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ざ・らいとすたっふ(6)

 大規模オンラインRPG〈エルダー・テイル〉日本サーバー最大の戦闘系ギルド、〈D.D.D〉。

 構成員の平均レベルでは〈黒剣騎士団〉に劣り、結束力では〈西風の旅団〉には及ばないなどと言われるものの、その数と綿密な組織化において右に立つギルドはなく、東日本最強のギルドという肩書きに異を唱える者は居ないだろう。

 ギルドマスターの〈狂戦士〉クラスティはアキバの街の自治組織〈円卓会議〉の代表も務め、実質アキバの顔と言っても過言ではない。


 そんな華麗な顔を持つ〈D.D.D〉の中において、決して表に顔を出すことなく、ギルドを、ひいてはアキバの街の平穏を守るために暗躍する精鋭達がいた。


「ザ・ライトスタッフ」


 これはそんな(おとこ)達の汗と涙と友情の物語である。

「すみません! 敵最終目標ロスト! 現観測地を放棄、再補足を試みます!」


 ユズコさんが念話にて女史に報告を入れる。


 山の中腹で戦域哨戒を行なっていたオレ達の眼下には、既にその8割程が既に倒された〈緑子鬼の将軍〉(ゴブリン・ジェネラル)の率いる中規模軍隊の成れの果てが広がっている。

 上から観戦していたボス達の戦闘は圧巻という他ない。

 その圧倒的な攻撃力と緩急を付けた進軍で次々と敵を分断し、上から見ていてもここしかないという場所に布陣しての各個撃破。1時間ちょっとの戦闘であっという間に現在のこの戦況だ。

 唯一の誤算が自らが乗る巨大武装車を捨ててまでの将軍の逃亡の速さ。

 あまりに一方的な戦況に油断していたオレ達のミスだ。


「はい! それは細心の注意を払って。定時連絡は3分毎で継続します!」


 幸いなことに再補足の為の索敵行動の許可は女史から出たらしい。

 オレは今まで見ていたこの眼下の渓谷を表す簡易地図をしまい、剣と盾を構え直す。


「ううー。なんだか労いと心配だけされてしまいました。怒られた方がまだ気分が楽ですよー」


「やっちまったのはしょうがないッスよ。大体の方向は予測付きますからどうにか挽回しないと!」


「ですねー。では私の召喚した〈森精霊〉(アルセイス)を先行させるので、ダル太郎は後方警戒をお願いするですよ」


「了解ッス。じゃ、急ぎましょう! あいつ逃げ足早そうっすから、上手く前に回らないと!」


 オレ達はゴブリン将軍が消えた渓谷の北西方面を目指し森の中を走る。

 普通であれば木々が生い茂り走って動くなど不可能な山中なのだが、ユズコさんが召喚した〈森精霊〉の特殊能力なのか、その精霊の通った後ろには獣道程度の広さではあるが木々のトンネルのような道が出来るため、それなりに素早い移動が可能だ。これなら追いつくことも可能かもしれない。


 5分ほど走っただろうか、不意に生い茂っていた木々が消え、目の前にちょっとした広場のように開けた渓谷の景色が広がる。

 想定していたゴブリン将軍の逃走経路に先回れるであろう観測予定地だ。


「観測地Bに到着です! はい! 周囲の警戒、見渡せる場所の確保に移行しま・・・ええっ?!」


 早速報告の念話を入れていたユズコさんの言葉が止まる。

 同時にユズコさんから少し離れた位置、渓谷の広場と森の境にその体を漂わせていた〈森精霊〉が、森の中から振り下ろされた無骨な〈ポール・アックス〉の一撃によって儚く消滅する。


 その森の中から、〈緑子鬼〉(ゴブリン)としては一際大きな体に禍々しい骸骨などを装飾にあしらった鎧を纏った姿がのそりと現れる。

 しまった、予想よりも早い。〈緑子鬼の将軍〉(ゴブリン・ジェネラル)だ。


 オレは咄嗟にユズコさんと敵の間に立ちふさがる位置に滑り込み、こちらに将軍の敵愾心(ヘイト)を向けるために〈アンカー・ファング〉のスキルを放つ。


「ユズコさん、逃げて! 南東方向からボス達も向かってるはずですからそっちに! あまり時間は稼げないッスから急いで!」


 こいつのレベルは62、数字的には現在のオレのレベルより低いのだが、何せ相手は〈レイド〉ランク。防御に専念したとても大して持つとは思えない。とはいえユズコさん一人が逃げる時間くらいは稼いでやる。


「で、でも、ダル太郎・・・」


「オレも後から追いつくっスから早く、急いで!」


「うう、わかった! 絶対センパイ達連れてくるから!!」


 躊躇していたユズコさんが走りだす。

 正直オレまで逃げ切れるとは思えないが、ここで2人とも倒される訳にはいかないし、少しでも時間を稼げばボス達が間に合う確率が高くなる。

 全く損な役回りだが、駆け出しとはいえオレは〈冒険者〉で〈守護騎士〉(ガーディアン)だ。仲間を、ましてや女性を置いて逃げるなんてわけにはいかない。


 巨体から振り下ろされた〈ポール・アックス〉の一撃が、構えた盾に叩きつけられる。

 さすがは〈レイド〉ランク。直撃した訳ではないのにこれだけでHPが1割も持って行かれる。

 オレの貧弱な攻撃なんてこいつ相手では意味をなさないだろう。反撃は完全に捨てて後方へ、後方へと体を下げつつ、あるかどうか分らない逃走のタイミングを探る。

 しかし襲いかかる〈ポール・アックス〉の連撃は止まらず、オレのHPはじりじりと削られていく。


「ちくしょう! 少しでも長く足掻いてやる! これで打ち止めだぜ、〈キャッスル・オブ・ストーン〉!!」


 残りHPが1割を切った所でオレは虎の子のスキルを発動する。

 〈キャッスル・オブ・ストーン〉は〈守護騎士〉のもつ緊急時に使用する最終手段的なスキルだ。

 10秒間だけではあるが、あらゆる敵の攻撃から受けるダメージを無効にすることが出来る。

 しかしその再使用規制時間(リキャスト・タイム)は10分と長く、1度の戦闘で実質1回しか使用できない最終手段だ。

 オレの残りHPはほぼゼロ。この10秒が実質オレに残された最後の時間というわけだ。

 しかし最後まで足掻くと決めたからには、この10秒も無駄にするつもりはない。

 ダメージが発生することがなく、防御をする必要がないこの時間を使って、オレはありったけの特殊攻撃スキルを放つ。


 「ひとつくらい効きやがれ、〈シールド・スマッシュ〉! 〈ウェポンブレイク〉!! 〈アーマーブレイク〉!!」


 〈レイド〉ランクのモンスターというのは、ほぼ例外なく相手の能力を低下させたり、相手の行動を阻害するような特殊攻撃に対する抵抗値が高く設定されており、オレの攻撃が効果を表す確率は極めて低い。

 実際、効果を発揮したのは相手の防御力を低下させる〈アーマーブレイク〉のみ。欲を言えば相手を数秒相手の動きを止めてくれる〈シールド・スマッシュ〉あたりが決まってくれれば次の手も打てたのだが、もはやこれで手詰まりだ。


 〈キャッスル・オブ・ストーン〉の効果が切れるまであと1秒。

 大理石のような光沢を帯びていたオレの身体が次第に光を失い元の色へと戻っていく。


「んだよ、畜生。ここまでかよ・・・」


 せめて最後まで目だけは瞑るまいと、目を血走らせ〈ポール・アックス〉を振りかぶる〈ゴブリン将軍〉を睨み返す。


 その瞬間、オレの身体を纏っていた魔力は消失する。

 無骨な錆びた斧刃を先端に持つ〈ポール・アックス〉がオレめがけて振り下ろされる。

 もはやあの攻撃を防ぐ手立てはオレには無い。



 ◇  ◇  ◇



「ガキィィィン!!」


 しかしオレの耳に聞こえてきたのは、鋭い金属音。

 オレの命を絶とうと、目の前まで迫っていた斧刃は、半透明な五芒星の光に跳ね返される。


「ふー間一髪。まったく無茶しおってからに。でもカッコ良かったぞ、男の子!」


 慌てて振り返ると、そこには左の肩にその身長程もありそうな大太刀を担ぎ、前に突き出した右手の呪符で印を結ぶボスの姿。


「ですが、中々に見所のあるルーキーです。全俺会議的にも今回のMVP最有力候補という下馬評ですよ」


 その言葉に前方に視線を戻すと、いつの間にかオレの目の前には長身のスーツを着込んだ後ろ姿。


 不意に現れたスーツ姿に、〈ゴブリン将軍〉は奇声を上げて再びその武器を振り上げる。

 しかしその武器が振り下ろされるまでのその瞬間、小さな影が懐に飛び込み、その両手、両足にグルカナイフの連撃を叩き込む。

 その攻撃の効果か、将軍は武器を振り上げたその身体を硬直させてもはや動くことができない。


「MVP、MAJIDE!?」


 既に〈ゴブリン将軍〉には興味がないかのように、その手足を硬直させる付帯効果付きの剣戟を放った本人は、オレの方を振り返って何故かびっくり顔だ。


「でゴザルな。そのレベルで〈レイド〉ランクに防御力低下を決めてお膳立てとは、だいぶポイントが高そうでゴザルし」


 続けて〈ゴブリン将軍〉の後方に広がる森の暗闇の中から、無数の苦無が襲いかかり、その巨体に突き刺さる。


「全く最後に手柄を横からかっ攫われるとはな。オレも焼きが回ったもんだぜ!」


 苦無に続いて、頭上から〈ゴブリン将軍〉を襲うのは、不揃いに尖った氷の塊の嵐。

 その攻撃魔法を放った本人は、ボスの後ろから、まるで悪役のような黒いローブ姿で歩み寄る。


「全くあんなタイミングで逃げ出すとは予想外でした。手こずらせてくれたものです。しかしこれで終了ですね」


 その言葉と共に身動きが取れずもがく〈ゴブリン将軍〉の首に、まるで死神の持つそれのような巨大な鎌の刃がかけられ、数瞬の後に振り降ろされる。


 それが300匹ほどのゴブリンの軍団を率いて進軍した〈緑子鬼の将軍〉(ゴブリン・ジェネラル)の最後だった。



 ◇  ◇  ◇



「うわーん! 本当にまにあってよかったですよー!!」


「うわ、ユズコさん! まった、ちょいまった!!」


 さっきまで切羽詰まった泣き顔だったユズコが、今度は満面の笑みでダル太に走り寄り、そのままの勢いで抱きつく。まあ、まさにリアル「オレを残して先に行け!」なんてされちゃったわけだから、もう気分はヒロイン。吊り橋効果でちょっとドキドキしちゃったりなんなりと色々あってもしょうがないだろう。

 まあこんなシチュエーションに耐性などあるはずも無かろうダル太は目を白黒させながら慌てている。


「なんというリア充っぽいシチュエーション。妬ましいでゴザル。妬ましいでゴザルよ拙者!」


「全俺会議も満場一致で吊るし上げで可決ですから!」


「公開処刑MAJIDE!?」


「くっ! まさかリアルオレを残して先に行け! がこんなところで! 俺以外で!」


 例の他のメンバー達は、端でうずくまりながら、何やらドロドロとしたオーラを発しながらブツブツとつぶやいているが、十中八九碌でも無い妬みなので聞くだけ損だろう。


 まあ、そんなこんなで色々と面倒ではあったけど、今回の騒動もこれにて一件落着。さっさと愛しの我が屋敷に帰って、お風呂にでも浸かって一息いれたいところである。


「あ先輩!、お風呂なら私もご一緒させてもらいたいですー!、センパイも一緒にお邪魔しにいきましょうよー」


「お風呂MAJIDE!?」


「いや、あんたは女の子モドキだから、一緒はダメだから」


「・・・・・・」


「いや、そんな上目目線で訴えかけてもダメ!」


「はい、という経過で多少の予定変更は有りましたが滞り無く作戦は完了です。はい。了解しました」


 山ちゃんも多分クラスティ君への報告が終わったのだろう、こっちに戻ってくる。


 しかしなんだろう、嫌な予感がする。


「討伐は完了しましたので、私達はこのままマイハマの〈灰姫城〉(キャッスルシンデレラ)に直行、警備の任に当たります。報酬の受け渡しもそちらで行いますので、先輩も同行願います」


「えーヤダ。絶対碌でも無いことが付いてくるし。私は帰る!」


「駄目です、却下です。事後処理を放棄して先輩だけ大きなお風呂に入って足を伸ばして、もふもふなベットに転がり込むなんて許せません!」


「いーやーだー! こら山ちゃん! 首根っこ掴んで引っ張るな! ダル太も助けろ! 私はかーえーるーんーだー! 屋敷でお風呂が! あと鰹節が!!」



「ええと、ボスと女史っていつもこんななんッスか?」


「ええ、概ねいつも通りなのですよ・・・」



 今日も〈D.D.D〉は平常運転だった。


とりあえず、これにておわり!!


今後、改稿のマークが付いても誤字修正とかだけだと思います。


と、とりあえず勢いで書いてみたこの話ですが、当人では正直どこが良くてどこが悪いのか既に分からなくなってたりします。


どこが面白かったとか、どこがつまらんとか、どこが分かりにくいとか、キャラ壊してるんじゃねえよとか、描写薄いんだよボケとか、1文1文長いんだよゴラとかご感想頂けると幸いでございます。


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