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婚約破棄された魔力無し令嬢ですが、塩対応だった義弟から実はド執着されていました  作者: 三日月さんかく


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17:独白②(スノウ視点)



 魔力を失い、幼い頃から定められていた将来が閉ざされてしまった義姉様は、きっと傷付いているだろう。義姉様に昔のように接して、慰めて……。

 いや、それではいつまで経っても義姉様から『義弟』としか見てもらえないだろう。

 一人の男として見てもらうためには、もっと甘やかな愛を注ぐべきだ。義姉様がマデリーン嬢から借りていた恋愛小説の中のヒーローのように。

 そして義姉様の心の傷が癒えた頃に、プロポーズをしよう。


 ……それにしても、あれほど抜きんでた魔力を持っていた義姉様が、突然それを失ってしまうなんて。義姉様の身に一体何があったのだろう?

 義姉様の魔力量が0になろうと、僕は構わないけれど。

 皮肉なことに、母の悍ましい実験のせいで魔力の増えた僕は、今では上級魔法も扱えて、お義父様と並ぶほどの魔獣討伐の成果を上げている。

 直系である義姉様が女公爵となり、魔獣討伐を僕が担当すれば、領地は安定するだろう。

 けれど、義姉様のお体が心配だ。義姉様には健康に長生きしてほしい。

 義姉様が帰ってきたら、その辺りのことをきちんと聞かないと……。


 ――などと計画していた僕のことなどお構いなしに、領地に帰ってきた義姉様はすこぶるいつも通りであったし、さっさと自分の身の振り方を決めて、お見合いまではじめてしまった。

 正直、義姉様を部屋に監禁して、縁談をすべて断ってしまいたかった。

 でも、そんなことをしても僕の中の怪物が一時的に満足するだけで、義姉様からの愛もお義父様からの信頼も失うだけだ。結局、僕が望む幸福には辿り着けない。

 義姉様はとにかく、行動力のある人なのである。





 傷心の義姉様が癒えてから、などと悠長なことは言っていられない。

 というか、あの人は王太子から婚約破棄されたことにまったく傷付いていない。義姉様は本当に臣下として務めを果たしていただけなのだろう。


 義姉様が伯爵とお見合いをしている間、僕はここ数日領民たちから目撃情報があがっている魔獣を捜索したが、結局空振りに終わった。

 急いで山の上にある屋敷に戻ると、玄関ホールに義姉様やお義父様、侍女のアンネロッテが待ち構えていた。義姉様は何やら話がしたそうにソワソワしている。

 アンネロッテに僕の上着を手渡す際に、お見合いが不発に終わったことを耳打ちされる。

 どうやらお見合い相手である伯爵の令息が敷地内で迷子になり、それどころではなかったらしい。

 幼い令息もすでに見つかり、帰っていったと聞いて、僕はホッと息を吐いた。


 だが、うかうかとはしていられない。

 義姉様が次のお見合いをする前に、お義父様に直談判しなければ。


「お義父様、男同士の大事なお話があります」


 お義父様はすでに僕が話したい内容を察して微苦笑されていたけれど、そのまま僕を執務室へと招いてくださった。


 ソファーに向かい合うと、僕は執事が運んで来た紅茶にも手を付けず、話し始めた。


「義姉様の縁談相手のリストに、僕も入れてください」


 正直、『義姉様をください』と言ってしまいたかったが、亡き妻の忘れ形見である娘を大切にしているお義父様にそんなお願いをしたら、殺されるような気がした。

 特に今は、義姉様が王太子から捨てられたばかりだ。お義父様の前で、義姉様の気持ちを蔑ろにするようなことは許されない。

 せいぜい義姉様との縁談のチャンスをお願いするのが限界だ。


 僕の表情は普段通りだったはずだが、お義父様は僕の算段を読み取る。


「良かったよ、スノウ。君が『ルティナと結婚させろ』と言うのなら、可愛い養子であっても炎で焼き尽くさなければならなかった。君が物分かりの良い子で嬉しいよ」

「僕も義姉様を愛しておりますから。お義父様に賛成していただけない婚姻なら、義姉様は喜びません」

「スノウは昔から本当にルティナが好きだったね。いつもルティナの役に立ち、喜ばせようとして、勉強や鍛錬をよく頑張っていた。昔の自分を見ているみたいだったよ」


 お義父様は紅茶を飲みながら、しみじみとした表情で言う。


「昔から『エングルフィールド公爵家の一族は、人を本気で愛してしまうと重くてねちっこい』と言われていたが。遠縁のスノウにも、その血がきちんと流れているんだな」

「はい」


 お義父様はカップをソーサーに戻すと、力強い眼差しで僕を射抜く。


「君をルティナの縁談相手の一人に加えよう。私が手を貸すのはそこまでだ。ルティナの夫になりたければ、自分であの子を口説き落としなさい」

「ありがとうございます、お義父様。それで十分です」


 僕はお義父様に深く頭を下げると、退室した。

 そして急いで正装に着替え、食堂で家族が揃うのを待っている義姉様の元に行く。


 義姉様は「私はまだお誕生日ではないはずですが……?」と不思議がっていたが、僕は構わず彼女の前に跪き、花束を差し出す。


「ルティナ・エングルフィールド公爵令嬢、僕はあなたを義姉ではなく、一人の女性として愛しています。どうか僕と婚約してください」


 途端に、義姉様は顔を真っ赤にさせて慌て始めた。

 僕の前でこんな表情を見せる義姉様は初めてで、新鮮で、すごく可愛かった。


 義姉様が、僕との婚姻がどれほどありえないものなのかを、いろいろごちゃごちゃと言ってくるが、そのすべてを論破していく。


 ずっと手の届かないはずだったあなたが、もう誰のものでもないというのだから。

 僕は手を伸ばさずにはいられないんだよ。


「これからはもう遠慮はしません、義姉様。僕はずっとあなたが好きだった」


 こうして僕は、あなたとの幸福を求めて動き出した。


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