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第二形態、発動。そして、飼い主の叫びは宇宙に届く

 満月の夜。

 空は異様なほど澄み渡り、月が異常に大きく見えた。

 飼い主は、ベランダで缶ビールを片手にため息をついていた。


「……進化って、ほんとにするのか?」

 リビングでは、モカが静かに座っていた。

 目は閉じられ、体からは微かな魔気が漏れている。

 その周囲には、ブリーダーが描いた魔法陣が光を放っていた。


「進化促進剤、投与します」

 ブリーダーが瓶の液体をモカに差し出す。

 モカはそれをじっと見つめ、無言で受け取った。

 そして、ひと舐め。

 その瞬間、空気が震えた。


「……うわ、なんか揺れてる!?地震!?違う、空間が歪んでる!?俺の部屋がワープしてる!?」

 壁に飾っていたカレンダーが逆さになり、テレビの画面が一瞬砂嵐になった。

 観葉植物が空中に浮き、冷蔵庫が「ウィーン」と鳴いた。


「冷蔵庫が鳴いた!?今、鳴いたよね!?俺の家、どうなってんの!?」

 モカの体が、ゆっくりと光に包まれていく。

 毛並みが風に逆らうように逆立ち、目が青から金へと変化する。

 背中から、黒い羽根のようなエネルギーが広がり、床に魔法陣が浮かび上がった。


「第二形態、発動完了です」

 ブリーダーが静かに言った。


「……これが、モカの真の姿か」

 飼い主は、床にへたり込んでいた。


「俺、もう無理……この部屋、異世界になったし……冷蔵庫が鳴くし……モカが神々しいし……」

 モカは、ゆっくりと飼い主の方へ歩み寄った。

 その姿は、確かにチワワの面影を残していたが、どこか“神獣”のような威厳があった。


「……怖いか?」

 飼い主は、しばらく黙っていた。

 そして、ぽつりと答えた。


「……怖いよ。でも、モカがモカなら、俺は飼い主だ」

 モカは目を細めた。


「その言葉、魔界では“契約”とみなされるぞ」

「え、ちょっと待って、それはそれで怖い!!」

 ブリーダーがにこりと笑った。


「おめでとうございます。これで、飼い主様も魔界登録完了です」

「登録!?俺、登録した!?今、契約した!?何に!?誰と!?どこで!?」

 その瞬間、スマホに通知が届いた。


【魔界アプリ】ようこそ!新規契約者様!

【特典】魔界ポイント1000P進呈!

【注意】契約解除には魂の提出が必要です。


「魂って何!?ポイントって何!?俺、もう普通に戻れないの!?ねえ!?」

 モカは、静かに言った。


「……でも、俺はお前に飼われてよかったと思ってる」

 飼い主は、しばらく黙っていた。

 そして、ふっと笑った。


「……俺も、モカが来てから、退屈しないよ」

 その瞬間、魔法陣が消え、部屋の空気が元に戻った。

 冷蔵庫も静かになり、観葉植物は床に落ちた。

 モカは、第二形態のまま、ソファに飛び乗った。


「……さて、次は魔界からの“視察団”が来るらしいぞ」

 飼い主は、缶ビールを一気に飲み干した。


「俺の人生、どこで間違えたんだろうな……」


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