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ふんどしの日リターンズ(4)

ちょっとまだ時間がかかりそうなので、小出しにしていきます。

## 20XX年2月14日 21時02分

##〈フロート・キャッスル〉南門内、エントランス


 巨大な石を積み上げて作られた壁面に配置された松明の炎がゆらぎ、他に光源のないダンジョン内をうっすらと朱色に照らす。

 時間とともに開いた門を抜けた先は、小学校の体育館ほどの広さはあろうかという大きな広間。そしてその奥には、身の丈10mはあろうかという巨大なモンスターがその巨体をうねらせている。


 上半身は金で過剰に装飾されたビキニのような露出の高い女性の姿。顔の下半分は絹のような光沢のあるスカーフで隠されているものの、目元の造形からもその美しさを伺わせる。しかし両手には湾曲した三日月のような形をした刀剣が握られており、なによりその腰から下には鱗をもった長細い蛇のような胴体が続いている。


 〈レイド〉ランクモンスター〈殉教者ガラシャ〉。

 この門の守護者である彼女は、侵入してきた〈D.D.D〉のメンバーを睨みながらも、後ろにある城の中心へと続く通路を守るかのようにその場を動こうとはしない。


「あーこれ、なんか見たことあるなあ」


「精霊山に出現する〈蛇女〉(ラミア)のグラフィックを使い回して大きくしただけですね。今日限りのクエスト実装ですから仕方がないかと」


 拍子抜けしたといった感の櫛八玉の言葉に、隣の高山三佐がいつものような淡々とした口調で答える。


「とはいえ、攻撃パターンまで一緒とは限りません。今回は次は無しの1回勝負です。〈攻勢哨戒〉(アクティブ・ソナー)でパターンを探ります」


 隊の先頭で巨大な戦斧の柄に両手を乗せ、前方を睨む守護戦士(ガーディアン)、クラスティの、号令というにはあまりにも静かな言葉に、しかし周りのメンバーたちは素早く反応し、4パーティーからなる隊列が再編成されていく。


「ほいさ、それじゃあ先陣きらせてもらおか。ひとあて行くよ! 〈八重垣の結界陣〉!!」


 クラスティにかわって先頭に立ったのは4つのうちの1つのパーティーのリーダーを務める〈神祇官〉(カンナギ) の櫛八玉。彼女は〈神祇官〉のもつ〈ダメージ遮断〉魔法の中でも短時間ではあるが最大の防御力をもつ、奥の手ともいえる魔法を唱え、レイドモンスターに対して攻撃を開始する。


 〈神祇官〉の固有回復スタイルはダメージ遮断。これは他の回復職とは違い一定量までのダメージを受けないようにするという特性を持っている。今回のようにどんな付加効果をもつ攻撃をしかけてくるか分からない初見のモンスターと対する場合には、この「ダメージを受けない」という特性が大きな意味を持つことになるのだ。


 ダメージ遮断の障壁に守られた〈D.D.D〉のメンバー達が、〈蛇女〉モドキのレイドモンスターの振るうシミターを掻い潜りながら近接攻撃を仕掛けていく。他にも遠距離攻撃を仕掛ける者や、|敵の行動を阻害する魔法デバフでそれをサポートする者。〈大規模戦闘〉(レイド)こそが彼ら〈D.D.D〉の本領を発揮する舞台。複数のプレイヤーが操るキャラクター達は、まるで一つの生物であるかのような綿密な連携でレイドモンスターを翻弄する。


「障壁の限界そろそろ来るよ、陣形切り替えカウント! んでもって『俺会議』突出しすぎ! もうちょい下がって!」


 皆が無言で各々の役割を果たす中、現在この〈混合生物〉(キメラ)の頭脳を担う櫛八玉は、仲間の受けた攻撃回数、自分の張った障壁の受けられるダメージの残量などを計算しつつ、その手足に対して次なる形態への変化を指示する。

 〈八重垣の結界陣〉は非常に強力なダメージ遮断能力をもつ障壁ではあるが、その効果時間は長くはない。そしてその効果時間はそのまま彼女がこの〈レイドパーティー〉を指揮する時間となる。

 偵察の意味合いの強いこの〈攻勢哨戒〉から次の手を既に構築しているであろう、指揮権の本来の持ち主であるクラスティに、それを返すべく陣形を動かし、一瞬の連携の隙が生まれたタイミングでそれは起こった。


「はっは、心配無用ですよ姉御。全俺会議の採決でもこんなものは当たらなければどうということはないと・・・ぐわっ!」


 陣形の変形に伴う戦線の一時後退、そのしんがりを務めていた三つ揃えのスーツのようなクロースアーマーを身にまとう〈武闘家〉(モンク)、『俺会議』にレイドモンスターの攻撃が一時集中する。1撃、2撃と攻撃を躱していた『俺会議』だが、ついにその身体にシミターの斬撃を受け、そのダメージは障壁の防御限界を超えてHPを一気に3割ほど減少させる。


「ほら言わんこっちゃない。前衛スイッチ、ヤエ悪いけどサポートに・・・って、ぅええ!?」


「さすが姐さんの障壁とオレのステキスーツだ、なんともないz・・・って、なんじゃこりゃーーーー!!!」


 ノックバックで崩した体制を立て直し、再び攻撃の構えを取った『俺会議』だったが、自分の身体、というか装備の異変に思わず絶叫する。『俺会議』のトレードマークとも言えるその身体を包む三つ揃えのスーツは跡形もなく、その身体は完全に裸体。いや、下半身のそこだけは露出したらアウトだろという部分だけには、白い布状のナニカが申し訳程度に巻かれているといった奇抜な格好。


「ななな、なんですの!? ふ、ふふふ・・・」

「ふんどしですね。日本の伝統的な下着です。あれは帯状の布を巻きつけて腰のうしろで完結する方のタイプですね。それ以外にも紐を用いて・・・」

「Wikiばりの解説ありがと。でも山ちゃん、今はそういう問題じゃないと思うんだ・・・」

「ふんどしMAJIDE?」

「体つきが筋肉質なだけに、余計生々しいでゴザルなあ・・・」

「なっ! 無慈悲なる機械じかけの神々共め、何を企んでいるというのだ!?」


「支援職は全力で足止めを! 一旦戦線を引き、体制を整えます!」


 クラスティが彼にしては珍しく、声を荒めて指示を出す。あまりの事態にレイドモンスターとの戦闘中であることも忘れ、呆然としていた〈D.D.D〉のメンバーたちも、その声で目が覚めたかのように再び動き出す。


「オレのスーツ! あれがないとオレは、オレは・・・うわああああぁぁ!!」


 しかし、心の支えでもあったトレードマークを失い、その場にしゃがみ込んだ『俺会議』は絶叫する。

 それは惨劇の開幕を知らせる合図であるかのように、〈フロート・キャッスル〉のエントランスに木霊したのだ。

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