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通勤電車と宝塚

もはやログホラですらない小話そのいち。

お蔵入りしていたものの再掲載です。

 湿度が高い。空気が薄い。暑い。眠い。頭がくらくらする。

 

 現在午前8時半、私達は通勤電車内でおしくら饅頭を体験中。ぎゅうぎゅうである。

 一番先頭の女性専用車両というのを選んだのだが、これは失敗だったかもしれない。女子高出身者ならばご存知かもしれないが、女性ばかりが集まった場合の女性臭と化粧や香水の香りがあいまって、それがとてつもなく濃いのだ。

 これは徹夜明けの体調にはなかなかに来るものがある。


 何故にサラリーマンでもない私達がこんな状況に陥っているかを簡単に説明すると、呑み会の後に朝までコースに突入して、帰る間もなく2限の大学の授業に直行の為ということになる。


 もう少し詳細を説明すると、私のプレーする某有名オンラインゲームにて、同じチームというかグループに所属するプレイヤー同士がゲーム外、いわゆるリアルで集まるという通称オフ会というものが企画されたのがきっかけ。

 参加者の年齢が高めなこともあり、それが都内某所のチェーンの居酒屋での開催となり、妙な盛り上がりを見せた後一部の参加者は2次会のカラオケになだれ込み、終電を逃した数名でネットカフェに突入。本末転倒だと今になると思うのだが、オフ会であるにも関わらずネットカフェでその某ゲームを始め、始発が動き出して結構な時間がたった今頃になって移動を開始したというのが現状までの経過である。


「う~、ぎもぢわるい~、息がでぎない~」


 背が低い為、私の横で他の乗客の中に埋もれるようになっているのは、そのオンラインゲーム仲間のヤエ。

 ゲームを始めた時期も年齢も近く共に都内在住ということもあり、ゲーム内でもリアルでも行動を共にすることが多い、まあ多分親友といえるだろう存在だ。


「ヤエはあと2駅だったか。私はまだ30分ほどこれに乗ってなくちゃいけないんだから我慢しろ」


「クシは背高いからいいじゃん。私のコレはほんときっついんだって・・・」


「背が高いことの数少ないメリットなんだから、そこだけ文句を言われても。まあ社会勉強だと思って諦めるしか?」


 などと話をしていると駅に到着。人の出入りが多い駅のようだ。奥のほうから人を押しのけ出口に向かう人、降車が終っていないのに乗車しようとする人、阿鼻叫喚である。

 いやこの状況、もう入ってくるのは無理だろうというのにホームからはまだ数人、体を押し込もうと突入してくる。サラリーマンとはかくも厳しい日常を送らねばならないのか・・・


「無理なご乗車、駆け込みでのご乗車は大変危険ですのでおやめください!」


「もう一歩、もう一歩車内の中ほどにお詰め願います!」


 この車両を担当する駅員さんは女性のようだ。せっぱつまった高い声が徹夜明けの頭に響く。


「もう一歩って、ヤエ半分くらい体浮いてるんだけど・・・」


「む、私も片足立ち状態で動くとか無理。う、体が斜めになってて足つりそう・・・」


 どうにかドアは閉まったようで、ゆっくりと電車は動き出す。

 これ以上の混雑はありえないだろうと思っていたのだけど、先刻よりも外部からの圧力は増している気がする。肋骨にヒビが入るんではなかろうか。


「なんていうか、同姓には厳しくなるっていうけどさ、朝から女性の駅員さんの金切り声ってのはムカってきちゃうんだけど。もうちょっとどうにかならないもんなの?」


 やっとで着地できて一息ついたヤエが、不満げにそんな事を言う。


「甲高い声というのはイライラ度を増す要因にはなりそうな気がするな、確かに。とはいえ駅員さんも必死なんだから、そう邪険にするのも失礼じゃないかい?」


「う~、せめてもうちょっと落ち着いた声を出してほしいわけなのよ、ヤエとしては。たとえばさ、宝塚の男役みたいなのとかさ」


「む、あれか? 『お嬢さん、もう一歩車内の奥まで詰めてはいただけないだろうか』 とか言うのか?」


 試しに声は低めでお腹から声を出すような感じで言ってみる。もともと私の声は低めなのだ。ちなみにセリフは某ブルボン朝フランス王国首都の刺がある花あたりを連想して。


「そうそう、そんな感じ。クシ上手いじゃん」


「そう?それじゃ、『無理な乗車は危険だ。駆け込みでの乗車などもっての外。怪我などしてしまっては元も子もないだろう?次の電車を待ってみてはどうだろうか』とかは?」


 言い訳をさせてもらえるなら、あれだ。徹夜明けの妙なハイテンションというか、後から考えると下らないことが妙に面白かったりするあれだったのだと思う。何故かとても楽しかったのだ。


「いいかも、せっかくだから昨日の居酒屋とかで注文するときも、そうしたら楽しかったかも」


「なるほど。『そこのお嬢さん、ナマ中を2杯お願いしたいのだが。ああ、ネギマも同じく2本頼みたい』とかだな」


 その時、車両は次の駅に止まり、ドアが開いた。


「それじゃ、ヤエここで降りるから。また夜ね~」


「え?」


 ニヤニヤ笑いながら、ヤエが人ごみと共に去っていった。

 この駅は降車が多いらしく、今までの混雑が嘘のように社内に残された人数は少ない。

 なんだか、妙な視線を周りから感じる。 あ、なんか笑いを堪えている人がいる。


 ぐ、やられた。またしてもヤエに・・・


 その後、私は降車駅でもない次の停車駅で逃げるように降車し、2限目の授業に遅刻したのだ。


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