ざ・らいとすたっふ(4)
〈エルダー・テイル〉で鳴らしたオレ達突貫部隊は、 濡れ衣を着せられ〈円卓会議〉に逮捕されたが、収容所を脱走しアキバの裏街に潜った。
しかし、裏街でくすぶってるようなオレ達じゃあない。 筋さえ通りゃカネ次第で何でもやってのける命知らず。
不可能を可能にし、巨大な悪を粉砕する、オレ達 突貫野郎Dチーム!
「私はリーダー、高山三佐。通称三佐さん。
戦域哨戒と保育の名人。
私のような天才戦略家でなくては、 百戦錬磨の強者どものリーダーはつとまりません」
「おまちどう! 俺様こそ俺会議、通称『クレイジーセルフカウンシル』!
〈武闘家〉としての腕は天下一品! 奇人? 変人? だからナニ?!」
「私は〈召喚術師〉のユズコ。通称『ルーキー』ですー。
センパイの相手は自慢のエアーノーリードでお手のものです!」
「厨二だ。右手に漆黒なる炎の魔神を封印した俺を加えて、チームもぐっと盛り上がったね」
「そして拙者はゴザル。通称も『ゴザル』。腕っぷしは見ての通りでゴザルよ。
でも、実際切腹だけはカンベンでゴザル」
「切腹MAJIDE!?」
「そして影の指導者、謎の人物、それが私、クラスティです」
「オレ達は、道理の通らぬ世の中にあえて挑戦する、頼りになる神出鬼没の!」
「「突貫野郎Dチーム!」」
「助けを借りたい時は、いつでも言ってくれ!」
「山ちゃん、私、帰っていいかな・・・」
太陽が西の山々の影に沈み最後の輝きを空に映すザントリーフ半島の山間部。
新たに2名のメンバーを加え、私達のゴブリン殲滅大作戦のブリーフィングも最終確認の段階。
眼下の渓谷の闇に蠢くゴブリンの軍隊も篝火揺らし、今にも進軍を始める様子を見せている。そろそろタイムリミットだろう。
「では先ほど言ったとおり、ユズコは山間部からの戦域哨戒。ゴブリン達の陣形を逐次私に報告するようお願いします。優先するのは〈将軍〉の位置。特に作戦後半、逃亡の可能性があるので見失わないよう注意して下さい」
「ダル太はユズコちゃんの護衛だからね。男の子なんだからちゃんと守ること」
「ハイ! 了解です、センパイ!」
「アイ・マム!!」
ルーキー2人は何故か直立敬礼で山ちゃんに答える。
なんだかゲームだった頃よりも軍曹キャラが濃くなってるんじゃないだろうか。
「私達は南東方面、進軍開始の隊列の乱れに乗じて敵集団の先鋒部隊を横撃。後、そのまま最後尾のゴブリン将軍まで全ての敵を殲滅します」
「300匹の軍団に1パーティーで正面から突貫とは実際正気の沙汰とは思えないでゴザルな!」
「正面MAJIDE!?」
「だが、それがいい!」
「俺会議は最初から満場一致で三佐さんに全権移譲ですから! 地獄の果てまでご一緒させて頂きますから!」
他のメンバーは、変わらずノリノリのやる気まんまんである。
相変わらず性格がアレで、言っていることが一部イマイチ意味不明ではあるのだが。
「先輩とは〈大災害〉後の連携は初となりますので、最初数度の接触は私が指揮を取らせて頂きます。が、各メンバーの特性を把握頂いた後に指揮権を移譲いたしますので、その後の陣頭指揮はお願いいたします」
「えー、山ちゃんがずっと指揮とればいいじゃん」
「ダメです。サボらせません。パーティー単位の管制に関しては先輩の方が能力が上です。それに私にはユズコからの哨戒情報の伝達を行う必要がありますので。無茶な作戦を言い出した責任はちゃんと取って下さい」
「まあ、今回力任せの突貫でゴザルからして。実際クシ殿が適任でござろう」
「リアル〈突貫〉MAJIDE!?」
「俺のこの右腕の漆黒なる炎の魔神も、お前に従うことに異論はないようだ・・・」
「なんたって〈黒姫〉の指揮ですからね。帰ったらギルメンに羨まがしられる懸念すら! どう考えたって満場一致ですから!」
「・・・あのさ山ちゃん、私って〈D.D.D〉でいったいどういう風な認識されてるんだろう?」
「聞きたいですか?」
「・・・いい、やめとく・・・」
うう、しゃあないか。んではちょっとばかし地獄の一丁目、覗きに行くとしましょうか。
◇ ◇ ◇
「正面12時方向20mに小集団1。その後方時差30秒で同集団1。先行部隊は近接戦闘で、後続を範囲魔法で仕留めます」
山ちゃんが淡々とメンバーに指示を出す。
私達は現在、〈緑子鬼〉の先鋒部隊を目の前にした茂みに隠れ、息を潜めている。
ゴブリンの軍隊はその知能の低さからか、進軍とは言っても厳密な隊列を組んでの行動などというものは取れず、5~10匹程度のある意味〈冒険者〉のパーティーのような集団ごとに、バラバラと同じような方向に移動するという形態を取ることがほとんどだ。
今回の進軍に関してもそれは変わらないようで、先頭で2部隊が突出した状態で居ることを哨戒班から得た情報から確認した私達は、この茂みにて先制攻撃を仕掛けるタイミングを計っている状態だ。
「それじゃ会議の時間もこれにて終了、これからは現場のオシゴトって訳ですね」
口元に不敵な笑みを浮かべ、ネクタイの首元を締め直すのは何故か英国調の三つ揃えのスーツのようなクロースアーマーを身にまとう『俺会議』。
身長も高く顔の彫りも深いシブいオジサマ的風貌もあってそのスーツ姿が妙に似合ってはいるのだが、装備に関しては基本ファンタジーな見た目のプレイヤーが多い〈エルダー・テイル〉の世界では、あまりにも異質すぎてシュールだ。
「でゴザルな。実際、三佐さんと〈黒姫〉の顔に泥を塗るわけにはいかないでゴザルからして、いっちょ気合を入れて行くでゴザルかね」
それに答えるのは、巴の紋章が彫られた額当てを巻き、脇差を構える『ゴザル』。
その姿はまるで某週刊少年漫画に出てきそうなエセ忍者スタイルなのだが、まだ少年と呼べそうなその雰囲気には似合っていると言えなくもない。
「待ちわびたぜ。俺の右腕もそろそろ我慢の限界だ。早く暴れさせろと疼きやがる・・・」
などと、相変わらず意味不明の言葉をぶつぶつと発しながら邪悪に笑い、右腕をしきりに擦るのは『厨二』。
金色の刺繍で縁取りした暗色のローブ姿と頬に刺青の入ったその顔はさながら魔王の横に控える悪の魔法使いというような風貌。
正直近づきたくない雰囲気である。
「・・・・・・・・」
そして小柄な身長の半分以上はあろうかという大ぶりなグルカナイフを両手に持ち、無口に佇むのが『MAJIDE』。
見た目は南アジアまたはインドあたりの民族衣装を彷彿とさせる革鎧を身に纏う小柄な美少女なのだが、非常に残念なことにその中の人は男性。いわゆるネカマさんである。
普段MAJIDE!?が絡む以外の言葉を発することがほとんど無いのと、その発言も別に女性を演じようというものでもないので、まあ慣れてしまえば特に気になるわけではないのだけれど。慣れてしまった自分に若干の危機感を覚えないでもないのだけれど。
ちなみにこのキャラクターとプレイヤーの性別や体格差の不一致というのは、この世界においてそれなりの問題となっていたりする。
ボイス・チャットが導入され、一般化していた〈エルダー・テイル〉ではキャラクターの性別に異なる性別を選ぶプレイヤーというのは少数派ではあったものの皆無というわけではなく、それを是正するための〈外観再決定ポーション〉はマイナーなイベントで配布されたのみの非常にレアなアイテムだ。
うわさで聞くところによると、“妖精薬師”ロデリックを中心とした〈ロデリック商会〉がその開発を試みているようなのだが、今のところ成功したという情報は聞こえてきてはいない。
ちなみに〈RADIOマーケット〉ではキャラクターの外観に合わせるボイスチェンジャーを開発したとか何とかなんて話があったりして、何とも本末転倒。アキバの街は相変わらずのカオスである。
「それじゃ、先制は俺が務めさせてもらいます。ゴザル、MAJIDE、追従よろ!」
そう言うと散歩にでも出かけるかのように無造作に、スーツ姿の『俺会議』がゴブリンの先鋒部隊の前に飛び出す。
さほど素早く見えるわけでもない動作なのだが、するっと先頭の〈鉄躯緑鬼〉の前に立つと、流れるような動作でその頭に対してハイキックを一閃。
あまりにも自然な動作で近付かれたからなのか、反応の遅れた〈ホブゴブリン〉達に対して、その動きを止めることなく続けて蹴りを放つ。
「今回のメンバーは基本的に全員〈大災害〉前とプレイスタイルを変えていませんので、改めて先輩に説明する必要は無いかもしれませんが・・・」
仲間達の戦闘から視線を外すことなく、山ちゃんが私に対して、〈D.D.D〉メンバーの特性を淡々と説明する。
「『俺会議』は能力的には攻撃特化の〈武闘家〉です。本人も空手の有段者とのことで、それを生かした攻撃の多彩さが彼の売りですね。しかし全くもって場違いな見た目のあのクロースアーマーは無駄に北欧サーバーまで足を運んで仕立てた上位(制作級)装備で、何故か高い防御力を誇り、総合的には〈守護戦士〉並の前衛性能を発揮します。性格はアレですが」
その『俺会議』の影に隠れるように接敵した小さな影が、不意に敵集団の中央に踊り出す。
その小さな体を補うためか、『MAJIDE』は巨大なグルカナイフを持つ両腕を一杯に広げると、まるで独楽にでもなったかのように回転し、周りの〈ホブゴブリン〉達にその刃を叩きこんでいく。
「『MAJIDE』は二刀流グルカナイフの〈盗剣士〉です。彼の売りは高いレベルでバランスの取れた装備とスキルになります。特化した部分が無い分、多様な状況に対応できる非常に能力の高いプレイヤーですね。もちろん〈盗剣士〉ですので今回のような対多数戦闘では主力として期待できます。普段MAJIDE!?が絡む以外の言葉を発することがほとんど無くて、未だに何を考えているのかよく分からないのがアレですが」
そんな2人の不意打ちに碌な反撃もできず混乱していた〈ホブゴブリン〉達から少し離れた位置に居た数匹のゴブリン〈祈祷師〉達が、ようやく我に返ったのか、あわてて呪文を唱えようと杖を構える。
だが、シャーマン達がその呪文を完成させるよりも早く、いつの間にかにその背後に回っていた『ゴザル』が〈シャーマン〉達の首筋にその手に持つ苦無をずぶりとねじ込む。
「『ゴザル』は先輩もよくご存知だとは思いますが、〈D.D.D〉の中核スタッフも務める、若手の中では特に成長著しい〈暗殺者〉です。敵の背後に回るその動作や、的確に急所を突くその攻撃力など非常に優秀なプレイヤーであるのですが、あの語尾とよく解らない方向に向いてしまっている忍者への拘りが何ともアレなのが残念でなりません」
などと言って山ちゃんがため息をついている間に敵の先行部隊は全滅。
だが、既にこちらに気づいているらしい〈ホブゴブリン〉の後続部隊が禍々しい雄叫びを上げながらこちらに突撃してくるのが見える。
「先行部隊殲滅完了でゴザル! 後続の接敵まで想定カウント5! いけるでゴザルか?」
〈シャーマン〉に止めをさした『ゴザル』が私の後ろで控えていた『厨二』に対して確認の言葉を投げる。
「誰に物を言っている。あ、当たり前のことをきくな。が、がはっ!」
『厨二』は何ともいつもどおりの不適な口調でそれに答えるが、その態度とは裏腹、いつの間にかにの顔色は真っ青で口元からは血まで垂らしている。
しかしその本人は、その口元の血を拭うこともなく呪文の詠唱を始める。
「冥府の底より湧き上がる憎悪の炎よ、我が仮初の身体に纏わり付くこの痛みを介してその醜き姿を晒すがいい! くらえ、〈デモンズ・ペイン〉!!」
呪文の詠唱完了と共に、直前まで迫った敵後続部隊の中央に赤黒い炎の柱が発生する。
その柱は見る間に敵部隊のゴブリン達を全て飲み込み、一瞬にしてその姿を炭化させる。
「『厨二』は数ある〈エルダー・テイル〉の攻撃魔法の中でも、特殊な条件下においてではありますが、最大のダメージを叩き出す〈デモンズ・ペイン〉を得意とする〈妖術師〉です。死に関して記憶の欠落が発生することが判明している現在でも〈ペイン系〉の魔法をメインとして最大ダメージに拘るあたり大概にアレですが、ゲームであった頃から長年培われたその技量と、その攻撃力は十分に優秀と言えます」
〈ペイン系〉というのは〈妖術師〉の攻撃魔法の中でも特殊な性質を持つ一連の魔法の事を指す言葉だ。
この系統の魔法は通常の状態で使用した場合には、同レベル、同コストの他の攻撃魔法の半分程度の威力しか持たない。
しかし、自身が受けたダメージ量に比例して威力が上がり、自分のHPが50%を切ったあたりで他の魔法の威力を追い越し、10%まで行くと1発で他の魔法の2倍弱のダメージを弾き出すほどの威力となる。
〈エルダー・テイル〉がゲームだった時代には、自ら毒薬などを服用して極限までHPを削り、当たれば1発で敵を倒し、ミスをおかせば即死亡などというスリリングな戦闘を楽しむ〈妖術師〉というのは多くはないもののさほど珍しい存在というわけではなかったのだが、死という現象にアイテムや経験値以外のリスクが存在する現在でもこのスタイルを貫いている〈冒険者〉とういうのは下手をすると彼以外居ないのではないだろうか?
しかし最初に集まった時から判っていたこととは言え、性格的にも能力的にも何ともアクの強いメンバーが揃ったものである。
確かに優秀であることは間違いないのだけれど。
「ていうかさ、コレ私居なくてもどうにかなっちゃうんじゃない? 実際今私何にもしてないんだし。やっぱ指揮は山ちゃんにしない?」
「駄目です。却下です! 今回はこの2戦でインターバルが取れましたが、これ以降下手をすると最期まで連戦の可能性もあります。〈大規模戦闘〉に匹敵するような長時間の戦闘が予想されるこの状況、先輩の〈D.D.D〉のメンバーの中でも屈指の〈指揮官〉としての経験と能力は必須です!!」
うう、なんだか山ちゃんの目がギラギラしてて怖い。
変なスイッチが入っちゃったモードな気がする。
「はい、了解しました。僭越ながら次から指揮を取らせて頂きますです・・・」
ああ。私、コレ終わったら、この前やっと出来た鰹節で和食教えるって屋敷のユーリちゃんと約束したんだ・・・
あれ、短くて楽とかの筈だったのになんだろうこれ?
あと、次回、最終回!予定!