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婚約破棄された魔力無し令嬢ですが、塩対応だった義弟から実はド執着されていました  作者: 三日月さんかく


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24:はかりごと①(マデリーン視点)



 マデリーン・エイベルは自分のことを、とても可哀想な少女だと思っていた。


 エイベル侯爵家という貴族の中でも上位の爵位を持つ家に、男兄弟ばかりの中で紅一点として生まれて、家族から大変可愛がられて育った。

 高い魔力を持っていたが、生まれながらにして安定していたおかげで魔力由来の体調不良もない。

 茶色の髪と薄紫色の瞳は控えめではあるが清楚な美貌ゆえに、第一印象でも得をしてきた。

 でも、それだけ恵まれていても、マデリーンは自分のことが憐れでならなかった。

 マデリーンのすぐ傍には、ルティナ・エングルフィールドがいたからだ。


 四大公爵家の一つに生まれ、地位も権力も財力もすべてが自分より上の従姉。

 一人娘ゆえに公爵からの愛情を一心に受け、ルティナはマデリーンが駄々をこねても手に入れられないようなドレスや宝飾品を山のように買ってもらっていた。

 そのくせルティナは『贈り物の中で本が一番嬉しいわ』などと良い子ぶるのも腹が立つ。

 母親が産褥期に亡くなったというだけで、一族の誰もがルティナを可哀想がるのも気に入らない。

 ルティナは魔力がまだ安定せず時折寝込むこともあったが、その度にマデリーンは、まるでルティナから『私はあなたよりも繊細なの』と嘲笑われているような気がした。

 お茶会でマデリーンに鼻の下を伸ばして話しかけてくる令息たちが、ルティナの前では本気で緊張して、マデリーンに対するよりも丁寧に接するのも許せない。

 ルティナがマデリーンのことを『お淑やかな美人』だと褒める度に、見え透いた嘘はやめてほしいと本気で思った。

 マデリーンだって本当は、ルティナのように美しい金髪と鮮やかなピンク色の瞳の華やかな美貌になれるのなら、なりたかった。


 一度だけ、マデリーンは両親に自分の気持ちを打ち明けたことがある。

 娘のことを溺愛してくれる両親なら、可哀想なマデリーンを慰めてくれると思ったのだ。


「ルティナばかりずるいわ! 私よりもいい暮らしをして、私よりも皆から丁寧に扱われて! 私のほしいものを全部持っているくせに、ルティナはその全部をほしいと思ったこともないのよ!」

「それは仕方がないだろう。それが身分というものだ」

「そうよ、マデリーン。あなたは公爵令嬢のルティナ様を羨むけれど、他の誰かは侯爵令嬢のあなたを羨んでいるの。世の中とはそういうものなのよ」


 自分を正論で諭そうとする両親を見て、マデリーンの心はスッと冷えた。

 憐れな娘を可哀想がるでもなく、『ならばルティナ様のものより素晴らしいものを買ってあげよう』と金庫の扉を開けようともしない。役立たずの両親だ。もしかしたら両親は、本当はマデリーンのことを愛していないのかもしれない。

 彼らのことを心の中で切り捨てたマデリーンは、「わかったわ。身分って大変なのね」と、しおらしく頷いた。


 物分かりのよい娘の態度にホッとした両親は、この時のマデリーンの言葉を幼さゆえの一時的なわがままだと思い、次第に忘れていった。

 けれど、マデリーンの隠された傲慢さは変わらなかった。

 そして彼女が九歳になり、初めてアラスター王太子殿下と面会すると、マデリーンは人生に活路を見出した。





「私はこの国の王太子、アラスターである。二人とも楽にせよ」


 マデリーンの前に現れたアラスターはそれだけ言うと、静かにお茶を飲みだした。

 アラスターは王太子教育の一環で年に数回ほど各地を回り、魔獣討伐の経験値を上げているのだという。

 今回はエングルフィールド公爵領で魔獣討伐を行い、そのついでにエングルフィールド公爵家からの婚約者候補と面会する予定が組まれていて、マデリーンもルティナと一緒にアラスターとお茶会をすることになった。


 マデリーンはアラスターをぽ~っとした表情で見つめる。


 アラスターは、マデリーンの知る同世代の男の子たちの中で、抜きんでて格好良かった。

 本家の養子となったスノウ・エングルフィールドも整った顔立ちをしているけれど、まだまだあどけない子供なので可愛さが勝っているし。

 それにアラスターのほうが上品さや優雅さが段違いだ。元伯爵令息ごときが、生まれも育ちも完璧な王太子に敵うはずがない。

 それに何より、ルティナとマデリーンのことを平等に扱うアラスターの態度がとてもいい。

 彼は王族だから、公爵家さえも目下の存在でしかないのだ。


(……そうか。アラスター殿下の妃になれれば、何もかもがひっくり返るんだわ)


 この人と結婚出来れば、現状の不満も惨めさもすべて消えてなくなる。

 ルティナや、ルティナをちやほやする周囲の人間を見返すことが出来る。

 憐れで不幸な自分の人生を逆転することが出来るのだと、マデリーンは気が付いた。

 しかも、アラスターの妃になるのに必要なのは、実家の地位や権力や財力、ましてや華やかな美貌や性格の良さなどではない。魔力量の多さなのだ。

 魔力の安定しないルティナより、マデリーンのほうが現状秀でていた。


(私、アラスター殿下の妃になりたい。アラスター殿下がほしいわ!)


 凛々しくも高潔なアラスターが、自分に微笑みかけて愛を囁くところを想像すると、マデリーンの胸は高鳴った。

 恋と、女の強かな欲望の違いなど考えたこともないマデリーンは、自身に沸き上がった感情を恋だと判断した。


 その後、マデリーンは城で開かれるお茶会や行事に出席したり、アラスターが公爵領を訪れる度に面会して、自分の気持ちを育ててきた。

 彼の婚約者に決まったら他の婚約者たちに格の違いを見せてやるために、淑女教育も魔法の勉強も頑張った。魔獣討伐なんて野蛮なことは、さすがにしなかったけれど。

 魔獣討伐など適当でも、魔力量の多い王子さえ産めれば王妃の役割を果たしたことになるだろう。


 けれど十五歳になって魔力測定を受けると、――マデリーンよりもルティナのほうが魔力量が多いことが判明した。

 結局マデリーンはアラスターの婚約者にはなれなかったのだ。


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