ざ・らいとすたっふ(5)
それは、平凡なプレイヤーだったはずの私、櫛八玉に訪れた小さな事件。
信じたのは勇気の心。手にしたのは〈神祇官〉の力。
すれ違ったままぶつかり合った思いは、光の中に消えてしまって。
手探りで進んで行く道が、本当に正しいのかどうか、迷う時もきっとあるけど。
立ち止まらずに駆け抜けた足跡は、きっと自分のこれからにつながって行くはずだから。
〈神祇官〉少女リリカルくしやたま、始まります。
「先輩、タイトルが違うばかりか、語呂が悪すぎます。
あと少女は無理です。年齢詐称甚だしいです」
「『俺会議』、前衛私とスイッチ! ケモノどもは私が止めるから『ゴザル』は〈調教師〉達を落として! 『厨二』は10時方向のアレに最大火力で!」
先輩は指示を出すと同時に、今まで戦列を支えていた『俺会議』と入れ替わりパーティーの先頭に立ち、高速詠唱にて次々と〈霊縛り〉の符を放ち〈ゴブリンテイマー〉の操る獣魔達の行動を止めていく。
その先輩の動きを切欠にして、他のメンバーも行動を起こす。
『MAJIDE』は相変わらずの無表情のまま、動きを止めた状態で密集した〈翼鷲馬〉や、〈魔狂狼〉に対して両手に持つ湾曲した巨大なナイフの連撃を叩き込み、『ゴザル』はその獣魔達の背後に隠れる〈ゴブリンテイマー〉達に忍び寄り止めをさしていく。
口から血を流し続ける顔色の悪い『厨二』は凄惨な笑みを浮かべながら、得意の〈デモンズ・ペイン〉で左前方から迫る後続の〈ゴブリン〉達を一瞬で焼き尽くす。
先輩に変わって後方に下がった『俺会議』にその『厨二』のガードを一時任せ、私自身も後方から襲いかかってきた〈ゴブリン〉数匹に対して、愛用のデスサイズ、〈カラミティ・ハーツ〉を振るう。
〈D.D.D〉のメンバー達も久々の先輩をリーダーとしての戦闘ではあるが、相変わらずその指揮は的確。既に敵軍団の半数以上を殲滅し、そろそろ〈パーティー〉ランクのモンスターもまばらに現れ始めているが、私達に大きな消耗はない。
本人に自覚はさっぱりないが、〈エルダー・テイル〉内においてクシ先輩は結構な有名プレイヤーだ。
〈神祇官〉が装備できる鎧の中ではほぼ最高の防御力を誇る(幻想級)アイテム〈源氏の鎧〉を身に纏い、装備したものを職にかかわらす〈武士〉 と同等の白兵武器を使用可能としてしまうという反則的な特殊能力を持つ、こちらも(幻想級)の〈源氏の篭手〉を持ち、その能力をもって〈アメノマ〉製の大太刀を大規模戦闘の最前線で振るう、〈三羽烏〉の一人。
そんな様から付いた二つ名が、
〈突貫黒巫女〉、〈レイドランクの黒姫〉、〈黒剣もドン引き〉。
しかしそんな猪突猛進なイメージを持たれそうな二つ名から裏腹、クシ先輩の真価は〈神祇官〉としての日本サーバー内でも1,2を争う程の経験と技能の高さにある。
〈神祇官〉は3つある回復系職業の中でも特に熟練を要する職業とみなされており、その理由はその固有回復スタイルである〈ダメージ遮断〉の特殊さにある。
この〈ダメージ遮断〉というのは厳密には回復魔法ではなく、魔法をかけた相手に対して一定量までのダメージを無効化する障壁、いわゆるバリアのようなものを創りだすという能力だ。
そのため〈神祇官〉には「ダメージを受けたから回復をする」というような後手の対応ではなく、「ダメージを受けそうな対象に対してあらかじめ障壁を貼る」といった戦況の先読み能力が必要になる。
長年の経験からか、自身が持つ適性からなのか、先輩はこの「戦況を先読みする」という能力が異常に高い。
その先読み能力は適切なタイミングで味方に対して〈ダメージ遮断〉魔法を行使するというだけには留まらず、強力な攻撃スキルや魔法を行使しようとするモンスターに対する〈行動阻害〉魔法の使用タイミング、しいては今回のような複数集団と対峙した際の部隊運用にまで及ぶ。
その能力に加えて、その容姿と面倒見がよくてさばさばとした性格からかギルド内外でも先輩の人気は非常に高く、大災害以前、〈D.D.D〉にて頻繁に行われていた大規模戦闘でも、先陣を切るパーティーや小隊の「部隊長」としてまず候補に上がるのは先輩の名前というのが恒例となっていた。
そんな先輩が〈大災害〉直前の引退騒動を経て、現在辺境の街に本拠を置く小ギルドのギルドマスターなどという閑職でのうのうとしているなどというのは、〈D.D.D〉にとって、しいてはアキバの街にとって損失であると言わざるを得ない。
ギルド復帰の打診は有耶無耶のままに流されてしまったが、それであればこちらも有耶無耶のうちに作戦に巻き込んでしまい、実質〈D.D.D〉の要員であるというような状況を作ってしまえばいいのだ。
今回のこの作戦に関しても、元々は24人規模の人員を派遣して対処することが検討されていたところを、先輩を引っ張り出す理由付けのために最小編成とし、隊長に要請を出していただけるよう、おどsもといお願いさせていただいたのだ。
実際これは〈D.D.D〉だけでなく、アキバの街の安定の為に必要なことなのである。
決して、ヤエ先輩やダルタスだけ先輩と一緒で楽しそうで羨ましいとか、なんだか最近特にギルド内で怖がられているようで寂しいとかそういう個人的な理由からではないのである。
うふふふ。逃しはしませんよ、先輩。
「山ちゃん、敵布陣報告!」
すこし考え事をしている隙に周囲の敵集団はあらかた処理されてしまったようで、先輩から哨戒情報を促す言葉が私に飛ぶ。
「はい! 2時方向、狼込みの敵集団2がカウント20の距離。11時接敵中の敵後方、時差なしでノーマル1です」
「おーけー。んじゃ、左回りこんで接敵数減らすよ。私が先頭、『俺会議』は後方支えて。『厨二』、ヒールするから安定するまでHPを30%まで戻して」
「「アイ・マム!!」」
「えっとさ、それやめようよ、山ちゃんじゃないんだしさ・・・」
む、私だったら良いと言うのでしょうか。納得行きません。
うふふふ。次はどんな作戦に巻き込むか早速考えておかなくてはいけませんね。
「いや、山ちゃんも妙に不機嫌な顔したり、なんか悪い感じににやけたりするのやめようよ、怖いから」
「最終目標、〈緑子鬼の将軍〉、11時方向奥に目視確認でゴザル!」
「うっしゃ。でも焦りは禁物だからね。逆時計回りに外側から削るよ!」
「「アイ・マム!!」」
「うう、えっと・・・ うん、もういいや。そんじゃあゴー!」
おわらんかった。
というか、これ短くても良いんだってのを思い出しました。
というわけで、次回こそ、最終回!こんどはホント!