第6話 自問自答
「ほう!素晴らしいではないか!」
リヴェリアは屋敷に着くと両手を広げ、エントランスホールで笑顔を浮かべる。
元々は獣王国の中でも精鋭と呼ばれていた冒険者パーティーが使っていたクランハウスであり、広さはもちろんの事、設備も潤沢に揃っていた。
「満足頂けましたか?」
「うむ。ガンツのやつなかなか分かっているではないか」
鳥の顔をした亜人は一礼するとそのまま玄関口へと向かう。
「待て、貴様の名を聞いていなかった」
「私めなど覚えるほどの者ではありません」
「ここまで案内してくれたのだ、名前くらい名乗ってもよかろう?」
「畏まりました。私はガンツ様の側近を務めておりますソウリュウと申します」
深々と頭を下げるとリヴェリアは満足そうに微笑む。
「ふむ、ソウリュウだな。覚えたぞ。その顔つきといいその翼といい、貴様は不死鳥族に類する者か?」
リヴェリアの言葉にソウリュウの眉が僅かに上がる。
「まさか未だに生き残っていたとはな。妾の友にも一人不死鳥族の者がおったぞ。……懐かしい」
「なんと……もしかすると我々の先祖かもしれません」
「ほう?確か名前は……ファラだったか」
「その名前、間違いありません。我らが先祖でございます」
ソウリュウはそう言うと翼を真っ赤に燃やす。
それこそが不死鳥である証明であり、リヴェリアの目は優しいものへと変化した。
「おお……懐かしいぞその消えぬ炎の翼。貴殿が最後の生き残りか?」
「はい。不死と言いながらも封印されてしまえばそれまで。我々の羽は人間にとって大変価値のある物だそうでして、同胞は殆ど死にました」
「殆ど、というとまだ他にも不死鳥族はいるのか?」
「おります。といっても数えるほどしかおりませんが」
リヴェリアはその言葉に顔を顰めた。
人間のエゴにより減ったしまった不死鳥族を嘆いていたのだ。
「復讐は考えんのか?」
「考えておりません。……我々は不死でございます。しかしながら生ある者はいずれ死ぬべき。これは必然だったかと」
「えらく達観しているものだ……まあよい、ではまた時間がある時に語らおうではないか。妾も不死鳥族と会えるとは思っておらんかったのでな」
「是非に。それでは失礼いたします」
ソウリュウは再度深々と頭を下げると飛び立っていった。
珍しい種族との遭遇にリヴェリアも少しだけこの国に足を運んで良かったと感じていた。
――――――
「ここが新しい家になるのか……」
無名は見上げる高さの屋敷を前にして足が止まっていた。
大豪邸というに相応しい巨大な建物。
そして門から玄関口まで伸びる無駄に長い道。
貴族というのは何故こうも見栄を張るのかと無名は肩を竦め、敷地へと足を踏み入れた。
玄関を開けば大きなホールが広がっており、これまた無駄な空間だなとため息を零す。
それと同じくして上階からリヴァリアが降りてきた。
「む、来たか人間」
「人間でなく無名という名前があります」
「む、細かいな。それよりなかなか素晴らしい建物ではないか。ガンツのやつ、妾が来ることを見越して用意していたのか?」
ガンツの考えは分からないがその可能性も大いに有り得るだろう。
何しろ無名に素性を隠して接してきていたのだ。
それにミルコの事だってある。
何か意味があっての行動なのだろうが、せめて自分にくらいは素性を明かしておいて欲しかったというのが無名の本音である。
「使用人がおらんのは寂しいな」
「まあこれだけ大きなお屋敷ですからね。ガンツさんに掛け合えば一人二人用意してくれそうですが」
「いや、そこは我慢するとしよう。妾はワガママではないのでな」
十分既にワガママを言っている気がする、と無名は目を逸らす。
リヴァリアはそれに気づかず次の話題へと移った。
「しかし妾がここに来たのは運が良かったかもしれぬぞ」
「運が良かった、ですか?」
「うむ。龍王は妾だけではない、というのは話したか?」
その辺りの事情に詳しくない無名は首を横に振る。
「龍王はこの世界に四体いる。妾のような人畜無害な龍王は二体。つまり妾ともう一体だけだ。残りの二体は人間を毛嫌いしておる」
「それが先程の運が良かったという話にどう繋がるんですか?」
「その二体の内一体が随分前に目覚めている。ああ、過去の話からせねば理解できんか」
リヴァリアは語る。
邪龍と呼ばれた龍王は数百年前に人間との大規模な戦いを経たのちに封印されていた。
しかしその封印も長い年月と共に風化し数年前には邪龍が封印から解き放たれていたのだ。
邪龍の望みはこの世界から龍族以外を抹消することにある。
その話を聞き無名も表情が険しくなっていった。
「その邪龍はまた人間の国に対して攻撃を仕掛けてくる、ということですか?」
「惜しいな。人間の、ではない。龍族以外の国に対してだ」
「世界に喧嘩を売るような龍ということですか……」
邪龍という名に相応しく方々に喧嘩を売るスタイルだ。
一番厄介かもしれない手合いだろう。
魔族なら敵である対象が明確に分かる。
しかしながら同族以外を敵とみなす邪龍は視界に入る全ての生き物が対象だ。
そんな龍に絡まれれば、それはもはや交通事故となんら変わりない。
「その邪龍がこの国に迫れば誰がそやつを止められる?獣王か?それとも冒険者と呼ばれる人間か?どちらも厳しい相手だ。しかし妾ならば少なくとも互角以上に戦える。運が良かったというのはそういう事だ」
「邪龍の強さはリヴァリア様と同格ということですか」
「恐らく。だがそれも数百年前の話だ。今頃更に力をつけていてもおかしくはない」
「リヴァリア様は獣王国の味方をしてくれるんでしょうか?」
「まあこんな屋敷まで用意してくれたのだ。恩には報いるつもりぞ」
龍王リヴァリアがいればとりあえずこの国は安心できる。
勇者である無名より遥かに強大な力を持っているのだ。
心配なのは黒峰達だ。
彼らは勇者といえども無名の足元にも及ばない。
そんな彼らが属するのはアルトバイゼン王国。
剣聖がいるとはいえ、魔族から激しい攻撃を受けた今邪龍に対抗する力はない。
「どうした、何か考え事か?」
「まぁ……僕が召喚された国では多分邪龍に対抗できないだろうと考えていただけです」
「ふむ、ならば打って出るか?邪龍が来るのを待つのであればいつどこにどんな攻撃を加えてくるか予測できん。しかしこちらから打って出るのであれば少なくとも邪龍の対象は貴様になるだろう」
「それはいくら何でも……どのみち僕では歯が立ちません」
無名がそう言うとリヴァリアはクツクツと笑う。
何がおかしいのか、無名が首を傾げるとリヴァリアの目が細まり無名を見つめた。
「貴様……まだ力を隠しておるのだろう?妾に放った魔法も脅威ではあったが、うちに秘めたる魔力はあの程度ではない。妾が見抜けんと思うたか?」
「……隠しているつもりはありませんよ。ただ、周りと隔絶した力は軋轢を生むから見せないだけです」
「貴様なら少なくとも邪龍に傷を負わせられる。それに妾がおるのだぞ?邪龍とて妾と貴様両方を相手取るのはちとキツイだろう」
さも当たり前のように手を貸すと言ってくれているリヴァリアに無名は少し驚いていた。
人間を毛嫌いしていないとはいえ、同族を殺すことに躊躇いはないのだろうか。
そう考えていた無名の思考を見抜いたのかリヴァリアは高らかに笑った。
「クッハッハ!妾が邪龍と矛を交えるのが不思議でならないか?龍というのは個にして群。つまり妾は単一種族みたいなものだ。説明が難しいな……」
「言わんとしていることは理解しました。邪龍と戦うことに躊躇いがないのであれば手を貸して頂きたく思います」
「ふむ……まんざらではないぞ。ただ、どうして邪龍を討伐する気になった?やはり同郷の者の命が大切か?」
無名は言葉を詰まらせる。
何故、と聞かれて自分でもどうして他者を気にしているのだろうと自問自答していたのだ。
今までならば他者は他者、自分は自分、という考え方であった。
しかし、今は何故か邪龍の討伐を買って出ている。
誰かの為に行動するなんて日本にいた頃では考えられなかった。
この世界に来て人の生死に深く関わってきた。
それが原因だろうかと無名は考えたがやはり答えは出ない。
結局無名はその場でリヴァリアの問いに答えることはできなかった。
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