第2話 心機一転②
ミルコと約束を交わした三日後。
無名が働いているとひょっこり顔を出した。
「無名ー今ひまー?」
「見てわかりませんか?」
無名は丁度納品物である剣を数本、ある貴族の屋敷に持って行こうとしていた所であった。
間の悪い事この上ない。
「今からダンジョン行こーよー」
「見て分かりませんかね?」
「何が?」
ミルコの反応は完全に素であった。
流石にイラッとした無名は表情は変えずに少しだけ声色を低くする。
「仕事ですが」
「いいじゃん後でやれば」
良くない、いいわけがない。
ミルコは自由奔放という言葉が良く似合う獣人だ。
無名は無視してリアカーを引きながら歩き出すと、ミルコもてくてくと着いていく。
「ねーねー、まだー?」
「良く見てください、今の僕を。どう考えても納品の途中でしょう」
「ふーん。でも少しくらい遅れても怒られないよ?」
何をバカなことをほざくのかと無名は呆れた表情で足を動かす。
納品するのが遅れるなど怠慢でしかないと考えている無名はこの場にミルコが居ないように振る舞う。
「ねーねー」
「無名ー暇ー」
「無名ーまだー?」
徐々にイライラしてきた無名は足を止めるとミルコへと顔を向ける。
「何度も言いますが仕事中です。邪魔をするなら一緒にダンジョンへは行きませんよ」
「えー!!ダメダメー!」
「では邪魔をしないように」
やっと理解してくれたのかミルコはそれ以降口を閉ざした。
二人無言で歩いて城まで来ると、門番はスッと身体を横にずらし通れるように開けてくれた。
いつもは止められて毎度おなじみの名前を問われるのだが、今日に限っては止められることが無かった。
無名は不思議に思いながらもそのまま納品場所までいき、剣を置く。
空になったリアカーを引きながら一歩踏み出すと、重みを感じ振り返るとそこにはリアカーに乗り込み寝転がるミルコがいた。
「……何をしているんですか」
「え?空いたから乗っちゃおうかなーって」
「重いのですが」
「ひどい!女の子に重いは禁句だよ!」
そう言われてしまうと何も言えなくなる無名。
仕方なくミルコを乗せたまま城門をくぐると門番がギョッとしたような顔で無名を見た。
「あの……何か?」
「い、いや、何も無い。気を付けて帰れ」
「あ、はい。ありがとうございます」
何に驚いたのか無名には分からなかったが、門番の目はジッとミルコを見つめていた。
鍛冶屋に帰ってきた二人はキャリーを置いて、荷物を整える。
これからダンジョンに潜ると息巻いているミルコを抑えながら荷物を整えるのは大変である。
「お?ダンジョンに行くのか?」
「はい。ミルコがしつこいので」
「お、おお……そうか。あ、じゃあこれ持っていけ」
ガルスは棚から一本の剣を取り出すと無名へと渡した。
それを手に取りながら無名は首を傾げる。
「僕は自前のものがありますが」
「これは試作品なんでな、初めて使った素材で打った剣だ。試しに使って感想でも聞かせてくれ」
ああ、そういう事かと納得した無名は鞘に剣をしまう。
鍛冶屋ならではの仕事の延長線だった。
無名にとって剣など何を使っても関係がない。
魔法技術に長けた無名は身体能力の強化をすれば大抵の武器はそれなりに扱える。
剣の腕も相応に高く、名の通った騎士程度では相手にならないくらいには強かった。
「さーて!行くよ!ダンジョンにしゅっぱーつ!」
「それは分かっていますがどのダンジョンに行くのですか?」
ダンジョンといっても獣王国にはいくつものダンジョンが存在する。
攻略何度も様々で、少数パーティーで攻略できる所もあれば大規模なクランで攻略しなければ危険なダンジョンもあった。
「龍の魔窟!」
「りゅ、龍の魔窟?」
ある程度のダンジョンは無名の頭の中にも入っていたが、その名は聞いたことがなかった。
ミルコは元気いっぱいにそう言ったが、無名に思い当たるダンジョンは浮かばない。
「そのダンジョンはどこにあるんですか?」
「えっとー……確か、ここ!」
小さな地図を開くとミルコはある一点を指差した。
そこはもちろん無名が訪れた事のない場所。
そしてここから一日ほどかかる場所にあった。
「いや……これは遠すぎませんか?」
「んーでもリューが引く竜車だから!」
それなら一日もかからないのか?と無名は首を傾げながらも鍛冶屋の外で待つ竜車へと乗り込んだ。
リューというのはミルコの相棒である竜の名前である。
言葉こそ喋れはしないが人間と同等の知能を持つらしく、戦闘能力は当然ながら竜なので高い。
そして馬よりも遥かに速く走る事ができる為高速馬車を使うよりも時間の短縮ができる。
「グルルルル!」
リューのやる気も万全なようで、ミルコが御者席に乗り込むと勢いよく出発した。
竜車でも半日以上はかかる距離にあるダンジョン『龍の魔窟』は高難易度ダンジョンと言われている。
攻略には最低でも十人以上の高位冒険者が必要とまで言われている場所であり、本来たった二人で潜るダンジョンではない。
ミルコもそれは重々承知していたが、無名の力を間近で見たいという事もあって知らないフリをしていた。
一方無名はダンジョンの名前からして難度の高いダンジョンであるだろうと予想していた。
しかし勇者としての力はレベル6の冒険者をも超える実力を身に着けてはいるが、ダンジョンのような閉鎖空間での戦闘経験は皆無に等しい。
「ミルコ、その龍の魔窟では何が手に入るんですか?」
ダンジョンといえばお宝である。
龍の魔窟もまた、高価で希少なお宝が手に入るのだ。
無名も男としてやはり宝探しには興味があった。
「確かー龍の宝玉が手に入るはず!」
「龍の宝玉?」
名前からして厳ついが、何となく効果は想像できた無名は顔が引き攣る。
「……一応聞きますがどういった物なんですか?」
「龍を喚べるんだよ!」
まあそうだろうなとしか思えなかった無名は苦笑いを浮かべた。
龍というのは竜とも違い高位生命体であり、人間など比較にならない程身体能力が高い。
魔力量も相応に多く、上位の爵位を持つ魔族よりも強い個体も存在している。
竜は知能こそ高いが人語を交わすことはできない。
対して龍は人語も自在に操る事ができ、この世界では高位種族として崇められていたりする。
そんな龍を使役できるとなればダンジョンの難易度は相当高い事が分かるのだ。
「ミルコ……いくらなんでも二人では攻略出来ませんよ」
「大丈夫!無名は強いんでしょ?」
強いか弱いかと問われれば強いと答えざるを得ない無名は口を噤む。
二人でダンジョン攻略というのは正直言って自殺行為である。
片方が傷つけばもう片方が全ての敵を相手取らなければならず、体力が尽きた時全滅する恐れがあるからだ。
「個の強さで踏破できるようなレベルであればいいですが……」
「うーん、難しい事はよく分からないけど多分大丈夫!」
ミルコの言う大丈夫ほど信用できない言葉はない。
それに無名はそれほど難しい事を言った覚えはなく、呆れを含んだ溜息をついた。
ただ、無名も度重なる爵位級魔族との戦闘を経ている為、龍相手でも多少は抗えるだろうと甘く考えていた。
公爵位魔族に関してはその力は圧倒的で、人間である無名が良く勝てたなと思えるくらいの相手であった。
龍といえども公爵位には流石に劣るはずだと、少し驕りが出ていた。
龍とひとえに言っても個体差はある。
四大龍と呼ばれる四体の龍に関してはもはや神族ですら見劣りする程強大な力を持つ。
「あ~楽しみだなぁ!龍に会えるなんてこんなワクワクする事はないね!」
ミルコの笑顔は深く考えるのが馬鹿らしくなるような笑顔であった。
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