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第3話 龍の魔窟①

龍の魔窟の入り口に立つ二人の姿があった。

万能の勇者無名と獣人ミルコだ。

それを不安そうに見ているミルコの相棒リュー。


たった二人でハイレベルダンジョンの攻略など自殺行為だとは思いつつも好奇心に負けてしまった無名は仕方なくミルコと共に龍の魔窟へと足を踏み入れた。



「ふわぁぁ涼しいねー!」

「洞窟ですからね。ただ、既にここはダンジョン内です。警戒は怠らないでくださいよ」

ダンジョンに入って五分ほど、ミルコはワクワクした表情で辺りを見回しゴツゴツした岩肌に触れている。

対して無名は気配察知の魔法を展開して辺りを警戒していた。


「でも全然敵でてこないね」

「出てこなければそれはそれでいいでしょう。どうせ最奥までいけばダンジョンの主と戦うことになるんですから。温存しておくに越したことはありません」

無名は道中に出てくるであろう魔物はあまり警戒していない。

ただダンジョン主は恐らく相当な力を蓄えているであろうと想像していた。

龍の魔窟と言われるほどだ、ダンジョン主は龍で間違いない。

流石に魔王と同等ということはないだろうが、少なくとも伯爵級の力は保持していると想定し無名は魔力をできるだけ温存するつもりだった。

道中の敵は可能な限り剣だけで相手をし魔法は基本的に使わない方向で考えている。


「全然出てこないねー、つまらないねー」

「ミルコ、貴女も体力は温存できていいではないですか」

「でもさー、ダンジョンってやっぱりバッサバッサ敵を倒していく楽しさがあるじゃん?」

あるじゃん、と言われても、はぁ?としか言えない無名は黙って周囲へと目を光らせる。


「あ!あれ!」

ミルコが突然前方を指差し声を上げる。

釣られて無名がそちらへと視線を向けると、奥の方、暗がりに身を隠すようにしてジッ見つめてきているナニカがいた。


無名は剣を抜いて構えを取る。

ミルコもそれを見てファイティングポーズを取った。


「ナニカは分かりませんが少なくとも味方、というのは考えにくいかと。ミルコ、奴が動いたら即座に左へ跳んでください」

「うん?分かった!」

無名が小声で指示を出したのにミルコはでかい声で返事する。

無名は呆れながらも視線はずっとナニカへと向けられていた。


「ッッ来ます!」

「分かった!」

ナニカが素早く動きを見せたため、無名が号令しミルコは指示通り左へ跳んだ。


栄光の閃き(シャインセイバー)!」

無名が黒峰の戦い方を見て真似た技だったが、ソックリの剣技が放たれた。

威力こそ流石に黒峰の方が上だが、たった一度見ただけで習得してしまうのは万能の勇者としての力だった。


光の斬撃がナニカを捉えた――かと思われたが、ナニカはそれを間一髪で躱し更に距離を詰めてくる。


「次はウチの番!」

今度はミルコが構えると腕を交差させて一気に振り下ろした。


「獣王千斬爪!」

縦横無尽に放たれた無数の斬撃が目にも止まらぬ速さでナニカを切り裂き洞窟の壁にも至るところに傷が入った。

無名はそれを見て便利な技だと思いながらも真似るのは不可能だとも感じていた。

明らかに獣人だからこそ可能な技であり、鋭利な爪もない無名には永遠に習得のできぬ技であった。


ナニカが沈黙したのを見届けると無名は剣を鞘へと仕舞う。

ミルコと視線を合わせるとお互いに頷きゆっくり近づいていく。


「これは……」

ナニカ、と思われていたのは龍の鱗を纏った二足歩行の化け物だった。

無名の記憶には見覚えがあった。

漫画やアニメの中だけに存在するリザードマンと呼ばれる魔物。

それにソックリであった。


「あーリザーゴンだね。なんだ、以外に強いのもいるじゃん」

「リザードゴン?リザードマンではなく?」

「そうだよ。これはリザーゴンで間違いないよ」

「もしや……リザードマンとドラゴンを掛け合わせたのですか?」

「さあ?でも言われてみれば似てるよね!どっちもに!」

安直すぎる、とは口には出さないが無名の表情に出ていた。

というよりどちらも鱗がある時点でドラゴン系である事は間違いない。



その後も何度か遭遇したリザーゴン。

全てミルコが片付けたお陰で無名の魔力はほぼ満タンである。


龍の魔窟に入ってからおよそ三時間。

二人の目の前には巨大な一枚扉が鎮座していた。

案外スイスイこれたものだと無名は若干の不安を感じていたが、ミルコは楽にこれたと言わんばかりに笑顔である。


「この奥が最奥、恐らく龍がいるかと」

「そうだね!楽しみー!」

「楽しみ、ですか。僕は不安でたまりませんよ。ここまでこんなに簡単に来れるなんて明らかに作為的なものを感じます」

どう考えても誘導されているようにしか思えず無名の警戒心はMAXだった。

対してミルコはやはりウキウキした様子で扉を開くのを今か今かと待ち望んでいる。


「相手は誘っています。絶対に勝てる自信があるのかそれともただの傲慢か」

「後者だったらいいね〜」

「とりあえずバフ魔法は掛けておきましょう。最初から全力で攻撃してくるかもしれません」

無名は二人分の強化魔法を掛け万全の態勢を整える。

ドラゴンブレスは建物すらをも瓦礫に変えてしまうほどの威力だ。

人間など一瞬で塵と化すだろう。


「では行きますよ。準備はいいですね?」

「もちろん!爪は研いだよ!」

ミルコがニヤッと笑い、無名は警戒したまま扉を開いた。


扉の向こうは巨大な空間が広がっていて、一番奥に龍と思わしき物体が寝転がっている。


無名とミルコは目配せして、部屋の中に一歩踏み込んだ。


部屋に入った途端扉は激しい音を立てて勝手に閉まる。

何らかの魔法が掛けられているだろうと無名も想定していたが、扉は押しても引いてもビクともしなかった。


「逃げ道は絶たれましたね」

「相当自信があるんだよ多分!」

来た者を逃さぬという強い意志を感じ、無名は更に警戒する。


ゆっくり一歩ずつ龍らしきものへと近づいて行くと、瞑っていた目が開かれた。


「……何用だ小さき者達よ」

腹に響くような低い声が龍らしきものから聞こえてくる。

人語を話すとは思っていなかった無名は少し驚いた表情を浮かべた。

ミルコは龍が喋ったと喜んでいるが、無名としては喜べない。

人語を話すということはそれなりに知性があるということに他ならないのだ。

つまり、ただのトカゲの上位種ではない事を示している。


「……だんまりか?それとも妾の言葉が理解できないか?」

「……いえ、聞こえています。僕は無名、こちらはミルコです」

再度問いかけてきた龍に無名は毅然とした態度で言葉を返した。

龍の目が細まり無名をジッと見つめる。


「ほう……名乗られたならば妾も名乗ろう。妾は龍王リヴァリア、矮小な者達よここに来た理由を申せ」

龍王という肩書きに無名は冷や汗が止まらなかった。

王と名なつく者が弱いはずがない。

少なくともただの龍以上の力を持っていることは確かだった。



「リヴァリア様、僕達はこのダンジョンにある龍の宝玉を求めてやってきました。恐らく貴女を倒さねば手に入れられない物かとは思いますが」

「龍の宝玉ときたか。ククク……確かにここには龍の宝玉があるぞ」

もはや宝玉などどうでも良かった。

威圧感は魔王と同格。

今の自分では抗うことのできない相手だと分かり、無名はサッサとここから逃げ出したかった。

しかしそれをミルコが許さない。


「宝玉欲しいな!」

「ミルコ……今は僕に任せて――」

「でも宝玉を手に入れたくてここまで来たのに!」

もう黙ってくれと言いたげな表情で睨む無名だったが、ミルコは素知らぬ顔で話を続ける。



「リヴァリアさん!龍の宝玉はどうしたら貰えますか!」

「ククク……獣王の娘が何を言うかと思えば!面白いぞ小娘、そんなに欲しければ妾に一撃与えてみよ!さすれば考えてやらん事もない」


臨戦態勢に入ったリヴァリアの姿に無名は絶望するしかなかった。

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