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第14話 嵐の前の静けさ

ミルコの特殊なキャラを目の前で見せられ困惑していた無名だったが、その後世間話を交わし他愛もない話で盛り上がった。


「そういえば邪龍がくるんでしょ?ウチも戦うよ!」

「いや、ダメでしょう」

「なんで!?」

「良く考えてください。王族が前線に出るなどあり得ませんからね」

「でもウチ強いよ!」

「それは知ってますよ。ですが今回ばかりは恐らくガンツさんに止められると思います」

ミルコは確かに強い。

野生の本能が覚醒するととてつもない力で魔族をぶっとばしていたくらいだ。

だが無敵というわけではない。

それに一人娘のミルコを死地に送るなど絶対にガンツが許さないだろう。


だいたい空を飛ぶ邪龍を相手にするには最低でも飛行魔法が使えることが絶対条件だ。

地上では無類の強さを誇る高ランク冒険者も飛べないのであれば戦力外である。


当然ミルコは空を飛ぶことなどできやしない。


「でもウチだって何か力になりたいよ」

「そう言われても……」

無名なら飛行魔法を自分だけでなく他者にもかけることはできるが、飛行しながらの戦闘に慣れていなければ足手まといになってしまう。


「この国の王女なのに何もできないなんて嫌だな……」

「地上からの支援も大事な役割ですよ」

「でもウチ遠距離攻撃の手段がないよ……」

「バリスタを撃つとか弓とか武器を使えば役に立てますよ」

「バリスタ……分かった!お父様のとこに言ってくる!」

突然立ち上がるとミルコは走って部屋から出て行った。

バリスタを撃たせてくれとでも言いにいったのだろう。


部屋に一人残された無名は待っている必要はないかと部屋を出る。

その足で帰路につくと、リヴァリアはまだ帰ってきていなかった。


邪龍は今どの辺りにいるのだろうか。

少し気になり無名は空へと飛び上がった。


上昇するにつれ眼下に見える街は小さくなっていく。


「あれは……」

マール連邦諸島の方向を眺めるとドス黒い雲が空一面に広がっていた。

邪龍の纏う瘴気が空気中に溶け込みどんよりとした雲へと変化している。


それはゆっくりと獣王国へと向かってきていた。


このペースならば恐らく明日には来てしまう。

そう思った無名は即座に城へと飛んでいく。


上空から飛来する無名の姿に地上にいた門番や兵士たちは何事かと騒ぎ立てる。

そんなものお構い無しに無名は王城のガンツがいるであろう謁見の間へと飛び込んだ。


窓ガラスが飛び散り中にいた者の肩が跳ねる。

突然何者かが飛び込んでこれば当然の反応だ。


「誰だ!?」

「武器を下ろせ!」

ガンツだけはすぐに気づいたようで、兵士たちをすぐさま下がらせた。


「えらい勢いで来たが何かあったのか?」

「ええ。先ほど上空まで飛んでマール連邦諸島の方を見てみたのですが、恐らく明日にはここに邪龍が来ます」

「なんだとッッ!?」

謁見の間にいた兵士たちにも動揺が走り、ガンツも同じく驚いていた。


「ふむ、賢いではないか。上から見てみたか」

「はい。リヴァリア様は既に気づいていたようですけど」

「うむ。邪龍がどれだけの速度でここへ到達するかはとっくに知っていた。すぐに行動へ移したのは正解だったな」

リヴァリアは無名の行動は正しかったと手放しに褒めてくれる。


「こんなところで話してる場合じゃねぇ。すぐに全部隊に伝えろ!」

「ハッ!」

その場にいた兵士はすぐに平静を取り戻すと伝達の為駆けていった。


「助かったぜ無名。もうそんなところまで来てるとはな」

「何となく気になったものですから」

「無事に次の日を迎えられたらお前は英雄だぜ。よし、俺達も動くぞ!」



――――――

邪龍が獣王国の領土に入るまであと十四時間。


既に王都では臨戦態勢に入っており、避難誘導も終わっている。

非戦闘員は全て地下シェルターに避難し戦闘員は全て防壁に集合していた。


「日が落ちてきたな……」

「まもなく夜がきます。僕の予測では日が昇ると同時に邪龍を目視で確認できるはずです」

「身震いしてきたぜ」

獣王であるガンツも鎧を身に纏い防壁の上で夜空を眺める。

従者や兵士たちが城に居てくれと頼んでもガンツは陣頭に立つと頑なに譲らなかった。


そのため現在獣王国内において最高戦力でもある無名がそばにいるのであった。



「リヴァリア殿はどこにいったんだ?」

「あそこにいますよ」

無名が指差す先には防壁の中でも一番高い櫓のてっぺんで一点を見つめるリヴァリアの姿があった。


「邪龍が来る方向を見てるな。なぁ、無名。リヴァリア殿の本気を見たことがあるんだろ?どんなんだったよ」

「人間では到底辿り着けない高みにいましたよ」

「そうかぁ……龍王だもんな。俺も一応獣王だが比べられたら見劣りが激しいぜ」

獣王ガンツの実力はこの国においては最高である。

だからこその獣王なのだが、そんなガンツも龍王の足元にも及ばないのだ。


「同じ王の名を冠していても格がちげぇな」

「僕はガンツさんが戦っているところを見たことがないので何とも言えませんね」

「お、そうだったか。まあ全力で支援はするから安心しろ。ただミルコも俺も地上戦に特化してるからな。空中戦はお前とリヴァリア殿に託すしかねぇ」

「何とか邪龍を地に落としてみせます。その後はお願いします」

「おう!任せとけ!」

会話に夢中になっていると、いつの間にか従者が温かい紅茶を用意していて、無名とガンツは冷えた身体を温める。


「ふぅ……あと数時間後にはここが戦場になるんだぜ。信じられねぇよ」

「そうですね……これが嵐の前の静けさ、というものなんでしょう」

「なんでぇそれは。あ、もしかして別世界の言葉か?」

「はい。騒がしいことが起きる前の何とも言えない静かな空気感をそう呼んだりします」

「へぇ、面白いな」

他愛もない話で盛り上がり、夜は徐々に深まっていく。

辺りは真っ暗で星の光がほのかに地上を照らしていた。



「お前がこの国に来てくれて助かった。もしこの国にこなければ邪龍と戦うなんてできなかっただろうしな」

「これも運命というやつでは?」

「たぶんな。あ、そういえばミルコがバリスタを撃たせてくれとか言ってきやがったがお前なんか言ったか?」

ああ、やっぱりと無名は呆れた表情を浮かべる。


「当然やらせるわけがねぇ。アイツには城に残ってもらってる」

「それがいいですよ。ただ一人の王女なら尚更です」

「ゆくゆくはアイツが獣王の名を継ぐんだからな。俺がこうやって前線に出ている以上、アイツには我慢してもらう」

ガンツは親バカではない。

それでもたった一人の娘なのだ。

大切に思う気持ちと自由にやらせてやりたいという気持ちが混ざり合い、ガンツは複雑な表情で空を見上げた。



「無名、アイツを嫁にもらうか?」

「ブフッ――」

唐突な娘はどうだと問われ無名は口に含んでいた紅茶を吹き出した。


「おいおい!きたねぇな。なんだよ、意外か?」

「意外ですね。僕は人間ですよ?それも一月ほど前に知り合った程度の仲です。よくそれで娘を充てがおうと思いましたね」

「お前なら信用できる。これでも俺の目に狂いはないぜ」

少しだけ考えたあと無名は首を横に振った。


「そうか……まあ仲良くはしてやってくれや。アイツは仲のいい友達ってやつがいねぇみたいでな」

「そうなんですか?」

「おう。ほら、お前も見たことあるだろ?目が赤くなるやつ」

野生の本能のことを言っているのだろうと無名は頷く。


「アレのせいでミルコは友達がいねぇ。今でこそコントロールできるようになったが、昔は時間場所関係なく発動してたからな」

「ああ……なるほど」

それは友達ができない訳だと無名は納得した様子で頷く。

突然横にいる友人が暴れ始めたら誰だって怖い。

そのせいでミルコは何度も友達を傷つけ、その度に部屋で泣いていたそうだ。


「友達になるくらいならいくらでも」

「へっ、そう言ってくれてありがとよ」


夜はまだ始まったばかり。


戦いの前のひと時を無名とガンツは話に花を咲かせて過ごした。

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