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最終試練、そしてモカの記憶

 魔界研修、最終日。

 飼い主は、骨の研修所の前に立っていた。

 空には三つの月が揃い、地面は静かに脈打っていた。


「……最終試練って、何するんだ?」

 受付の悪魔が、静かに答えた。


「“選択”です。モカ様の進化を完了させるか、元の姿に戻すか。飼い主様の意思が、モカ様の存在を定義します」

 飼い主は、言葉を失った。


「……俺が決めるのか?」

「はい。モカ様は“異質”です。魔界でも、人間界でも居場所が曖昧。その存在を肯定するか否定するか――それは、飼い主様に委ねられています」

 そのとき、モカが現れた。

 第二形態のまま、静かに歩いてくる。

 その目は、どこか遠くを見ていた。


「……あたしの祖父は、狼人間だった。魔界の戦士で誇り高く、孤独だった。祖母は人間界のチワワ。小さくて優しくて、臆病だった」

 飼い主は、黙って聞いていた。


「二人は、誰にも理解されなかった。でも、互いを選んだ。あたしは、その“選択”の結果だ」

 モカは、空を見上げた。


「あたしは、どこにも属していない。魔界では異端。人間界では異物。でも、お前が“飼い主”だと言ってくれた。それだけで、あたしはここにいていいと思えた」

 飼い主は、ゆっくりと歩み寄った。


「……モカ。俺は、お前を“犬”として飼った。でも今は、“家族”だと思ってる」

 モカの目が、ほんの少し潤んだ。


「……進化、させてくれ。あたしは、もっと強くなりたい。お前を守れるくらいに」

 飼い主は、頷いた。


「じゃあ、進化しよう。俺も、覚悟決める」

 その瞬間、空が裂けた。

 三つの月が重なり、光が降り注ぐ。

 モカの体が浮かび上がり、第三の形態へと変化を始めた。

 毛並みは銀に輝き、背中には光の紋章が浮かび、

 その姿は――神話に出てくる守護獣のようだった。

 飼い主は、ただその光景を見つめていた。


「……すげぇな。俺の犬、神になった」

 モカは、静かに着地した。

 その目は、優しく、そして強かった。


「これからも、よろしくな。飼い主」

 飼い主は、笑った。


「こっちこそ。……でも、散歩は普通に行くからな」

「了解だ。リードは、魔力で強化しておけ」

「お前、引っ張るタイプかよ!!」


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