魔界視察団、来訪。そして飼い主、面接される
翌週の火曜日。
飼い主が仕事から帰宅すると、玄関に見知らぬ靴が並んでいた。
革靴、ブーツ、そして…蹄。
「……蹄って何!?誰か馬来てる!?てか、誰が勝手に上がり込んでんの!?」
リビングに入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
スーツ姿の悪魔たちが、円卓を囲んで座っていた。
一人は角が3本、もう一人は顔が煙でできており、もう一人は完全に植物だった。
「お帰りなさい、飼い主様。魔界視察団の皆様です」
ブリーダーがにこやかに立ち上がった。
「本日は、モカ様の飼育環境と、飼い主様の“適性”を確認に参りました」
飼い主は、冷蔵庫から缶チューハイを取り出した。
「……飲まなきゃやってられん」
視察団の一人が立ち上がった。
顔が煙の悪魔だった。
「まず、飼育環境の確認。魔気の流れは良好。結界は不完全ながら、モカ様の自律制御により安定。ただし、観葉植物が魔界化しているため、剪定を推奨」
飼い主は観葉植物を見た。
葉が黒く、時々「フフフ…」と笑っていた。
「……俺、もう何が起こっても驚かない…気がする」
次に、植物悪魔が立ち上がった。
葉っぱがパラパラと落ちるたびに、床が少し焦げた。
「飼い主様の精神耐性、現在レベル3。魔界基準では“ギリギリ一般人”。ただし、ツッコミ力が高く、魔界とのコミュニケーションにおいて有用と判断」
「ツッコミ力って何!?俺、芸人枠なの!?魔界で!!?」
最後に、角3本の悪魔が立ち上がった。
声は低く、響くようだった。
「モカ様の進化は順調。飼い主との絆も確認済み。よって、飼い主様を“魔界公認飼育者”として仮認定する」
「仮?なんで仮!?俺、何すれば本認定なの!!?」
「魔界研修への参加が必要です。場所は“第六次元の谷”。持ち物は、耐熱靴、精神安定剤、そして“覚悟”です」
「覚悟って何?物理的に持てるの!?どこで売ってるの!!?」
モカがソファからひょいと顔を出した。
「……行くか?」
飼い主は、缶チューハイを一気に飲み干した。
「行くしかねぇんだろうな……」
視察団は立ち上がり、礼儀正しく一礼した。
「では、次回の満月に迎えを差し向けます。なお、遅刻された場合は時空の裂け目に落ちる可能性がありますのでご注意ください」
「時空の裂け目って何!?俺、遅刻癖あるんだけど!?どうすればいいの!?」
その夜、飼い主は魔界研修の案内書を読みながら、モカに言った。
「……俺、ほんとに犬飼ってるんだよな?」
モカは、第二形態のまま、静かに答えた。
「犬だ。ちょっと変わってるだけのね」
飼い主は、案内書を閉じた。
「……ちょっとの定義、教えてくれ」