第40話 王都防衛戦②
「来るぞ!避けろッッ!」
兵士の声が王都に木霊する。
四方八方で剣戟の音が響き渡り、空を見上げれば青や赤、黄色といった色とりどりの魔法が飛び交う。
ランスロットは数体目となる魔族を斬り伏せ汗を拭った。
正直戦況は著しく悪い。
元々リンネ教のテロにより数を減らしていた王国軍は今やギリギリの戦いを強いられている。
そんな中でまたも現れた魔族の集団。
疲弊している騎士達からすれば地獄以外言葉が見当たらない状況だった。
「このままでは……国王陛下の下には絶対に行かせるな!ここで食い止めろ!」
辛うじてまだ王城の中には侵入されていなかったが、それも時間の問題。
斬っても斬っても何処からともなく湧いてくる魔物には辟易していた。
「どこかに召喚士がいるはずだ!そいつを!殺さねば!魔物の波は止められん!」
「団長!私の隊で探します!ここは任せてもよろしいでしょうか!」
トロン最上級騎士が声を張り上げる。
ランスロットはここから戦力を減らすのを避けたいところではあったが、事実召喚士を倒さなければいずれ力尽きるのは王国側であった。
「分かった!頼むぞトロン!」
「はっ!行くぞついてこい!」
トロンは自らの隊を率いて召喚士を探し回る事となった。
残されたランスロット達の負担は大きくなる。
魔物の数は一向に減らず、魔族もひっきりなしに襲い掛かってきていた。
「栄光の閃き!……ハァハァ」
黒峰も限界が近いのか肩で息をしている。
魔族を一体倒すのにもそれなりに疲労は蓄積し少しずつだが傷も増えていった。
「クソ……多すぎる!何なんだよ!」
「愚痴を言っている暇などないぞ黒峰!」
ランスロットはまだ余裕があった。
しかし成長途中の勇者はもう限界であった。
そんな最悪のタイミングで悠々と歩いて近付いてくる魔族が一体いた。
「なんだ……?」
真っ先に気付いた黒峰は目を凝らす。
よく見れば服装は他の魔族と違い明らかに質の良い物を着ていた。
誰もが想像できた。
あれは高位魔族だと。
「ククク……なかなか歯ごたえのある人間もいるようだな」
その魔族はクツクツと笑い、ランスロットを見た。
アレを相手にできるのは自分しかいない。
そう感じ取ったランスロットは黒峰を下がらせ前に出た。
「黒峰、他の騎士もだ。下がれ、アレは私が相手をする」
「いやいや、アレはランスロットさんでも一人では無理でしょう」
「私以外に適任者がいるか?」
そう言われれば黒峰も何も言えず引き下がる。
この中で一番の実力者はランスロットなのだ。
「貴様が我の相手をしてくれるのか?」
「私が相手になろう」
「ふむ……では名前を聞いておこうか」
「私はランスロット。剣聖ランスロットだ」
剣聖という言葉に魔族は少しだけ目を細めた。
「ほう……なるほど。まだ本調子ではないが、どれ……魔国に戻る前に人間の国を一つくらい潰しておいてやろう」
尊大な物言いにランスロットは眉をひそめた。
魔族というのは大抵尊大な態度を取る。
しかし、目の前の魔族はその態度に見合うだけの実力を兼ね備えていそうであった。
「我の名はバラム。地獄から舞い戻ってきた魔王だ」
その言葉に王国軍の騎士達は震え上がった。
魔王と呼ばれる魔族は高位魔族なんかとは比較にならない力を持つと言われている。
すなわち、今まで相手をしていた魔族など歯牙にもかけない力を持つ事を意味していた。
「魔王か……なかなか大きく出たものだな」
「うん?我が嘘をついていると、そう思ったのか?」
「当然だ。魔王の身でわざわざ戦場に足を運ぶ者などいるものか」
「いるではないか、ここにな」
嫌らしい笑みを浮かべ、バラムは笑う。
バラムはおもむろに片手を上げると、魔法名を口にした。
「滅びを呼ぶ昏き混沌」
禍々しい黒い魔力が渦となり、極太の光線を吐き出した。
「ッッッ!?絶対防御盾!」
ランスロットは咄嗟に防御魔法を発動したが、紙のように弾け飛ぶとランスロットは勢いに押され王城の壁へと吹き飛ばされた。
「ガハッ――」
大量の血を吐き地面に転がるランスロットは既に瀕死。
あまりに重い一撃に見ていた騎士達は身動き一つ取れなくなっていた。
「ふうむ……やはりまだ復活したばかりか威力も下火だな」
バラムは満足していないのか不服そうな顔を浮かべゆっくりと歩を進める。
誰もが見ていることしかできない。
そんな状況でも黒峰だけは、剣を構えて立ち塞がった。
「何の真似だ?人間」
「こ、ここを通すわけにはいかない!俺の命に替えても!」
勇者らしく他者を守る姿に騎士達は心打たれた。
これこそが勇者の鏡だ、そう言葉にしてはいないが表情が物語っていた。
「貴様は流石に弱すぎる。我の相手を務めるにはいささか物足りん」
「黙れ!なら、その身で受け止めてみろ!勇ましき聖なる一撃!」
黒峰の持てる最高峰の技。
勇者だからこそ扱える聖なる力を剣に乗せ、光の斬撃を飛ばした。
「ヌルい!」
ただ、その一撃はバラムの身体に当たることなく羽虫を追い払うようにして横に振られた手によって掻き消された。
「馬鹿なッッッ!」
「聖なる一撃にしてはヌルすぎたぞ。なるほど、貴様がこの国の勇者というわけか」
聖なる技を使った為か、バラムは黒峰が勇者である事を見抜いた。
「勇者は殺しておくのが一番いいが……まだヒヨッコの貴様を殺してもつまらん。そうだな、一つ面白い事をしてやろう」
バラムはそう言うと悠々と歩き出した。
黒峰は剣を構えて立ち塞がるが、そんなもの見えていないかのようにドンドンと近付いていく。
「それ以上近付くなら……斬る!」
「そんな疲弊した身体でか?ぬかせ小僧。どけ」
バラムが片腕を振り払うと暴風が吹き荒れ黒峰は遥か後方に吹き飛ばされてしまった。
その後も歩き続けるバラムを止める者などいない。
フリアーレも少し離れた場所で他の魔族を相手にしており、バラムには気付いていなかった。
誰に止められる事もなく、バラムは王城へと入り込む。
ほどなくしてバラムは一人の人間を抱えて王城から出てきた。
抱えられていたのはこの国の王女ラクティスであった。
「無礼者!離しなさい!私はこの国の王女です!何をするつもりなのですか!」
「キーキーとうるさいメスめ。いいから黙っているがいい。貴様を餌にするだけだ」
バラムは勇者に一つ試練を与えてやろうと考えていた。
それも果てしなく高い壁を。
王女を攫い、助けに来る勇者。
この構図を作りたかったのだ。
勇者が助けに来た所を目の前で王女を殺害する。
それこそが最高の娯楽だとバラムはほくそ笑む。
魔王バラムは正真正銘の魔王だ。
四大魔王と呼ばれる四人の魔族。
その一人であり、過去にはベリアルの手で殺されたはずだったが何故かこの場に姿を現している。
「さて、人間諸君。残りの魔族を殲滅し我が城まで来るといい。さすればこの王女は返してやるぞ」
誰も動こうとはしない。
正確には足が震えて動けなかった。
バラムの放つ魔力は常人には理解できぬほどの圧があり、黒峰やランスロットが動けていたのは最低限対抗できるだけの力があったから。
バラムは言い放つと空に浮かび上がり配下の魔族を伴いながら、遠くへと飛び去っていく。
それを追う者など誰もいなかった。
「ラクティス!ラクティス!」
バラムが去りしばらくして王城から国王クライスが慌てた様子で出てきた。
何処にもいない娘の姿を探しているのか右に左にと視線を彷徨わせる。
「ランスロット!娘が!ラクティスが!」
クライスは瀕死で倒れているランスロットに駆け寄ると、彼の身体を揺さぶり声を掛けた。
しかし気を失っているランスロットが返事をする事はない。
「王女様が……」
「そんな……」
「……もう終わりだよこの国は」
騎士達は悲壮感を漂わせ口々に弱音を零す。
そんな彼らを嘲笑うかのように、また魔物の群れが王城へと近付いてきていた。
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