ふんどしの日リターンズ(3)
14日までには書き終えられないこと確定。
どーにか16日くらいまでには・・・
## 20XX年2月14日 20時46分
##〈フロート・キャッスル〉北門前
「各班点呼! 門が開くのは21時だぜ、揃ってやがるか!?」
「タンク班、全員揃ってるぜ!」
「攻撃班2、全員いるよ」
「攻撃班1、ユーミルがあと5分程って連絡が入ってます。それ以外はオッケーっす!」
「おっし野郎ども、気合入れろ! 今日は勝つぜ!!」
「「「うおおおおぉぉ!!!」」」
〈フロート・キャッスル〉の北門の前に集まっているのは〈黒剣騎士団〉のギルドメンバー達。今回は人数制限があるため、直接戦闘に関われるのは4パーティーに限られるのだが、サポートまたは予備戦力としてなのか、集まった人数は全ギルド員の8割近い。
そこから少し離れた今回の戦場が見渡せる丘の上で、シロエはぼんやりとお祭り騒ぎのようなその喧騒を眺める。
アイザック本人から要望された事とはいえ、参加できるメンバーが限られる今回の〈大規模戦闘〉に〈黒剣騎士団〉のギルドメンバーを差し置いて加わるのだ。直接文句を言われることは無いとは思うが、なにか居心地が悪い気分になってしまうのは仕方がないだろう。
「シロ様、シロエ様ですよね?」
そんな疎外感のようなものから輪の中には入れず、時間を持て余していたシロエを、不意に美しい、しかし何か湿った雰囲気のある女性の声が呼びとめる。
声のした方を振り向いたシロエの視界に入ってきたのは一人の美しい女性の姿。女性としては少し高めの背丈と、モデルというよりは程良く肉が付きメリハリのあるグラビアアイドルのような体型。少し癖のある紫がかった黒髪は腰まで伸び、その頭上には〈狐尾族〉であることを特徴づけるぴんと尖った耳。同じく黒と紫を基調としたマント姿からすると、シロエと同じく魔法職であることが伺える。
「濡羽さん、でしたっけ。確か一度どこかでご一緒したことがありましたね」
その特徴のある外見から、シロエは記憶に合致する同職のプレイヤーの名前を思い出し、答える。
「私の名前、知っていて下さったんですね・・・」
「こんなところに顔を出すソロの〈付与術師〉なんて数少ないですから。なおかつ『腕がいい』という条件まで揃うとなれば、それはもうイリオモテヤマネコ以上の希少種です。同職として覚えていない方がおかしいですよ」
確かに〈エルダーテイル〉は日本サーバーだけでも10万人以上のアクティブプレイヤーを誇る業界屈指のMMOではあるのだが、大規模戦闘などという難易度の高いコンテンツにまで手を出す物好きなプレイヤーの数は限られており、そんなプレイヤー同士は結構な頻度で顔をあわせる事となる。その中でも12職の中で一番の不人気とされ、実際に人数も少ない〈付与術師〉同士となれば、主だったランカーの名前くらいは知っていても不思議はない。ないのだが。
「ああ、シロ様がそんな風に言って下さるなんて・・・ 私、それだけでもう、どうにかなってしまいそうです・・・」
濡羽は頬を赤く染め、自らの身体を抱きしめるかのように腕を組み、身体をくねらせる。ふっくらと湿るその唇から漏れだした言葉は、まるでそれ自身が熱をおびているかのような艶かしい色を帯びている。
「え、ええと・・・ 〈黒剣騎士団〉に呼ばれたってことは、あれですよね、〈マナ・チャネリング〉の件でってことで良いんですよね? スキルの使い方やタイミングなんかは・・・」
予想の斜め上どころか一回転して真下に落下しそうな濡羽のアンブッシュ的言動に眼を白黒させながら、それでもどうにかまともな方向に話を修正しようと、シロエはそもそも濡羽がここに呼ばれた理由であろう〈付与術師〉のスキルの名前を口に出しつつ、思わず一歩後ろに下がる。
「大丈夫です。以前シロ様が運用なさっているのを拝見したことがあります。それにシロ様がブログで公開して下さっていた検証の記事も読ませて頂きましたから。シロ様のブログ、いつも更新を楽しみにさせて頂いてるんですよっ!」
しかし濡羽は数歩身体を乗り出してその開いた距離を一層縮め、少し上にあるシロエの顔を潤んだ瞳でうっとりと見つめる。
「は、ははは・・・ じゃあ今日はよろしくお願いします」
「はい! 私、今日はシロ様のために張り切っちゃいますから!」
恐る恐る握手のために出したシロエの右腕を濡羽は両の手で掴み、胸の前まで引き寄せる。
彼女は一層顔を紅く染め、そのいまいち焦点が怪しくなってきた大きな瞳を潤ませつつシロエに垂れかかる。
「いや、別に、っていうか僕のためってのはちょっと違うっていうか、なんだこれ・・・」
シロエは濡羽との距離を離そうと、数歩身体を後ろに逃しながら思わず呟くのだが、
「ふふふっ。うふふふふっ。シロ様と一緒。シロ様とバレンタインに一緒にレイド・・・」
既にちょっと危険な世界に意識がトリップしつつある彼女には、その声は既に聞こえていなかったりしたのだ。
◇ ◇ ◇
## 20XX年2月14日 20時58分
## スワの湖畔市 中央広場
「ほらほらみんな、ちゃんと揃ったかしら?」
「はいはーい、ドルチェ先生! 全員そろってまっす!」
「21時にならないとアイテム変換できないとかさっ 待ちわびるってーの!」
「なにかなー 良いものだよいいよねー」
「どうせいつもどおり特技の巻物あたり。運が良ければ〈奥伝〉ってとこ」
「ぶー、サンディさん、夢のない発言禁止!」
現実世界の諏訪湖をモチーフとした湖上に浮かぶダンジョン、スワの古神殿での狩りを終えて、ほど近い場所にあるNPCの街〈スワの湖畔市〉に集まり、賑やかに騒ぐのは〈西風の旅団〉のギルドメンバー達。
今年のバレンタインデーイベントでは、他の戦闘系ギルドが挑戦している〈大規模戦闘〉が大きな話題とはなっているものの、戦闘系ギルドに所属していない大多数のプレイヤーにとっては、イベントアイテムを集めることによって得られるレアアイテム取得の方がメイン。
〈大規模戦闘〉を回避した〈西風の旅団〉のメンバー達もそのイベントアイテム(愛のかけら)を数多く集め、アイテムへの変換が可能となる21時を直前にしてモンスターの出現しない安全地帯であるこのスワの湖畔市に移動し、色々と夢を膨らませている最中だ。
なにせバレンタインデーのイベントなのだ。メンバー達が多かれ少なかれ好意を寄せるギルドマスター、ソウジロウにアピールできるチャンスに、普段でも高めな彼女たちのテンションは、早春の空を成層圏まで届きそうなくらいの勢いで上昇中である。
「ははは、みんなで集めた(愛のかけら)ですからね。良いもの出るといいですよねっ」
「ソウ様と集めた愛、あんな愛とか、こんな愛とか・・・ぶふっ!!」
「はいはいオリーブちゃん、とんとんしましょーね、とんとん」
その中心には彼女らのギルドマスターであるソウジロウの姿。
そのソウジロウの言葉になにを妄想したのか、長身のエルフの女性フレグラント・オリーブが鼻血を吹きながらくるくると回って倒れ、同じくメンバーの一人であるひさこが、慣れた手つきでそれを介抱する。
ソウジロウ自身もちろんバレンタインデーというのがどのようなイベントなのかというのは判っている筈なのだが、なぜかそのイベントの主役となる好意の相手が自分であるという意識はこれっぽちもないらしく、そんないつもの光景を眺めながらいつものように呑気に笑っている。
まあ、ソウジロウがこのような性格であるからこそ〈西風の旅団〉にこれだけの女性プレイヤーが集まり、ギルドとしての体裁を維持できているというのも事実ではあるのだが。
「まあクジ運だったらまかせろ。サブ職業の〈ギャンブラー〉は伊達じゃないぜ」
「でもナズナさー、当てるときはデカイけどさー、外すときもアレだからなー」
「ダメー! こういう時はネガティブ発言はダメなんだぜっ!」
腕まくりをして身体を乗り出すナズナに対して〈武闘家〉のカワラがいちゃもんをつける。
有事であればソウジロウに代わってギルドの屋台骨を支えるサブギルドマスターのような立場にあるナズナではあるのだが、本来の性格がいい加減なこともあり、このような場面では逆に場を混乱させることの方が多い。
そしてカワラといえばどんな時でも天真爛漫、歯に衣着せぬといった風で、場の混乱を加速させるのが常だったりする。
「まあ一つ目はソウちゃんがってのが良いんじゃないかしら? なんたって私達のギルドマスターなんですから」
「そうです! やっぱり最初は局長が!」
そんなまとまりの付かなそうな状態に、ごつい身体にオネエ言葉という見た目に反してギルドの中でも1,2を争う常識人であるドルチェと、他のメンバーに比べると堅物といった性格でまとめ役にまわることの多いイサミが声を上げる。
「それじゃあいきますね。えっと、アイテムを集めてっと・・・」
そんな皆に促されて、ソウジロウが必要数の(愛のかけら)を手元に集め、手元に表示された「アイテム変換」のボタンアイコンをクリックする。
視界が真っ白に染まるほどの強い光のエフェクト。その後、ひらひらとタオルのような大きさの布切れのようなものが、ソウジロウの手にふわりと落ちる。
「え?」
「なに・・・これ・・・!?」
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愛のふんどし(赤)【魔法級/防具】
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装備レベル制限:なし
装備条件:男性キャラクターのみ装備可能
防御力:XX
特殊能力:
・攻撃力上昇
・他の防具との併用不可
・一度装備すると24時間解除不可
2月14日といえば「ふんどしの日」
日本古来の文化であるふんどし姿でこの特別な日を祝いましょう。
「ナイスふんどし!」と声をかけあえば貴方も素敵なイケメン日本男児。
そこの彼女も気になる彼氏にプレゼントすれば、恋の成就もまちがいなし?
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「「「なんじゃこりゃーーーー!!!」」」
この同時刻、日本サーバーの至る所で、数多くの恋に夢を膨らませた乙女たちの悲鳴が鳴り響いたのだ。
なにこれひどい