を使っているのかは、知らない。


 なので、聴こえるかなとおもいつつも、目を閉じてひっそりと佇むその端正な横顔に小声でよびかけると。ふっさりとした睫毛をあげ、けぶるグレイの瞳を開けて微笑んでくれました。



「もちろんでございます、優様。お風邪を召されませんよう。お休みくださいませ」



 はい、射抜かれました。ハートです。

 さらには言葉とともに、どうやってだかわからないけれど出してくれた、ふんわり柔らかい枕を目の前の机の上に置かれ、軽いショールをそっと肩にかけられた日には………。

 


「オヤスミナサイ……」



 とろけた赤い顔を枕に沈めるしか、ないですよね。

セバスチャン、皆さまにご好評頂いたようで、何より。

わたしも彼のような執事が欲しい、甘えたいです。現実にはそんなお金も器量もありませんが。


しかし、やっとこれで初日がおわりです。先は長い……。

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