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第5話 二人の王

龍王を伴って獣王国の中心地へと帰ってきた無名は当然ながら門番に止められた。


「待て。その担いでいるお方は……いや、なんでもない。それよりもそちらの女性は何者だ」

「妾のことか?妾はリヴァリア。ヴォルフシュテンの知り合いが来たといえば分かるか?」

ヴォルフシュテン。

無名の初めて聞いた名前だったが門番の表情は強張る。


「何故その名を人間が知っている……」

「妾が人間ではないと言ったら?」

「か、確認する。しばし待たれよ!」

門番は狼狽えながら何処かへと走り去って行った。

門前で待たされることおよそ五分。

リヴァリアがいよいよ退屈になり欠伸をし始めた所で走り去った門番が汗を垂れ流しながら戻って来た。


「おまたせしました!こちらへどうぞ」

「む、ヴォルフシュテンの所へ案内してくれるのか?」

「いえ、その、とにかく着いてきて頂けますか?」

門番のしどろもどろな様子に無名とリヴァリアは顔を見合わせた。


連れて行かれたのは王城であった。

無名も何度か足を運び武具の納品をしていたが、今回ばかりは一度も入ったことのない綺麗な広い客間のような部屋へと案内された。


「一体どれだけ待たせれば気が済むのだ。妾は飽いてきたぞ」

「多分もうすぐ来られるかと思いますよ。案内してくれた方も若干顔が強張っていたのが気になりますが」

門番といい案内してくれた兵士といい、顔が引き攣っていたのが気になる無名だったが、リヴァリアから放たれる威圧感に気圧されているのだろうと納得していた。


しばらく待つと扉が開き、やって来たのは無名も見たことのある男だった。


「あれ?ガンツさんがどうしてここにいるんですか?」

「おう、無名久しぶりだな」

手を上げにこやかに笑うガンツ。

一方無名は困惑した表情だ。


「それよりも、だ。龍王リヴァリア殿、わざわざ御足労頂き感謝する」

「む?お前は……ヴォルフシュテンではないようだが?」

「おっと、これは申し遅れた。俺の名はガンツ・ヴォルフシュテン。貴殿の言うヴォルフシュテンは恐らく俺の親父だろう」

「なんだと?ヤツは……ガルフはおらんのか?」

「父ガルフ・ヴォルフシュテンは他界した。獣王といえども病気には勝てん……」

「そうか……ガルフは死んだか。今代の獣王はお前が務めているというわけだな?」

「まあそうなるな。して、リヴァリア殿は親父と親交があったと聞いている。もしいつかリヴァリア殿が訪ねてきた際には手を貸してやって欲しいとは親父から言われていてな」

ガンツが獣王だったことも初耳だった無名はただ無言で二人のやり取りを見守る。


「ほう、それは素晴らしいではないか」

ガンツが手を貸すと口にした途端リヴァリアは口角を上げる。


「妾の住む場所がなくなった」

「なに?龍の魔窟が住処だと聞いていたが」

「それがこやつらのせいで壊れてなくなった」

リヴァリアは無名を指差す。

正確には無名と背負われて未だ目を覚まさないミルコの二人を指差した。

ガンツの目線が二人へと向くと、無名は激しく首を横に振った。


「否定……しているようだが?」

「違う。こやつらが荒らしに来たせいで住処が壊れた」

「ううむ……無名、悪いが説明してくれやしないか?」

結局リヴェリアとは会話にならないと判断したガンツは無名へと振る。

無名は龍玉を求めて龍の魔窟へ入ったことを説明した。

しかし、最奥でリヴェリアと遭遇し激しい戦闘の末ドラゴンブレスによってダンジョンは崩壊したと話すとリヴェリアはムスッとした表情になった。


「――というわけでして、僕らが壊したというのは無理があるかと。それに僕がダンジョンを崩壊させられる程の力を持っていると思いますか?」

「うむ、確かに。ダンジョンは人の手で破壊するにはちと難しいからな。ではリヴェリア殿はご自分の手で破壊した、間違いないか?」

「…………黙秘権を行使する」

都合が悪くなったリヴェリアはそっぽを向いてムスッとする。

ガンツは呆れた表情で無名へと向き直った。


「とりあえずリヴェリア殿の住まいは用意する。お前もずっとガルスのとこで世話になるのも気が休まらんだろう?」

「え?いえ、まあ……そうですね。自分の家を持てたらとは思いますが」

「丁度いい。大きめの屋敷が色々あって空いてるんだよ。そこにリヴェリア殿と一緒に住め」

思っていた回答と違い無名は目を見開く。

龍と一緒に住めというのはどういうことか、と口を開きかけたと同時にリヴェリアが先に口を開いた。


「その人間と共に住むのか?……ふむ、まあ鍛えがいはありそうだが……」

「いえ、それなら僕はガルスさんのとこで世話になっておい――」

「よし!ではリヴェリア殿、その屋敷へ案内しよう。おい、案内せよ」

ガルスは側にいた護衛の一人に声を掛けると無名に視線を向ける。


「無名、お前には話しておかないといけないことがあるからな。残っておいてくれ」

「え?あ、はい」


鳥の顔をした護衛がリヴェリアを引き連れて部屋を出ていくと、ガルスの表情は真剣なものに変わった。


「悪いな無名。改めて自己紹介しておこう。俺の名はガンツ・ヴォルフシュテン。今代の獣王をやってる。それとお前ももう気づいているだろうがそこで伸びているミルコは俺の娘だ。ミルコ・ヴォルフシュテン、正真正銘王族の血を引く姫殿下ってやつだな」

「なぜ、今になって僕に正体を明かしたんですか?」

「リヴェリア殿――龍王である彼女がこの王都を訪れたってのが一番大きい理由だ。オメェは確か王国に召喚された勇者だったな。知らなくても無理はない。昔から龍が人里に降りてきた時、災厄が訪れるって言い伝えがあるんだよ」

「災厄……それは魔神の再来を意味するのですか?」

災厄と聞いて無名が思いつくのは魔神の存在であった。

魔王と呼ばれる魔族ですら凶悪な力を有しているのに魔神の脅威など想像もつかなかった。


「魔神の再来、天変地異、色々と言われているが何が起きるかは俺達も分かっちゃいねぇ。だが龍王が住処から出てきたとなれば何もしない訳にいかねぇんだよ」

「だから即座にリヴェリア様の住処を用意したんですね」

「そういう事だ。何が起きるか分からねぇが勇者であるオメェを龍王殿のそばに置いておきたい。だから今になって正体を明かしたってわけだ。ミルコに関しては悪かったな、ワガママ姫だったろ?」

ワガママどころか自由奔放すぎた、とは言えなかったが無名は苦笑いを浮かべる。


「とにかく、オメェにはリヴェリア様の世話役を頼む。もちろん給金は出してやるからよ。ガルスにも俺から伝えておく」

「世話役……正直言えば今までの仕事の方が楽だったのではと思うのですが」

「まあ……そういうな。リヴェリア様は俺の親父の頃から親交がある龍王様だ。悪いようにはできねぇ。それにオメェなら何かあっても自分で対処できる。そうだろ?」

無名は否定することもなく無言を貫く。

それを肯定とみなしたガンツはそのまま話を続けた。


「オメェも住むことになる屋敷は何部屋もあるでかい御屋敷だ。一緒に住むといってもそれほど顔を合わせる事もねぇだろ」

「別に顔を合わせたくないわけでは無いですよ」

「つってもよく顔を合わせていれば意見がぶつかる事だってあるかもしれねぇだろ?そうなったら流石の勇者でも死ぬからな」

無名は深く頷く。

既に龍の魔窟で見てきているのだ。

龍王の力というものを。


無名は全力だったがリヴェリアは手加減していた。

それほどまでに力の差がある。

喧嘩などしようものなら肉片一つ残らないだろう。


リヴェリアとの共同生活を想像し無名はため息をつくのだった。

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