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婚約破棄された魔力無し令嬢ですが、塩対応だった義弟から実はド執着されていました  作者: 三日月さんかく


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21:婚約披露パーティー②



 ダスティピンクの可愛らしいドレスを着たマデリーンは、アラスター殿下の腕に掴まり、幸せ絶頂の笑みを浮かべていた。

 彼女の細い首元には、以前会った時にも着けていた魔石のペンダントが輝いている。


 マデリーンは私のせいで、突然王太子の婚約者になってしまった。

 通っていた魔法学校も退学しなければならず、城での暮らしにもまだ慣れていないでしょうに。

 これから始まる『災害級』の魔獣討伐は、本当に大変で苦しいものだ。私も初めの頃は自分の不甲斐なさに泣いてばかりいたわね……。


 運命が激変したのに明るく笑うマデリーンに、私はホッと安堵した。

 彼女が強い女性で本当に良かったわ。


「ご婚約おめでとうございます、マデリーン。あなたはいつも綺麗ですけれど、今日はとびきり美しいですわ。まるで勝利の女神様のようです」

「ありがとう、ルティナ。アラスター殿下に捨てられたあなたに祝ってもらうなんて、なんだか申し訳ない気がするけれど……」

「いいえ。マデリーンとアラスター殿下のご婚約はオルティエ王国にとっての慶事です。ぜひ胸を張ってください」

「うふふ、ルティナならそう言ってくれると思っていたの!」


 私とマデリーンの会話を聞いていたクリステルたちが、「よく言うわよ、あの子」「いけしゃあしゃあと」「まぁ、ルティナは鈍感だから通じていないけれどね」などと、ヒソヒソ言っている。


 今、私の鈍感さが発揮される場面があったかしら?

 ただお祝いを伝えただけなのに?


 不思議に思ったが、とりあえずマデリーンに今後の応援を伝える。


「これから大変なことばかりですけれど、優秀なマデリーンならきっと乗り越えられますわ。頑張ってくださいね」

「ええ! アラスター殿下のことは私に任せて! 私、精一杯アラスター殿下に尽くして、ご寵愛を賜るわ!」


 ……ご寵愛? あのアラスター殿下に対して……?


 マデリーンもよく分からないことを言う人だわ、と思っていると。

 当のアラスター殿下が私に声をかけてきた。


「ルティナ、その後は何か変わりないか?」

「はい。おかげさまで恙なく暮らしております」

「そうか。魔法が使えないのは不便だろうが、お前は頭の回る女だ。内向きのことに励み、エングルフィールド公爵家をよく支えよ。それが回り回ってオルティエ王国のためになる」

「はい、アラスター殿下」


 目の前に立つアラスター殿下は、相変わらず顔が良い。久しぶりに間近に見ると圧倒される。

 魔獣討伐の度に、アラスター殿下の指揮に従った。

 最小限の人的被害で魔獣を倒すアラスター殿下の指揮は的確で、彼が前線に立つと私も騎士たちもとても安堵したものだ。

 この人に従って戦っていれば必ずや国は守れる、と。

 もうアラスター殿下と共に戦うことはないけれど、今でも彼に対する尊敬の念は変わらなかった。


「……義姉様」


 私がアラスター殿下の顔を見上げて、大変だった魔獣討伐の日々をしみじみと思い返していると。

 スノウが横から私の腕を掴んだ。


 もう私に冷たい態度は取らないと言っていたので、その顔には笑みが浮かんでいる。

 けれど、セルリアンブルーの彼の瞳は全然笑っておらず、全身からは冷気が漏れている。まさか魔力を制御出来ていないのでは……?


「どうしたのですか、スノウ? 何か怒っているのですか? 冷気が漏れていますよ!」

「あぁ、申し訳ありません、義姉様。ついうっかり」

「ついうっかりとは……?」

「王太子殿下と別れたというのに、相も変わらず仲の良いご様子で。思わず妬けてしまいました」

「仲が良い……?」


 私とアラスター殿下は明らかに上司と部下な関係だと思うのだけれど。なんならクリステルたちもそんな感じなのに。

 それでもスノウは焼きもちを焼くのか、と驚いてしまう。

 ……それだけ私のことが好きなのかと思うと、頬がポッと熱を持った。


 スノウはギラギラした瞳のまま、アラスター殿下の前に出る。


「アラスター王太子殿下、スノウ・エングルフィールドよりご挨拶を申し上げます。本日はご婚約おめでとうございます」

「あぁ、久しぶりだな、スノウ・エングルフィールド。健勝なようで何よりだ。領地のほうはどうだ?」

「先日はカトプレバスを討伐いたしました。人的被害はありません」

「よくやった。流石はエングルフィールド公爵家の跡継ぎだ。領民を守り、領地を統治し、オルティエ王国を支えよ」

「はい、アラスター王太子殿下」


 スノウは一礼してから、アラスター殿下にこう宣言した。


「アラスター王太子殿下に申し上げておきます。僕はルティナ・エングルフィールドに求婚いたしました」

「ス、スノウ……!?」


 そんなことを殿下に伝える必要はないのでは? まだ婚約を結んだわけでもないのだし……。


 私はオロオロするが、こちらの様子に注目していた貴族たちが騒めいていた。「そんな! スノウ様が!?」「エングルフィールド公爵家は他家と縁を結ばず、一族の強化を図るつもりなのか」などと、様々な声が聞こえてくる。


「自ら婚約破棄をした相手を、後々ほしがるような真似は致しませんよね、アラスター王太子殿下?」


 妙な威圧感を発しているスノウに、アラスター殿下は淡々と答えた。


「そうだな。ルティナは有能な女性だが、魔力がない以上は王家に必要ない。彼女の婚姻はエングルフィールド公爵家の好きにせよ」

「そのお言葉を忘れないでください」


 スノウとアラスター殿下の会話が終わった途端、マデリーンが顔をズイッと寄せてきた。


「スノウから求婚されたのね、ルティナ! おめでとう!」

「マデリーン……。私、その言葉にありがとうと言っていいのかどうか……」

「あら、いやだ。もしかして迷っているの?」


 マデリーンは悪戯っぽそうに微笑む。


「私はお似合いだと思うわよ。そりゃあ、あの子の父親は魔力暴走を起こして亡くなってしまったし、母親は牢屋に入れられてしまって、婚家の力はまったくないけれど。でも、ルティナは本家直系の娘で、お金も権力もなんでも持っているじゃない? 結婚相手がどれだけ格下の男性でも問題ないでしょ」

「私、スノウのことを格下だなんて思ったことはありませんわ」

「ええ、そうでしょうね。ルティナは心優しい子だもの。あんな子のことでも、本当の家族として慈しんできたんでしょ」

「はい。確かにずっと、スノウのことを家族として大切に思ってきました。でも……」

「何をそんなに悩んでいるの? アラスター殿下に捨てられたルティナには、これ以上ない縁談だと思うけれど?」

「…………」


 マデリーンが親身になってアドバイスをしてくれているのに、私は上手く答えられなかった。


 スノウからの恋心に驚いてばかりで、それよりも先に進めないのは、私の恋愛経験の有無が問題なのではない。

 たぶん私は、自信がないのだ。私と結婚したスノウが、本当に幸せになれるのか。

 魔力を失ったと同時に価値を失ってしまった私が、どうやって誰かの役に立てるの? 誰かを幸せに出来るの?

 性格に難ありだったり、結婚に失敗していたり、貧乏な殿方に嫁ぐことは、そんなに怖くない。初めから不幸な結婚だと分かっているのなら、お互いに失望せずに済む。

 でも、スノウの恋心に甘えて結婚して、何も出来なくなった私に失望されてしまったら、とてもつらい。

 スノウの役に立てず、スノウを幸せに出来ないのなら、私は彼の手を取るべきではないと思う。


 ……私はそれほどにスノウのことが大切なのだ。


「あら、そろそろアラスター殿下とのダンスの時間だわ。じゃあまたね、ルティナ」


 マデリーンはそのままアラスター殿下の元へ移動し、彼の腕に絡みつくと、「そろそろダンスの時間ですわ」と甘い声で囁いた。


「ああ、そうだったな。では、スノウ。また時間がある時に話をしよう」

「はい、殿下」


 二人はダンスホールへ立ち去ろうとしたが、突然スノウがマデリーンを呼び止めた。


「マデリーン嬢」

「……何かしら?」

「美しい魔石のペンダントをお召しですね。なんの魔物のものでしょうか? かなり高ランクのものに見えますが」


 話しかけられたマデリーンは、一瞬無表情になった。

 けれど、すぐにいつものお淑やかな微笑みに戻る。


「さぁ? 私もよく知りませんの。あまりに綺麗な魔石だったため、父にねだって買ってもらっただけなので」

「気になりますね。よく見せていただいても?」

「……困るわ。目の肥えている本家の方にお見せするには、あまりに恥ずかしい品ですもの」

「そのようですね。魔石の端に小さな傷があるようだ」


 魔石に傷……?

 弱小の魔獣から取れるクズ魔石でも、傷を付けるのはなかなか難しい。

 ましてや強い魔獣から取れる高ランクの魔石なら、上級魔法をかなり撃ち込まなければ傷は付かないだろう。

 マデリーンが持つ魔石は、一体どんな来歴を持っているのかしら?


「まぁ、いやだわ。あまり見ないでくださいませ」


 マデリーンは困った様子でペンダントを外し、そのまま胸の谷間に隠してしまった。便利な収納力だ。


 ちょうど、部屋の隅にいる楽団が曲を奏で始める。

 マデリーンは「本当に急がないと。では失礼いたします」と言って、アラスター殿下と共にダンスホールに行ってしまった。


 私はスノウに近付き、声をかける。


「一体どうしたのですか、スノウ? あなたも魔石のアクセサリーがほしいのですか?」

「……いえ。なんでもありません」


 なんでもないと言う割には、スノウの視線はまだマデリーンを追っていた。


 もう少しスノウを追及しようかと思ったけれど、アラスター殿下とマデリーンがいなくなるのを見計らっていたのか、私に新たに声をかけてくる人が次々と現れる。

 お世話になった医師や学者たちに、通い詰めて親しくなった図書館の司書たち、魔獣討伐で一緒に戦った騎士や、騎士団長もいた。城の官吏たちまで挨拶に来てくれる。


「皆様にお別れも言わずに城を去ってしまい、申し訳ございませんでした。またお会い出来て嬉しいです」

「私たちもルティナ様にまたお会いすることが出来て、とても嬉しいですよ。その後、体調に何か変化はありましたか? 私のほうでも知り合いの医師にいろいろ情報を集めているのですが、なかなかルティナ様と同じ症状が見つからず……」

「我々もルティナ様のことをとても心配しておりました。ルティナ様がいらっしゃらなくなってから、騎士団の士気が落ちています。皆があなたを慕っておりましたからな」

「ルティナ様は次の女官の試験を受ける気はありませんかね? 女官は魔力量は関係ないですし。ルティナ様の知識に俺たちがどれほど助けられたことか……。一度考えてみてくれません?」

「女官の道は考えたことがありませんでしたわねぇ」


 皆と話していると、城で暮らした日々が蘇ってくる。


「やはり義姉様は城でも愛されていたのですね」


 スノウが眩しそうに目を細めて、私を見ていた。


「愛されていたかはよく分かりませんけれど……。毎日大忙しで、充実していました」


 私はお世話になった人々に改めて声をかける。


「私が抜けたばかりで大変だと思いますが、マデリーンはとても優秀な女性です。すぐに落ち着きますよ」


 私がそう言うと、何故か妙な沈黙が広がった。


 テーブルでまだ飲み食いを続けているクリステルとアダリン、そしてフェリシャが、「そうだといいけれど」「ルティナ並みに優秀だとしても、性格はルティナの爪の垢を煎じて飲めって感じだもんねぇ」「次の討伐はお手並み拝見といきましょう」と、乾いた笑い声を漏らしていた。


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