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第1話第一章-① さ迷う亡霊

ある程度書き溜めている分を投稿。ストックが切れる前に続きを書かないと(苦笑)

 少しうたた寝をしただけのつもりだったが、ウィルが目を覚ました時、中天にあったはずの太陽はすでに沈みかけ、血のように赤い最後の断末魔を見せていた。窓の外を流れる風景は、いつの間にか何もない荒野から石造りの建物が建ち並ぶ街へと変わっており、夕焼けの中うっすらと赤く染まっている。ふと喉が渇いている事に気付き、ウィルは荷物の中からさっきの駅で買ったお茶のビンを取り出した。

こういった携帯の容易な飲食物を売る商売は、鉄道の発達による長距離旅行者の増加に伴いあっという間に普及した。今ではどんなに小さな駅でも列車が到着するとすぐに弁当売りがやってくるほどだ。中身を喉に含むと、若干生ぬるくなってはいたが、じんわりとしみ込んでくる水分が心地いい。目的地まではもう少しありそうなので、全部は飲まず、残りは荷物に戻し、背もたれに体を預ける。


「ここがミスラントか……」 


 感嘆混じりの声で誰かがそう呟くのが聞こえた。見ると乗客の内の何割かは窓に張り付き、感嘆と驚愕を顔ににじませながら、食い入るように街の風景を眺めている。地方から出てきた観光客といったところだろう。各地の街や村が鉄道で結ばれるようになり相互の行き来が容易になりつつあることを受け、ちょっとした観光ブームが起きていることはウィルも知っていた。最もなんだかんだでそれなりに金がかかるので、まだまだ庶民には縁遠いものではあるようだが。

 確かに窓から見える風景は、石造りの建物やガス灯、道を行き来する大勢の人や馬車など地方では目にすることの出来ないものばかりで、彼らが声を上げるのも分からなくはない。戦争で荒れ果て、いまだ復興もままならないモラーザとは大違いである。

 まだ駅には着かないようだ。外を見るのをやめ、ウィルは、席に深く座りなおすと目を閉じた。もう一度寝なおそうと思ったのだが……周囲の喧騒が、気になってどうにも眠れない。

普段なら余計な音は意識しないよう、上手く脳の切り替えをするのだが、今はそれが上手く出来ない。どうやら自分で意識している以上に、疲れが溜まっているようだ。


(無理もないか。この数日、ほとんど休みなしに動いていたからな)

 

 仕方がないので眠ることを諦めたウィルは、新聞を取り出して読み始めた。移動中の暇つぶしになれば

と、お茶と一緒にさっきの駅で買ったものだ。荒い印刷の一面には、「五つ目の凶行から三日。連続殺人犯いまだ捕まらず」という見出しがでかでかと書かれ、現在この国を騒がせている連続殺人事件に紙面が大きく割かれている。

二ヶ月前、小さな街で酒場の経営者が路上で何者かに惨殺されたのを皮切りに始まったこの事件、一連の犯行の場所もばらばら。被害者の共通点もなし。ただひどい殺され方をしている点が共通していることから同一犯の仕業と見られ、警察は必死で犯人を追っているが、いまだその尻尾すらつかめていない。三日前、ミスラントからほど近い街で新たな被害者が出たことで、改めて人々の間には不安と警察への不信の声が広がっていると記事には書かれていた。

 物騒な話ではあるが、人死にが日常茶飯事という街で生まれ育ったウィルには、特に思うこともない。むしろ周囲のほうが無駄に騒ぎすぎているように思う。

 何故なら、死は決してなくなることなく、常に人間の側にあるからだ。少なくとも、世の中の大部分の人間が考えているよりはずっと身近な存在なのである。それとも、皆は気付いていない振りをしているだけなのだろうか。だからこそ、目を背けている事実を無理矢理にでも思い起こさせるような、こんな事件を恐れ、その犯人を恐れるのかもしれない。

 もの思いにふけりながら、新聞を読みふけることしばし。

 一通り記事に目を通して、ふと窓の外を見ると、景色の流れが、だいぶ緩やかになっている。さっきまではあっという間に後方に過ぎていった街並みだが、今は夕闇に染まった一軒一軒の建物を観察するゆとりすらある。どうやら駅が近いらしい。


「ミスラント新市街~ミスラント新市街。お降りのお客様はお忘れ物などないように~……」


 小刻みな振動と耳障りなブレーキ音ののち、大きく一回車体が揺れ、そして収まった。車内を回りながら声を張り上げ、駅への到着を告げる車掌に急かされるようにして、乗客たちはばたばたとあわただしく荷物を持ち、ホームに降りていく。

 まるで一分一秒を惜しむかのようなその様子を、ウィルはどこか冷めた気持ちで眺めていた。

 せわしないことだ、とウィルは思う。そんなに生き急いで何になるというのだろうか。どれだけ頑張ったところで、人間はせいぜい百年足らずしか生きられない。そして何より、人の運命ほど先が見えず、あてにならないものはないと、ウィルは自身の体験からそう認識していた。どれだけ健康に気を使っていようが病魔は容赦なくやってくるし、どんなに良好な人間関係を築いていても、くだらない逆恨みをされたあげく殺されることも珍しくない。

 強者の気まぐれ一つ、運命のいたずら一つで、何年もかけて積み上げてきたものも自身の命もたやすく失う。人間なんて所詮その程度のものでしかない。

 そしてだからこそ、やるべき事ぐらいはきちんと成し遂げておかなければならず、自分はまだ、果たすべきことを果たしていない。

 ふとホームの片隅にある案内板に目をやると、そこには少しかすれた文字で「ミスラント新市街← →ミスラント旧市街<終点>」と記されているのが見えた。どうやら目的地まではもうすぐらしい。


(そうだ、もうすぐだ・・・・・・)


 もうすぐ目的のものに手が届く。いや――


(届かせてみせる)


 列車が大きく一つ振動し、ゆっくりと走り出す。動き出した車内で、堅い背もたれに体を預けながら、ウィルはぽつりとそうつぶやいた。




 歴史ある大都市として多くの観光客を集めるミスラントだが、河を挟んだ東と西で大きくその姿が変わるということは意外に知られていない。

 近年急速に開発が進んだ河の東側は、綿密な都市計画に基づいて事業が進められたことにくわえ、その建造物のほとんどが建てられて間がないこともあり、地区全体に明るく整然としたイメージがある。一般に観光地として知られるミスラントのイメージはだいたいがこちらのものだ。

 だが、川を挟んだ対岸、西側の旧市街に入ると、ミスラントの街はがらりと違った顔を見せる。

 この国の成立以前から存在する古い町並みは、補修と拡張を繰り返して今に至った代物で、地元の人間でさえ全容を把握していないといわれている。特に旧市街の西に位置するスラム街は、それがことさらに顕著だ。

 無秩序に建てられた町並みが日の光をさえぎり、通りは昼間でさえ薄暗く、じっとりと湿った雰囲気が漂っている。複雑に入り組んだ路地は風の通り道としての役目を果たさず、よどんだ空気は溜まる一方だ。道端には薄汚れたぼろを着た人影がいくつもうずくまり、目の前を通り過ぎる者にうろんな目を向ける。

 不用意に足を踏み入れれば無事には出てこられない魔窟。暗黒都市の異名を持つモルグリスと並び恐れられた犯罪と悪徳の巣窟。何も知らないよそ者が迂闊に迷い込めば、無事に出てくることは出来ないといわれ、ミスラントの住人でさえ近づきたがらないその地区を、ウィルは歩いていた。辺りはすっかり薄暗くなり、ところどころの軒先に吊るされたランプの頼りない明かりがぼんやりと道を照らしている。

 異臭混じりの淀んだ空気も、異物に対して向けられる敵意のこもったまなざしも、彼にはなじみの深いものだ。といって好ましいというわけでもない。どうでもいいというのが一番適切な感想かもしれなかった。そうだ、今の自分にとっては、そんなものはどうでもいいことだ。


(あいつがこの景色をみたら・・・きっと顔をしかめるんだろうな。ここはあの街によく似ているから)


 頭をよぎるのは、平凡とは程遠い街に育ち、それゆえに平凡な日常を何よりも強く求めた少女の姿。しかし少女も彼女が守ろうとした子供たちもすでにこの世にはいない。いるのは死にそびれた亡霊のみである。


(生きているのに亡霊というのも変な話だが)


 今の自分を指すのにこれだけ適切な言葉もそうはあるまい。唯一つの目的、いや、妄執に縛られ、それを実行するためにのみ、こうしてこの世に存在しているのだから。

 そんなことを考えながら歩いていたウィルは、ふとある店先に傾いてぶらさがる一つの看板に目を留めた。元々間に合せ程度のものだったのだろうが、薄汚れて、ところどころ壊れたそれは、今ならゴミと呼んでも差支えがなさそうだ。もしも新市街辺りの道端にこれが落ちていたならば、清掃業者は間違いなくこれをゴミだと判断するだろう。


「どうやらここだな」


 仲介役の男に告げられた取引の場所。汚れ、かすれた看板にわずかに残る「悪酔い羊」という店名を見て取ると、ウィルは店に入った。

 外のそれとは又違う、酒と料理とタバコと少量の麻薬が入り混じった臭いが鼻をつく。さして広くもない店内は、客数を稼ぐためか多めに置かれたテーブルのため、更に狭苦しい。その狭苦しい店の中には、まだ宵の口にも関わらず、店内には結構な数の客がたむろし、思い思いに酒盃をかたむけたり、カードに興じている。


(荒事の場としてはいまいちだな、人も物も多くて動きにくい。姿を隠せる場所に困らなさそうなのはありがたいが……)


 長年の習慣から来る癖というのは、なかなか消えるものではない。初めての場所に行った時、そこが戦いに適しているかどうかそれとなく観察するのは、あの街で生き残るための常識だった。ともあれ、そうした観察を兼ねて店内を見渡すと、隅の方で新聞を片手にちびちびと酒を飲んでいる男が目に付いた。その耳には男物にしては派手な赤いピアス。どう見てもまともではない客層のこの店の中でも、そいつは一際普通ではない空気をまとっている。


(あいつか……)


 仲介役から聞いていた特徴とも一致する。ほぼ間違いなく、奴が自分の待ち合わせ相手だろう。

 人ごみをよけて席に近づく。どうやら気付いていたらしく、男もこちらに視線を向けている。警戒心を滲ませこちらをうかがう灰褐色の目の光はなかなかに剣呑で、その事からも男がただの酔漢ではないことはうかがい知れた。


「『注文の品は届いたか。ピアスとイヤリングを13対ずつだ』」


「『今ついた』」


 仲介役に教えられた合言葉を告げると、男の警戒がやや薄まる。そうして返って来た答えは、間違いなく仲介役から聞かされた交渉役のしるしだった。男は、とりあえず座るようウィルに促し、それを確認するとおもむろに口を開く。


「ようこそ、ミスラントへ。さて、前置きは抜きにして仕事の話を始めていいかい?」


「ああ、こちらもそのほうがありがたい」


 声の音量を抑えているのは、万が一にも自分の話が他人に聞かれるのを防ぐためだろう。この騒がしい酒場の中で、そんな心配は無用ではないかとも思うが、彼らの仕事において情報の秘匿は極めて大事なことだ。神経質にもなるのだろう。なので、それを特に気にすることもなく、ウィルもうなずきながら、小声で答えを返す。

 自分がこの街に来たのは観光が目当てじゃない。ずっと探していたものの所在を掴むため、この街に拠点を持つ裏の情報屋組織に接触することが目的だ。一刻も早く情報をと逸るウィルの気持ちを感じ取ったわけではあるまいが、男のほうも仕事に関係のない話は好かないらしい。

 メンバーの印である赤い耳飾をしゃらりと鳴らすと、情報ギルド『ささやく耳』の構成員は狭い丸テーブルの上に数枚の資料を並べた。


「オーケイ。ではまず結論から言う。お前さんの探し物の所在が分かった――ほかでもない、この街だ」


「なんだと……!?」


 いきなり飛んできた予想だにしなかった言葉に、ウィルは思わず立ち上がった。我に帰り、慌てて辺りを見渡すが、いずれの客も自分のことに夢中なようで、幸いにもこちらに興味を覚えた様子はない。

 いくら驚いたとはいえ、こんなところで大声を出すほど取り乱すとは。

 自分の不用意さを内心で罵りながら、ウィルが改めて席に付いたのを見て取ると、男は再び口を開いた。


「順を追って話そうか。まずあんたの探し物があったのはモルグリスだ。聞いたことくらいはあるだろう、この街のスラム街が可愛く見えるってぐらいに、ステキに最悪な街さ。で、四年前にそこでちっとばかり大きな抗争が起きた。アンダーヒル一家というそれなりに大きな力を持ってたグループのアジトが奇襲を受けてな。詰めてたメンバーは皆殺し、幹部連中も大勢やられた。それが原因で組織そのものが瓦解したってオチなんだが…・・・そのごたごたに紛れてメンバーのいくらかは雲隠れした。組織の金やら何やらを手土産にな。そして」


「この街にもそうして逃げ込んできた奴がいるということか」


「そういうことだ」


 わが意を得たりと、ピアスの男がうなずく。彼の話によると、事件が起きた頃、ミスラントは鉄道の開通騒ぎと、それに伴う急開発の真っ只中だったらしく、それに伴い大勢の人間が流れ込んできていたらしい。すねに傷持つ裏の人間が潜り込むにもちょうどいい状況だったはずだ。

 説明を終えた男がグラスを傾けるのを見ながら、ウィルは当時のことを思い出す。

 確かに、あの時殴りこんだのは、奴らの本拠地だけだった。出会った奴は残らず始末したが、逃げ延びた奴もそうとういたはずだ。だが、どれだけの人数が生き残り、どこに雲隠れしたのかを知るのは容易なことではなく、だからウィルは昔馴染みの伝を頼って、プロの情報屋に依頼をしたのである。


「それで、その中の誰が、俺が捜している相手かは分かったのか?」


 ウィルの問いかけに、しかし男は不本意そうに顔をゆがめ、小さく首を横に振った。


「すまないがそれは不明だ。言い訳のようになってしまうが、モルグリスの、それも裏の世界の住人てえのはまともな戸籍すらないのが当たり前って有様なんだ。やれるだけはやってみたが、騒ぎのどさくさに紛れて消えた組織の人間の一人一人を把握するなんてのは流石に無理だった。この街に逃げ込んできた元アンダーヒル一家の者とおぼしき奴のリストと、この中の誰かがお前さんが捜している奴らしいという曖昧な情報・・・・・・これで精一杯だ」


 男に促され、ウィルはテーブルの上に並べられた資料に目を落とす。確かにそこに記されているのは、元アンダーヒル一家と思しき人物に関するごくわずかな情報だけだった。現在の名前、住所、職業、家族構成、そして似顔絵。偽名である可能性や顔を変えている可能性、そもそもアンダーヒル一家に属していたのかなど、そういった情報はすっぽり抜けているし、これ以外にもこの街に逃げてきた者がいる可能性もある。前払いで要求された情報料と比べて、それに見合った物だとは言いにくいだろう。

 プロとしての矜持もあるのだろう、不本意な報告をしなければならないことに、男は顔をしかめているが、ウィルはさほどショックを受けてはいなかった。あの街の裏が、どれだけ性質の悪いものかなど、身をもって知っている。その上外部の人間ともなるとなおさらことを運ぶのは難しかったはずで、成果がゼロでもおかしくはなかった。そう考えると、この結果はむしろ上等といえるだろう。


「これで充分だ・・・感謝する」


 目的を果たすべく当てのない旅に出てから早二年。ようやく手がかりらしきものがつかめた。もしこの情報が外れだとしても、次に繋がる何かを得られる可能性は高い。少しずつ、だが確実に目的に近づいている事実に、ウィルは知らず唇を歪ませる。

 扉を開けて外に出ると、すでに辺りには夜の帳が下りていた。それに加えて、見上げた空にはいつの間にか分厚い雲がかかり、星も月もまるで見えない。それでも歩くのに支障がない程度に辺りが明るく、人通りが絶えないのは、あちらこちらに吊るされたランプの明かりのおかげだ。最近は、大きな街などでは、ガス灯など新しいタイプの街灯の設置が普通になっているらしいが、どうやらミスラントの旧市街はいまだその恩恵に与れてはいないらしい。

 数時間前、列車の窓から眺めた新市街の街並みの中に当たり前のようにガス灯が立ち並んでいたことを思い出しながら、ウィルはこれからの動きについて考えをめぐらせる。

 まずは何を置いても拠点の確保だ。コトは極めて厄介で、目的達成のためには入念な準備が必要となる。そうなれば、活動の拠点となる場所があるに越したことはない。野宿をつらいなどと感じる神経はとうの昔に消えうせているが、路上で眠って官憲の世話になるようなことになれば笑うに笑えない。あの街の出来事を罪に問うことは出来ないだろうが、あの街を出てから行ってきた、そして今回この街でも行おうとしている『探し物』も、法に照らし合わせれば立派な犯罪なのだから、ばれればかなり不味いことになる。

 だからこそ、人目につかない拠点の確保にウィルはいつも頭を悩ませているのだが、今回は幸運なことにちょっとした当てがあるため、この点について心配することはないだろう。

 となれば、次に必要なのは標的の詳しい情報だ。情報屋から仕入れた情報は充分に価値のあるものだったが、目的を果たすための判断材料としてみるなら、その情報量は極めて少ない。行動に移るためには、もう少し詳しい情報が必要だ。


(今から直接見に行って見るか?)


 だが、今から新市街に戻ろうとするなら、どんなに急いでも到着は夜遅く。不案内な真夜中の街を下手に歩き回っていると、不審者と見なされて警備局に通報される恐れがある。そんなことを思考しながら、もう一度渡されたリストに目を通してみると、所在地を示す欄の中に一つだけ、旧市街と記されている箇所があることにウィルは気付いた。名前を確認してみると、そこにはクラムゼ・スタールとある。聞き覚えのない名だが、あの組織にどれだけ生き残りがいたかすら自分は知らないし、そもそも偽名の可能性もある。気にすることはないだろう。そんなことより重要なのは、この男が旧市街に住んでいるということだ。

 今の自分の格好は、きれいにお行儀よく整えられた新市街では、どうしたって目立ってしまうが、よくも悪くも雑然としたこの旧市街ならば、例え調査が長引いて深夜になったとしても、自分が悪目立ちすることはないだろう。情報屋と会う前のわずかな時間だが、ざっと辺りを歩き回って、大まかにだが地理が頭に入っているのも大きい。

 ならば今夜のうちに、このクラムゼとかいう男の家や、その周囲の地形ぐらいは確認しておくというのも悪い選択肢ではない。そう結論付けると、ウィルはゆっくりとした歩調で歩き出した。

 ふと、服の上から隠し持つナイフの感触を確かめる。目的はあくまで偵察だが、場合によってはそのまま事に及ぶというのも有りかもしれない。そんな事を頭の片隅で考えながら、コートを羽織った死神は夜の街並みの中に消えていった。




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