8:魔力譲渡③
雷蜘蛛はすぐに発見することが出来た。
木々の間に巣を作り、卵嚢と呼ばれる糸を袋状にまとめたものを抱えているのが見えた。
雷蜘蛛が吐く糸は雷電を帯びており、巣全体から稲妻がバチバチと飛び散っているのが遠目からも分かった。
「義姉様、巨大な蜘蛛ですね。馬よりも大きい……」
「ええ。雷蜘蛛の中でもかなり大きい個体だと思います」
「あんな魔獣と戦って、勝てるものですか……?」
「雷蜘蛛に有利なのは土魔法です。今回は地面の土を使って、卵ごと一気に生き埋めにしてしまおうと考えていますわ。ただ、私が土魔法の準備をしている間に雷蜘蛛が移動すると困ります。騎士たちには足止めをしてほしいのです」
スノウと騎士団長たちに向けて、私は説明する。
「僕もなにか義姉様のお手伝いを……」
「スノウは見学していてください。初めての魔獣討伐なのですから」
それで十分だと言えば、スノウは不服そうな表情をする。
しかし反抗することはなく、「分かりました」と言って、馬たちと一緒に戦闘の邪魔にならない位置まで下がった。
「では、土魔法の準備を始めます。騎士の方々、援護を」
「承知いたしました、ルティナ様!」
「〈土よ、我が意志のままに動け〉」
私は地面に向けて、土魔法をかけていく。魔力をどんどん使って、地面の土を柔らかく動かしていく。
異変に気付いた雷蜘蛛が巣から離れようとしたところへ、騎士たちが矢を放つ。
雷蜘蛛は騎士たちに向けて雷属性の糸を吐いた。
糸に捉えられた騎士が感電し、「うわぁぁぁ!!」と悲鳴を上げる。
仲間の騎士たちが感電しないように気を付けながら、彼を助け出そうとしていた。
これ以上被害者が出る前に、土魔法を……!!
地面の土が盛り上がり、雷蜘蛛へ襲い掛かろうとしていた。
するとその時、空が一気に暗くなり、大粒の雨が降り始める。
私がせっかく持ち上げた土が、どんどん泥に変わっていった。
「……いいえっ! 泥でも構いませんわ! 〈泥よ、我が敵を地中に沈めよ〉」
泥は雷蜘蛛を押し潰し、生き埋めにしたかのように見えた。
しかし、泥は土と違って水を大量に含んでいる。泥の中にいる雷蜘蛛が死ぬ物狂いで放電すると、私たちのほうまで電流が流れてきた。
「きゃあ……っ!!」
地中から飛び散った火花が指先に触れ、火ぶくれが出来た。あまりの痛みに涙が出る。
騎士たちからも呻く声が聞こえてきた。
「〈ど、泥よっ! 我が敵を圧死せよ!〉」
とにかく絶命させれば私たちの勝ちだ。そうすれば放電も止まる。
それなのに、この土壇場でこれ以上の魔力が出てこない。
あぁ、なんでこんな大事な時に、私の魔力は安定しないの……!
焦れば焦るほど、展開した魔法を制御出来なくなり、泥の間から雷蜘蛛の足や胴体の一部が出てきてしまう。
再びの放電に、私は「一時退却してください!」と騎士を後退させた。
「義姉様、落ち着いてください」
気が付くと、私の隣にスノウが立っていた。
スノウは震えている私の肩を支えると、そのまま私に口付けた。――魔力譲渡だ。
私の体内に温かな魔力が流れ込んでくる。あまりにも気持ちが良くて、首の後ろから背中にかけて妙にゾクゾクとした。
スノウから魔力を譲渡されると、私は再び魔法をコントロールすることが出来るようになる。
雷蜘蛛がこれ以上泥の中から出てこないように、もう一度泥を被せた。
「スノウ、魔力を分けてくれてありがとうございます。でも私、今日はどうにもこれ以上の魔法を使うことが出来ないみたいで……」
「大丈夫です、義姉様。あとは僕がやります。〈泥濘の檻よ、凍てつけ〉」
彼がそう言って魔法を放つと、雷蜘蛛を飲み込んだ泥の山がそのままガチガチに凍りついた。あまりにも一瞬のことだった。放電も完全に止んだ。
「すごいわ、スノウ……。なんて見事な魔法でしょう……」
私が呆然と言うと、スノウが嬉しそうな笑みを浮かべた。
「義姉様のお役に立つために、頑張って勉強をしましたから。それを実戦で示すことが出来て良かった」
しばらくすると、後退した騎士たちが戻って来て、凍りついた泥の塊を見て驚いていた。
騎士団長も「本家の後継者に選ばれただけはありますね。流石です」と絶賛していた。
こうしてスノウの初めての魔獣討伐は大成功に終わった。
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私が十五歳になると、ようやく魔力量が安定した。
そうなるまでに一体何度スノウから魔力譲渡を受けたのか。もう思い出せないくらいに義弟と口付けを交わしてしまった。恥ずかしい。
けれど医療行為だし、そもそも最初に魔力譲渡の口付けを行ったのは私なので、文句を言うことも出来ないのだけれど。
安定した私の魔力量はマデリーンよりも多く、エングルフィールド公爵家一族で歴代一位の記録を残した。
と同時に、私がアラスター王太子殿下の婚約者になることが決定した。
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