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婚約破棄された魔力無し令嬢ですが、塩対応だった義弟から実はド執着されていました  作者: 三日月さんかく


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23:魔法学校見学②



 ようやくスノウの手が顎から離れたので、再び校庭を東に進んでいく。

 だんだん樹木の数が増えていき、立派な木立になってきた。その辺りから周囲の魔力が急激に増えてくる。


「どうやら、この近くに建物があるようです」

「立ち入り禁止区域なだけあって、普段からあまり人気がないようですね」


 木々の間に目を凝らすと、建物が見えた。屋根の一部や石壁が崩壊し、全体に黒ずんでいる。

 あそこにスノウの父の研究室があるのだろう。


「義姉様、体調は大丈夫ですか?」


 魔力の低い人間は、空気中の魔力の濃度が高い場所には接近出来ない。無理に近付くと体調を崩すのだ。

 幼い頃にスノウが氷の城に閉じ籠った時も、あまりに魔力が高くて、父や精鋭の騎士ですら近付くことが出来ず、私とマデリーンに救助依頼が来たことを思い出す。


「それが、とても不思議なのですが……。特に影響がないようです」

「魔力量がなくなった義姉様が?」

「はい」


 建物に近付けないことを懸念していたけれど、問題はなさそうだった。


 スノウはしばらく難しい顔をして、手を顎に当てている。

 ようやく考えがまとまったようで、口を開いた。


「仮定の話ですが、義姉様の魔力を奪った犯人は、もしかすると魔力を奪い切れてはいないのかもしれません。義姉様の魔力はどこか別の場所に保管されていて、まだ義姉様の肉体に紐づけられている。だから義姉様の肉体がこうして魔力の高い場所にいても、影響を受けないのかもしれません」

「私にまだ紐づけられている……」

「犯人が完成させたと思っている『他人の魔力を奪う魔法』が、不完全だったということです」


 そういえば、私の魔力が少し戻ってきたことをスノウに話したかったけれど、忘れていたのだった。

 他の人には、ぬか喜びさせたくなくて意図的に口を噤んでいたけれど。

 魔力が戻ってきたことも何か手がかりになるかもしれない。


 私はそう考え、「あのね、スノウ」と、魔力量の変化を伝える。

 ついでに初級魔法で地面に落ちていた木の枝を浮遊させてみせる。


「やはり、義姉様の肉体にまだ魔力が紐づけられているのでしょう。ほぼ確実に。……あの程度の魔石では義姉様の魔力が抑えられないということか? 傷まで出来ていたしな……」


 スノウは最初は普通に喋っていたが、途中から独り言になってしまい、小声で聞き取りづらくなった。


「何か確証があるのですか、スノウ?」

「……いえ。義姉様にまだ説明出来るほどではありません」


 スノウはそう言って首を振ると、木立の奥にある建物に真っ直ぐ視線を向けた。


「とりあえず先に進みましょう」

「……そうですわね」


 腑に落ちなかったが、私はスノウに手を取られて、半壊した建物の中へと入った。





 保護魔法がかけられた建物は風雨の影響を受けることもなく、事故当時のまま残されていた。

 埃のない玄関ホールや、掲示板に貼られた紙類、壁に飾られた絵画も綺麗なままで、人がいないことが不思議なくらいだ。

 それでも廊下を先に進んで行くと、事故の影響が現れてくる。

 亀裂の入った壁や、ガラスが割れて木枠しか残っていない窓、倒れて散らばっている備品。全体的に煤けていて、魔力暴走の被害の大きさを物語っている。


 ホロウェイ伯爵の研究室は扉が取れていた。たぶん事件の時に吹っ飛んだのでしょう。

 中に入ると、床に焦げ跡のようなものがある。あの中心でホロウェイ伯爵は亡くなったのだと思われる。

 持参していた花束を床に備え、私は静かに冥福を祈る。

 ホロウェイ伯爵と実際に会ったことは一度もないし、スノウが快く思っていないことも知っているけれど、私の大切な義弟をこの世に誕生させてくれた人のひとりだ。死者に対する最低限の礼儀は通したかった。


 祈りを終えて顔を上げると、すでにスノウは部屋の中を物色していた。どうやら彼は手を合わせなかったらしい。

 事件後にすべての資料が押収されたため、棚の中は空っぽだった。机の引き出しにも何もない。


「残念ですが、空振りのようですわね」

「いいえ。空振りではないようですよ、義姉様」


 突然、スノウは机を浮遊させると、机の下に敷かれていた小さな絨毯を剥がす。

 一見なんの変哲もない床材が露出されたが、スノウが床の一部を弄ると、地下収納が現れた。中にぎっしりと書物や紙の束が詰め込まれている。


「ほら。ありました」

「まぁ、そんなところに……。城の騎士たちでは見つけ出せなかったのですね」

「とりあえず収納鞄(マジックバッグ)にすべて入れておきます。中身の確認は領地に戻ってからでいいでしょう」


 収納鞄も魔道具の一種だ。魔石が縫い付けられて、キラキラと輝いていた。


 地下収納の中身をすべて収納鞄に移すのに、それほど時間はかからなかった。

 私たちが建物の外に出るとまだ授業中のようで、辺りは変わらず静かである。

 あとは校門に戻って、エングルフィールド公爵家の馬車で帰るだけだ。


「収穫があって本当に良かったですね、スノウ」

「はい、義姉様。資料のほうは僕が確認しておきますね」

「そんな、悪いですわ。二人で確認すれば早く終わるはず……」

「あ。義姉様。少し待っていてください!」


 来た道を戻る途中で、スノウが突然花壇のほうへ駆けていく。

 何事かと思ったら、魔法学校の用務員の姿があった。どうやら花壇の柵を修理しているらしい。

 スノウは用務員に何やら話しかけている。

 知り合いというわけでもないでしょうに。

 何か聞きたいことでもあるのかしら?


 不思議に思いつつもその場でスノウを待っていると、十分くらいしてから彼が戻ってきた。


「義姉様、お待たせしました。さぁ、屋敷に帰りましょう」

「あなたが急に用務員に話しかけて驚いたわ。一体なんの話をしていたの?」

「大したことではありませんよ」


 スノウはそれ以上答えず、私の手を取って歩き出す。

 結局、スノウが用務員と何を話したのか分からず仕舞いだった。


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