第8話 龍の復活
獣王国の城、ガンツの居城でもあるそこでは首脳陣たちが集まり会合を開いていた。
「占術師が占った結果だ。これを見てくれ」
ガンツが手元の紙をその場にいる全員が見える位置へと投げる。
その紙には占術師が直近の未来を占った結果が記されていた。
「これは……本当ですかな?」
巨大な亀の姿をした老人がガンツへと問いかける。
ガンツは無言で頷く。
「やはり言い伝えは本当だったか……すぐに各所に連絡するべきだろう。リヴァリア殿にはなんと?」
「まだ何も言ってねぇ。だが多分知ってると思うぜ。同じ龍王なんだ、何かしら邪龍の動きを感知する能力があってもおかしくはねぇ」
紙に書かれていたのは邪龍が復活したという文言が一つだけ。
すれはすなわちいくつかの国が滅ぶことを意味していた。
邪龍の恐ろしさはその強さだけではない。
纏っている瘴気こそ厄介なのだ。
邪龍の身体からおびただしい量の瘴気は、生き物にとって害でしかない。
植物ですらも枯れてしまい世界にとっても害なのだ。
「邪龍がこの国にこれば大変なことになる。迎撃用にバリスタを急いで製造させろ。今防壁に置かれてあるバリスタだけでは動きすら遅らせらねぇ」
「大型バリスタは既に防壁へおよそ三十基ありますが、まだ増やすおつもりですか?」
「あたりめぇだ!あんなチンケな矢ごときで止められるわけがねぇだろ!ただのドラゴンとは訳が違うんだよ!龍王だぞ!?多少なりとも煩わしいと思わせられるくらいバリスタを置け!」
獣王であるガンツは龍の恐ろしさを知っている。
強靭な肉体に巨大な翼。
口から放たれるブレスは街一つ消し飛ばす程の火力がある。
先代から王家のみに伝わっている龍王の情報通りであればたかがバリスタ程度で足止めできるものではなかった。
「ソウリュウは今リヴァリア殿のところか?」
「恐らく」
「すぐに呼び出せ。リヴァリア殿と無名も連れてくるよう伝えろよ」
邪龍と真っ向から戦うのなら同族であるリヴァリアの力を借りなければ勝てない。
それに一緒にいる無名も勇者の力を持っている。
二人の力なくては獣王国は滅びの道を辿るだろう。
「問題はどこにいるか、だ。占術師も今の居場所までは分からねぇ。明日来るかもしれねぇし一月後かもしれねぇ」
「警戒は怠らない方がよさそうですね。我が軍は国境防壁辺りに配置させましょう」
「将軍、それでは他国からの侵略を防げんのではないか?」
「そこは貴殿に頼みたい。大亀族の族長である貴方ならば防御に秀でた部隊をお持ちでしょう」
「持ってはおるが儂らは攻撃手段に乏しい。君も来てくれるのなら構わぬが」
大亀族の老人がカラス頭の亜人へと視線を送る。
「それは構いませんが……俺らは単騎で暴れ回る種族ですぜ?隊列とかそういったことには疎いんでそこに目を瞑ってくれるなら」
「よし、なら他国からの侵略に備えてゾロゥとカール、頼むぞ」
大亀族族長ゾロゥとカラス頭の亜人カールがガンツの言葉に頷きを返した。
「バルバス将軍は国境防壁に戦力を割いてくれ。俺はリヴァリア殿達がここに来たら説明しておく」
「ミルコ様はどうされるので?」
「ミルコはもう目覚めてはいるが、無名と顔を合わせにくいってよ。まあ今まで素性を隠してたって負い目があるらしくてな。気にし過ぎなんだよアイツは」
ガンツは面倒くさそうな表情で頭をポリポリと掻く。
ミルコは気を失って城に運ばれたが、目を覚ました時には既に無名はその場を去っていた。
天使爛漫でありながら意外と繊細な乙女であった。
丁度その頃、リヴァリアが庭で空を見上げていた。
無名とソウリュウが帰ってきたタイミングであった。
凄い速度で城から鳥人族が飛んできて門の前へと降り立つとその勢いのままソウリュウの下へと駆ける。
「あら、凄い焦り様だけど何かあったの?」
「ハッ。ガンツ様から城に呼び出しが」
「何かあったみたいね」
「それとリヴァリア様と無名様にも来て頂くようにと申し使っております」
「なるほど……リヴァリア様、恐らく邪龍の件かと。一緒に来ていただけますか?」
「ふむ、よかろう」
無名にも一応確認をとソウリュウが目線を送ると、彼は無言で頷いた。
――――――
「ただいま戻りました」
ソウリュウがガンツの前でお辞儀をすると無名も釣られて頭を下げた。
リヴァリアは仁王立ちである。
「リヴァリア殿、無名、少し話がしたい」
既に用意されていた会議室へと案内されリヴァリアと無名、ガンツ、ソウリュウは席へと着く。
「邪龍が動き始めたようだ。リヴァリア殿はもう勘づいておられるようだが」
「うむ。奴が動いたのはすぐに分かった。だがここからかなり距離はあるぞ」
「なに?距離まで分かるのですか」
「まあ同族である故に、だ。しかし、距離はあるといってもこの国を目指して全速力で飛べば数日とかからん」
リヴァリアによると邪龍は獣王国から相当離れたとある山の麓にいるとのこと。
そこから一番近い国はマール連邦諸島である。
島国という少し辺鄙な場所ではあるが直線距離でいえば邪龍の位置から獣王国より遥かに近い。
「マール連邦諸島が最初に狙われる可能性があるな……」
「同盟国か?」
「いや、あそこは基本的に外と関わりをもたない。だが見捨てるのもな……」
「その間に軍備を整えればよいではないか。関わりなき国など助けるほどのものではなかろう?」
リヴァリアとしては殆ど関わりのない国に手を差し伸べるのが理解できなかった。
自国の戦力で太刀打ちできないのであればそれまで。
そう考えての発言だったが、ガンツは渋い表情を浮かべる。
「聖人ってわけでもないが、中立国だからな……なんとかしてやりたいが、今はそれどころではない、か」
「そうであろう?自国の民がみな一番大切に決まっておる。妾と無名で何とかする腹づもりではあるが、奴がどれだけ力を取り戻しているかによるな」
「リヴァリア殿では勝てないと?」
「そうではない。だがそうとも言えるか……邪龍の全盛期を知らぬのだしな」
リヴァリアは全盛期の邪龍を当然ながら知っている。
それはもう天災のようであったと語った。
邪龍が訪れた国は尽く滅ぼされ、死んだ人間など数えられないほど出た。
そこで立ち上がったのが各国の勇者である。
勇者率いる人間と亜人の混成軍、そして人間の味方をした龍王が一体。
それでようやく封印することができたのだ。
「人間の味方をした龍王、それはリヴァリア殿ですか?」
「いや違う。妾はその時傍観に徹していた。妾の領域まで侵すつもりならば手を出したがそうでないなら干渉はせぬ」
「なるほど……今回は手を貸して頂けるということでしょうか?」
「うむ。恩には報いるぞ」
ガンツはこのタイミングでミルコと無名が龍の魔窟へと赴いてくれてよかったと心の底から安堵していた。
もし二人が龍の魔窟へと行かなかったら、リヴァリアはこの場にいない。
そうなれば獣王国も滅びの道を辿っていたかもしれないのだ。
「無名はどうだ?邪龍と真っ向から戦えそうか?」
「いえ……正直分からないというのが本音です。どの程度の力をもっているのかによりますが、魔族の公爵級までであれば何とかなるでしょう。ですが魔王級となれば恐らく僕では歯が立たないかと」
無名が全力を出したとしても魔王相手では勝ち目はない。
勇者としての成長は著しいがそれでも魔王には及ばないのだ。
龍王の力の片鱗は一度見た無名は、邪龍は魔王よりも強いと予想している。
「僕一人では無理でしょうがリヴァリア様もおられるなら何とかなるかと思います」
「言っておくが妾は全盛期ほどの力はない。勇者の全力期待しているぞ」
なかなか重いプレッシャーに無名の額には汗が浮かぶ。
フランにも協力を願い出ることができれば勝率は大幅に上がるが今ではフランと連絡を取る手段はない。
「僕の知り合いもこの国にいます。その方たちにも協力を取り付けてみます」
「そうか、それは助かる。ではリヴァリア殿、もう少し詳細を教えて頂けないでしょうか?邪龍の対策を取るといっても相手のことを知らなければ策すら練れない」
「うむ、よいぞ」
リヴァリアとガンツはそのまま意見を交わしていく。
それを横目に見ながら無名は立ち上がるとソウリュウへと目配せした。
すぐに行動へと移さねばならない。
無名は無言で会議室を出るとこの国へと共に来たカイトの下へと急いだ。
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