ざ・らいとすたっふ(2)
大規模オンラインRPG〈エルダー・テイル〉日本サーバー最大の戦闘系ギルド、〈D.D.D〉といえばもはや知らぬものは居ないであろう。
〈円卓会議〉の代表を輩出し、かの〈東の討伐軍〉の中心を担ったアキバ最強の戦闘系ギルド。
しかし、主に大規模コンテンツにおける戦果とギルドマスターである〈狂戦士〉クラスティの名声が強調されがちな〈D.D.D〉の活躍の影で、知る人ぞ知る精鋭部隊が暗躍している事を知るものは少ない。
「ザ・ライトスタッフ」
この物語は、そんな彼らの波乱万丈に満ちた栄光の軌跡である。
少々話は脱線したものの、私達は現在、ザントリーフ半島の渓谷内に駐屯する〈緑子鬼の将軍〉の率いる中規模軍隊を眼下に望む山の中腹にて、作戦前のブリーフィングを継続中だ。
ゴブリンの軍団300匹に対して挑むのは〈D.D.D〉の精鋭とはいえわずか1パーティー。
戦力差は歴然なのだが、そのメンバーの表情は一様に暗さを感じさせない。
「んでは山ちゃん参謀、作戦案の提示をよろしく」
この状況に色々なメンツに文句を言いたい気分ではあるのだが、ここまで来てしまったからには仕方がない。
私は冷静な真面目っ子かつ、〈D.D.D〉の戦域哨戒班の統括を一手に担う優秀な後輩に作戦の説明を促す。
「基本方針としては、このまま陽が落ちるのを待ち、闇夜に紛れての奇襲となります」
「半数が武器攻撃職っていうこの編成は、進軍スピードと突破力重視ってわけでゴザルね」
「ご明察です。敵の布陣が一番薄い渓谷北西の切り立った尾根を降下、最短距離を進軍し、将軍の首を取ります。これが一番成功率が高いかと愚行いたします」
「なるほど。重装備が居ないこのメンバーなら、あの崖でも移動可能。で雑魚は無視して一点火力集中で短期決戦ってわけですね! さすがは三佐さん!」
ふむ、何となく上手くいきそうな雰囲気ではある。
でも一つ、気になる点があるんだが。
「で、その後の退路は?」
「ノープランです。幸い特攻とかオレを残してとか言ってる人達が居るので、盾にすれば半数は逃げ延びられるかと」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・MAJIDE?」
「まじです」
サラリと何ともえげつないことを答える山ちゃん。
「実際特攻命令来ちゃったでゴザル!」
「玉砕MAJIDE!?」
「ああ逆らえない! そんな冷徹な三佐さんの命令に、全俺会議は異議を唱えられない!」
「ゴザル! 任せた! お前達のことは! 忘れない!!」
「いや実際! オレを残して先に行け!って言っていたのはお主でゴザルから!」
ちょっとまてい。
山ちゃんのおでこに「ずびし!」とチョップ一閃。
「あいたっ」
「相変わらずの表情でその発言とか、ツッコミ待ちにしても判りにくすぎるから!」
「ごめんなさい」
(ツッコミ待ちMAJIDE!?)
(冗談? 実際今の冗談言ってる目でござったか!?)
(そんな事より全俺メモリーは、今の三佐さんの「あいたっ」を記憶することで精一杯ですから!)
ノータイムで素直にあやまる山ちゃん。ちくしょう、ちょっと可愛いじゃないか。
全くそういう態度だから周りから怖がられるんだとか小一時間説教してやりたい所ではあるが、愛想のよい山ちゃんというのも想像するとなんだか怖いので思い直す。
他のメンバーは端に集まって何だかボソボソと話しているが、十中八九碌でも無い内容なので聞くだけ損だろう。
「で? 改めて山ちゃん参謀、今度こそ実現可能な作戦案の提示をよろしく」
「ええと、奇襲というのは同様なのですが、軍団の進軍開始を待ち、この先南東5km、渓谷の幅が極端に狭くなるポイント通過のタイミングを狙います。ここであればターゲットへの距離も最短。脱出経路も確保可能です。ただし・・・」
「何か問題があるんですか?」
「その奇襲ポイントと現在ゴブリン達が駐屯しているこの渓谷との間に〈大地人〉の小さな集落が一つあります。今からでは避難勧告および誘導を行う時間的猶予がありません」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・MAJIDE?」
「まじです」
「・・・・・・・・」
「これは実際特攻も有りかもしれないでゴザルね・・・」
「だな。将軍落とせば他は逃げていく可能性だって小さくはないしな!」
「まさに逆境! これこそ俺の望む逆境! いいだろう運命! この試練乗った!」
いやいやいや、まてまてまて。
なんでそうやって直ぐ熱血しちゃうかねこいつらは。
「ちょいまちみんな。ゴザル、敵の総数は300で間違いはない?」
「だいたい280、実際多くても320にはまず届かないでゴザルな」
「将軍と取り巻いてる親衛隊とか手強そうなのはどんな感じ?」
「将軍がレイドランクでレベル62。取り巻きの〈鉄躯緑鬼〉がレベル60弱でゴザル。今回〈丘巨人〉は出てきてござらんから、その他で手強いとなると〈調教師〉が操る魔獣どもがパーティーランクで50前後。あとは前回は姿を見せていなかった〈祈祷師〉の部隊が場合によっては厄介でゴザルね。レベルとしては高くて40ってところでゴザルが」
うん、ぜんぜんオッケイ。勝算ありじゃないかい?
「山ちゃん。今回のコレ、〈将軍〉落とせっていうミッションで、一点突破に拘ってるみたいだけどさ―――」
こっち方向で、こんな楽しそうなことは久々だ。思わず顔がにやけてしまう。
「別に、アレを全滅させてしまっても構わないんだろう?」
「っ!・・・・・・・・はい。問題ありません!」
「何・・・だと・・・?」
「久々の〈突貫〉でゴザル! 討ち入りでゴザルよ!」
「キタコレ! リアル弓兵キター!」
「姐さん! それ死亡フラべぶらっ!?」
元〈D.D.D〉の〈突貫黒巫女〉こと櫛八玉。
突貫の二つ名を作った伝説の数々は伊達ではない。
そんな彼女のコレも、また平常運転だった。
駄目だ。本家に比べて何かが足りない。
何よりも!会話のキレが足りない!!
4巻の情報を加味して、ゴブりん編成あたりを修正。