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どろだんご  作者: 与太郎
7/7

.ストロー

暴力表現・強姦表現等ございます。

アパート名が出てきますが、実際の場所とは一切関係はありません。

女性の体が嫌いだ。

女性自体が嫌いな訳では無い、女性を感じさせる体の構造が嫌いなのだ。胸部の膨らみ、少し脂肪のついた腹部や太腿、大きめの臀部、体全体が丸みを帯びた造形。

見るたびに、その体の中で忌々しいあの物体が作られているということを嫌でも思い出してしまう、女性の身体が嫌い。



前の一件から、頻繁に杏ちゃんが遊びに来るようになった。

鍵を忘れてしまった日でも、暇な日でも、休みの日でも…懐かれてしまったのだろうか。

家に来るたびに使用したものを消毒しなければいけないため、最近は使い捨てのものを買い貯めしようか考えている。

今日も18時半まで彼女が居たせいで、風が強く寒い中窓を開けて換気を行わなければならない。

ぶるぶると体を震わせながら暗くなった外に目を向け、白い息を吐く。


明日は休みなので、家の掃除でもしようかと車のライトが溶け込む道路を眺めながら予定を組んでいると、


ゴト、ガタゴトッ


安田さんの家から大きな物音が聞こえた。…安田さんが転んだ音かな?

杏ちゃんとの会話を思い出し、ここのアパートは少し部屋が狭いので怪我等してなければいいのだけれど、少し心配にもなるが微笑ましく思っていると、


ドン!「やめて!変態!!」


切羽詰まったような、杏ちゃんの声が聞こえた。何故だか良からぬことが起こってるのではないかと思い隣に駆け込もうとするが、足が止まる。


いや、でももしかしたら、今日偶然彼氏を家に呼んでいて、いちゃついているのかもしれない。それが少しエスカレートして少し声を荒げたのかもしれない。

もんもんと立ち尽くしていると、


「きゃあああああああ!」


甲高い悲鳴が聞こえた、子供が出すにはあまりにも痛々しいものだった。

靴下のまま家を飛び出し、安田さんの家のドアノブを思い切り捻る。不用心にも鍵は開いていて、簡単に扉は開いてしまった。


その扉の先に映っていた光景は、


「…千崎さん…」


僕よりも小柄な男が杏ちゃんに襲いかかろうと、馬乗りになっている光景だった。

やけに興奮したような男の表情が、あの女の顔と似ていて、思わず彼を助走をつけ蹴り飛ばしてしまった。

仮にも僕は成人期を乗り越え、中年になった男性。力は多少なりともあるだろう。

蹴り飛ばした彼は、杏ちゃんの上から退き腹を抱えうずくまっている。


彼女の様子を見ると、少し制服がはだけいかがわしい姿になっている。目尻に涙を溜め、震える瞳で僕を見上げる。

性を多少なりとも表に出された彼女を見て、僕は不快になった、どうしても触りたくないと思うほどに。

しかしそんなことを考えていたって仕方がない。倒れている彼女の手を引きなんとか立たせる。体勢が不安定だったので、自分の肩を貸し安定させる。

その間に、痛みが治まったのか男がこちらを睨んでくる。


「なんなんだよあんた…あとちょっとだったのに!!」

「お互いの同意がないまま性行為に及ぶのはいかがなものかと」

「うるせぇよ!お前には関係ないだろ!!」


薄汚れた目だ。僕よりも年下であることが伺えるが、喋りながら唾を飛ばしても気にしない下品さ、離れていても鼻を挿す煙草の悪臭に眉を顰める。

杏ちゃんのような中学生にも手を出す輩だ、品がないのも無理はないだろう。


「それになぁ…俺はあの女の彼氏なんだよ。そいつの娘に何しようが俺の勝手だろ」


汚い口は黙ることを知らず、気持ちの悪い口角を上げ黄ばんだ歯を顕にして言葉を紡ぐ。

肩から彼女の恐怖心が伝わる。

…どんなに不潔なものより、目の前の人間の方が幾分も不潔に見えた。

同じ空間の空気を吸っているというだけで気分が悪くなり、外に出たくなる。

呼吸をする度に肺が腐っていくような気持ちで彼に告げる。


「…警察に連絡しますね」


このまま放っておいたら、また同じようなことが起きかねない。ポケットから携帯を出し、汚物が不審な動きをしないか見張りながら110に電話を掛けていると、


「おい!」


おもむろに奴に腕を掴まれる。その瞬間思考が停止した。

僕の目に入ったそれは、あまりにも汚れていたからだ。

深く切った平爪の間には頭をひっかいたようなカスが詰まっている。色黒に焼けた大きいとも小さいとも言えない手は、黒く汚れていて仕事終わりだったのだろう。指は少しテカりが見え、皮脂が浮かんでいることが伺える。そしてなんと言っても臭いだ、煙草と小水が混ざったような悪臭が僕の鼻を汚した。


気がつけば、僕は目の前のより小さくなった物体を何度も蹴り続けていた。

僕の肩にあった生暖かいものはいつ降ろしたのか分からないが、無くなっていた。

脚に力を入れて蹴る度、汚い鳴き声が小さく聞こえる。何度蹴り続けても聞こえるそれがとても不快で、聞こえなくなるまで何度も何度も蹴り続けた。


固い、固い、熱い柔らかい、固い、熱い、柔らかい、柔らかい、固い。


後ろから女性の悲鳴があったのような気がする、けれど汚物の鳴き声に掻き消されて僕には空耳のようだった。


蹴り疲れた頃には、足元に転がる物体はピクリとも動かなくなっていた。僕は息が切れ、久しぶりに体を張ったせいか疲労を感じる。

汚物の唾液や血液、小水が付着した靴下を力任せに脱ぎ、汚物の上にたたきつける。

深呼吸をしながら後ろを振り向くと、杏ちゃんが怯えたように僕を見ていた。


さっきまで人を蹴り、興奮していたせいか段々頭がすぅ…っと冷めてくる。

ムキになりすぎていて、彼女が居るのを忘れてしまっていた。

我に返り、彼女の目をもう一度見るが、その目は僕を怪物とでも言いたげに怯えていた。


「……酷いところを見せてしまったね、体、大丈夫?」


なんとか一声かけると、彼女はゆっくりと頷いた。まだ会話をしてくれることに安堵し、床に落ちている携帯を拾う。

発信を押していなかったようで、改めて押しスピーカーに耳を傾ける。


「あ、もしもし?警察の方ですか?すみません、月役アパートで30分前ほど……」


通報を完了させ、警察が来るのを待つ。

携帯をポケットへしまい、再度杏ちゃんを見ると僕を見上げていた。


何故だか、最初挨拶に来た時の顔を思い出した。


「警察の人がもう少しで来るから待っててね。お母さんの電話番号わかる?」

「う、うん…」


警察の人が来る前にやれることを済ませ、彼女に僕の部屋着のカーディガンを被せる。

来るのにも時間はかかるし、今日は一際冷えるので風邪を引かれては困る。

なにより、これ以上性を表に出した姿のままでいられると不快で堪らないのだ。


玄関から入る、冷たい空気だけが心地よい。

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