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婚約破棄された魔力無し令嬢ですが、塩対応だった義弟から実はド執着されていました  作者: 三日月さんかく


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15/33

15:プロポーズ



 伯爵親子は無事に再会することが出来た。

 ルイ君は伯爵にしがみついてわんわんと泣きし、崖から落ちかけた話を聞いた伯爵も目元を赤くして、息子を力いっぱい抱き締め返した。


「お父様、逃げ出してごめんなさい!! ボク、もうお父様が再婚するのを反対なんかしないから……っ、だから……!!」

「いや、もういいんだ、ルイ。私が浅慮だったのだ。子供には新しい母親が必要だろうと思ったが、私たちはまだ、エリアーデを失った悲しみと向き合って過ごすべきだったのだろう」


 エリアーデとは亡くなった伯爵夫人のことのようだ。

 ルイ君は「……はい!」と頷き、伯爵の胸に深く顔を押し付けて泣き続けた。


 親子愛を感じる光景に胸が温まるが、二人の家族として私があの輪に入ることはなくなってしまったのだと思うと、少し寂しくもあった。


「このお見合いは完全に破談みたいね、アンネロッテ」

「はい。スノウ様のためにもこれでよろしかったと思います」

「どうしてここでスノウの話になるのかしら?」


 意味が分からなくてアンネロッテに問いかけたが、彼女は神妙な顔で「これ以上は未来の雇い主のために黙秘いたします」と答えるだけだった。


 しばらくすると、伯爵の腕から抜け出してきたルイ君がこちらにやってくる。

 そういえば拾ったブローチを渡せていなかったので、ちょうどいい。

 私が待ち構えていると、ルイ君は泣き腫らした顔に晴れやかな笑みが浮かべていた。


「ルティナお姉さん、あのね!」

「はい。どうしましたか?」

「お父様はお母様のものだから、あげられないんです。ごめんなさい!」

「ああ、そのことでしたらお構いなく……」

「だから代わりに、ボクがルティナお姉さんと結婚してあげます!」


 五歳の少年からのとても無邪気なプロポーズだった。

 うっかりルイ君の可愛さにほだされて承諾してしまいそうになったけれど、スノウとの約束を思い出す。

 それに冗談でも私と結婚の約束をすることは、ルイ君のためにならないでしょう。


「ルイ君が大人になってもまだ私と結婚してもいいと思ってくださるなら、その時に考えましょう」

「え? どうして大人になるまでダメなの?」

「結婚が出来るのは大人だけだからですよ」

「ふーん」


 なんだか納得のいかない表情をするルイ君の胸元に、私はブローチを付け直す。

 ルイ君はブローチを見て、「あ! お母様がくださったブローチだ! ボク、落としたことにも気付きませんでした。拾ってくれてありがとうございます!」と、すぐに意識が結婚から逸れた。


 その後、私の父と伯爵で話し合い、お見合いはその日の内に正式に破談となった。





 それにしても、ルイ君を助ける時にまた魔法が使えるようになったのはどうしてかしら?

 試しに一人で魔法の練習をしてみたが、上級魔法や中級魔法はまったく使えなかったが、初級魔法に限ってなら少しだけ使えるようになっていた。

 どうやら魔力がほんのちょっとだけ戻ったみたいだ。


 すぐにスノウと父に報告しようと思ったが、夕方にスノウが屋敷に帰ってくると、彼は「お義父様、男同士の大事なお話があります」と言って、父と執務室に籠ってしまった。

 スノウは酷く緊張した様子で、父は微苦笑していたけれど、一体何を話しているのかしらね?


 先に夕食を食べるのも寂しいので、食べずに食堂で二人を待っていると。

 いつの間にかきっちりと正装に着替えたスノウが、大きな花束を抱えて食堂に現れた。後ろから父も登場する。


「私はまだお誕生日ではないはずですが……?」

「それは知っています、義姉様」

「ではもしかして、出戻りサプライズパーティーでしょうか?」

「ルティナ、それはパーティーを開くような祝い事ではない」


 私の予想は違ったらしい。

 スノウと父からそれぞれツッコミを入れられた。


 では、どうしてスノウが花束を持っているのだろう?

 考え込む私の前で、彼が跪いた。


「ルティナ・エングルフィールド公爵令嬢。僕はあなたを義姉ではなく、一人の女性として愛しています。どうか僕と婚約してください」


 あまりにも予想外なスノウの台詞に、私は暫し固まった。

 冗談だと笑ってしまいたかったが、スノウは真剣な表情が浮かべ、父や給仕として控えているアンネロッテからも緊張感が漂っていた。


「……私とスノウは姉弟で」

「僕たちは義姉弟で、初めから血もそこまで近くありません。僕を断る理由になんかなりません」

「あ、あなたは、私と結婚しなくてもエングルフィールド公爵家を継ぐことが出来ますよ?」

「だから、義姉様を愛していると言ったでしょう? この家を継ぐための打算なんかじゃありません。他に懸念材料は?」


 義弟から突然女性として愛していると言われても、驚き過ぎて、プロポーズを受け入れたいのか、断りたいのかも分からない。

 そもそもスノウは、一体いつから私のことをそんなふうに思っていたのでしょう? 私のどこを好きになったのかしら?

 そんなことばかり考えてしまう。


 私は、ただ顔を真っ赤にして答えられずにいる情けない姿を、義弟の前で晒しているだけだった。


「……義姉様はお義父様に『魔力が激減した私でも嫁にもらってくれるという方がいるなら、性格に難ありでも、歳の離れた相手でも、後妻でもいいです』なんて言ったそうですね」

「え、あ、はい」

「それなら僕でもいいでしょう? 自分で言うのもあれですが見た目は悪くないですし、一時は義姉様に冷たく接してしまったけれど、難ありってほどの性格じゃない。年齢は一つしか違わないし、まだ未婚です。それに何より、義姉様の魔力量が激減しようと、どんな義姉様でもいいから、あなたが妻にほしい」


 確かに、私は父に言った。こんな私でも嫁に貰ってくれる方がいるのなら、条件が悪くてもいいと。

 でもそれはスノウを確実にエングルフィールド公爵家の後継者にするために屋敷を出たいがためであって……。

 ああ、でも、私がスノウと結婚してしまえば、後継者問題に火が着くことはないのかしら? 私は直系の実子ですし。

 だけれど、想定外の選択過ぎて……!


 まったく考えの纏まらない私に、スノウは花束を押し付けてきた。

 反射的に受け取ってしまう。


「とにかく、これから僕という選択肢について考えてください。義姉様が承諾してくれるまで、何度でも挑むつもりです」

「それでは、どんなに考えても、私とスノウが結婚する未来しかないような気がするのですが……」

「そうです」


 スノウは甘い笑顔を浮かべて、私にこう言った。


「これからはもう遠慮はしません、義姉様。僕はずっとあなたが好きだった」


 私は慣れない状況に頭を悩ませ、脳みそが破裂しそうになっていた。顔もずっと火照っており、そろそろ限界だったのだろう。

 フッと視界が真っ白になり――花束を抱えたまま気絶してしまった。


 アンネロッテから後から聞いた話では、大層慌てたスノウが私を抱えて、部屋まで運んでくれたらしい。


 私はベッドのサイドテーブルに飾られた花束を眺めながら、夢ではなかったのね、と頭を抱えた。


 そういえば魔力が少し戻ったことを夕食の際に報告する予定だったのに、スノウのプロポーズのせいで自分でも度忘れしてしまっていた。





「……あら? 魔石のこんなところに傷なんてあったかしら?」


 アラスター王太子殿下との婚約披露パーティーに向けて準備をしていたマデリーンは、ふと、自分の胸元にぶら下がっていたペンダントを手に取る。


 ペンダントの中央を飾る大粒の薄紫色の石は、高ランクの魔獣の体内から採れた最高級の魔石だ。かなり高額なので、マデリーンが父にねだってやっと買ってもらったものである。

 値段の問題ではなく、別の理由からペンダントの扱いには気を付けていたマデリーンだが、陽の光が良く当たるところで見ると、魔石に小さな傷が見えた。


(気を付けていたけれど、どこかにぶつけたかしら? ランクの高い魔石は、大量の魔力を込めることが出来る上に、高い硬度を誇ると商人から聞いていたのに……。まさか紛い物とかじゃないわよね?)


 想定外の出来事に苛立ちを感じ始めたマデリーンだったが、城の侍女から「マデリーン様、婚約披露パーティーのドレスの件でデザイナーが城に到着いたしました。客室でお待ちです」と声を掛けられると、淑やかな微笑みを浮かべて顔をあげた。


「分かったわ。今参ります。ちなみにアラスター殿下はご一緒に……? 殿下の衣装とデザインを合わせなければいけないでしょう?」

「殿下は今朝方、新しい討伐依頼が入りまして、そちらへ向かわれました。殿下の衣装はすでに専属従者がお決めになったので、マデリーン様はそれに合わせてデザインしたドレスの中からお選びになられれば問題ないとのことです」

「……あら、そうでしたの。ドレスを選ぶのが楽しみだわ」


 マデリーンの口元が一瞬引きつったが、すぐにまたいつもの可憐な表情に戻る。


(せっかくアラスター殿下の婚約者になれたのに、ご本人にはなかなか会えないのよね。衣装決めの時くらい、殿下とお話し出来ると思ったのに。これでは殿下との距離を縮められないじゃないの……)


 アラスター殿下に会えないのなら、せめて他家の婚約者たちを牽制したいと考えていたが、そちらのほうも上手くいっていない。

 どうやら婚約者たちも忙しく国中を飛び回っているらしく、城内にはあまり滞在していない様子だった。


(殿下に私の有用性を認めさせて、最愛の寵妃になり、他家の婚約者を城から追い出す。たったそれだけのことなのに、計画が全然進まなくて嫌になっちゃうわ。ルティナを追い落とすのはあんなに簡単だったのに。……まぁ、ルティナは元から騙しやすい女だったけれどね)


 内心でルティナを嘲笑うマデリーンであったが、そんなことはおくびにも出さず、今日の予定をこなすために部屋を出た。


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