第35話 死と隣り合わせ
黒峰の案内のもと、無名は中庭へと出た。
そこには小さいながらもポツンと石造りの簡易な墓が建てられてあった。
斎藤大輝と名前が彫られてあり、側には使っていた武器が添えられている。
「魔族の襲撃でな……俺達も抵抗したが高位魔族には流石に手も足も出なかった」
当然だろう。
無名ですらハルファスやクロセルを相手取るのはかなり厳しい。
無名よりも劣る彼らでは手の打ちようがなかった。
「残念ですね。あまり会話を交わす機会はありませんでしたが、同郷の仲間を失うのは辛いものです」
殆ど関わりがなかったせいか無名はあまり悲しむ事はなかった。
ただそれが一人の勇者の気に触ったらしく、ツカツカと無名の側まで近寄り胸ぐらを掴みかかった。
「お前がいれば何とかなったかもしれないだろ!なんでこんな後になってノコノコ現れるんだよ!」
茜は元から無名の事が気に食わなかった。
それが今回の件でついに限界を迎えたらしく、茜の表情は怒りに染まっていた。
「アタシ達より力があるくせに!」
「止めろ茜!彼にも事情があるはずだ!そうだろ無名!」
黒峰が止めたお陰で茜に殴られずに済んだ無名は無言で頷く。
本来ならもっと早く王国に帰って来れるはずだったのだ。
転移魔法の事故さえなければ間に合っていたかもしれない。
そう思うと無名は何も言えなかった。
「聞かせてくれ、どうして今になって王国に戻って来たんだ?フランさんも無名がいなくなったって大騒ぎしたいたんだぞ」
「実は――」
無名は転移魔法の失敗により時間軸がずれてしまったと説明した。
信じて貰えるかは分からなかったが、本当の事を伝えたほうがいいだろうと無名は判断したのだ。
「転移魔法……時間を跳躍してしまった、か。にわかには信じがたいが嘘を言っているようには見えないな」
ランスロットは無名の説明に顔を顰めて頷く。
転移魔法の失敗により、時間を跳躍するのは今に始まった事ではない。
過去の文献でも転移魔法の発動に失敗すると時間すらも飛び越えてしまうと記載されていたからだ。
「ふん!適当に嘘を並べてるだけでしょ!コイツがもっと早く帰ってきていれば大輝が死ぬ事はなかった!」
「そうは言うが、無名は悪くないだろう。もしその言葉がまかり通るなら、元凶は無名を遠くの地に飛ばしたフランさんということになるぞ」
「フランさんだって悠久の魔女なんて呼ばれているんだし、そういう意図があったかもしれないじゃないですか」
茜はとにかく無名を糾弾したいらしく、無茶苦茶な事を言い始める。
「大体フランさんとコイツが王国に敵意を持っていないなんて胸を張って言えるんですか?王国に味方をするフリをして実は他国の指示のもと……って可能性も――」
「もうやめたまえ茜。大輝の死を誰かのせいにしたいのかもしれないが、アレは我々に力が足りなかったからだ」
流石にランスロットも茜の言葉を見過ごせず、口を挟む。
大輝が死んだのは四人の勇者に力がなかったから。
それが事実だ。
ランスロットも国王を守る為側を離れられず、大輝を救う事は叶わなかった。
「なんでお前に力があってアタシ達にはないんだよ!!」
茜達も努力している。
勇者としての力を徐々に発現していき、今ではレベル5の冒険者とも対等に戦えるだけの力を身に着けた。
それでも高位魔族には歯が立たなかったのが、茜は悔しくて無名に当たる。
叫び疲れたのか茜は目元を袖で拭うと部屋から出て行った。
「悪いな無名。茜も気が立っているんだ。仲間を失ったばかりってのもあるが……許してくれ」
「僕は気にしていません。それよりも現状を教えて欲しいんです」
「ああ、そうだったな。現状は王国の殆どをリンネの教会と魔族に占領されている。王都が一番激しい戦いだったらしくて、今この結界内にいる者が王都の生き残りだ」
黒峰の説明によると、今や大結界内にいる者を除けば各地で抵抗を続けている者のみが生き残った王国民だった。
リンネの教会の数も脅威だったが、一番の被害を生み出したのは高位魔族による大虐殺。
王国騎士団も半分以上の騎士を失っている。
「その高位魔族の名前はなんでしょうか?」
「名前は……確かアガレスだったか。自分の事を公爵だなんて名乗っていたぞ」
「公爵……ですか。今はどこに?」
「分からん。多分王国内の何処かに拠点を構えているだろうが、この結界から外に出るわけにいかなかったからな」
無名はクロセルを思い出していた。
公爵位だったクロセルは爵位に見合う力を持っていた。
カイルがいなければエルフの集落は滅んでいた。
自分でも勝てなかっただろうと思うと、大輝が死んだのも理解できた。
「王国を取り返しましょう。出遅れてしまいましたが僕も前線に立ちます」
「それは助かる。……でもな、圧倒的な差で押し潰されていく王国を見てか、兵士達の士気は低いんだよ」
黒峰の言葉に無名はランスロットへと顔を向ける。
彼も小さく頷き申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「では僕が全てを薙ぎ払います。取りこぼした敵の排除をお願いできますか?」
「馬鹿を言うなよ。お前の力は確かに人外じみている。ルオール法国との戦いでそれはよく分かった。だがな……今回はあの時とは違う。敵は魔族だ。いくら無名の力が規格外でも一人では勝ち目は薄い」
「ですが誰かが前にたてば士気も上がるでしょう。その役目を担おうというだけです」
黒峰は難しい表情で腕を組む。
無名一人でどこまで戦えるか分からないが、少なくとも自分達よりも戦果を上げるだろう。
ただし、彼も一人の人間だ。
万が一無名が戦死するような事になれば、王国は完全に滅ぶ。
彼の強さを知っている王国軍は、もう立ち上がる事が出来なくなるだろう。
「僕は長く王国を離れていました。せめてそれくらいの事はやってみせます」
「……無名殿。それは勇猛ではない。無謀というのだ」
聞き覚えのある声と共に一人の老騎士が部屋へと入って来る。
大剣を背中に担ぎ、無名も彼をよく知っていた。
「貴方は……ドレイクさん」
「久しいな無名殿。死の淵から生還してみせたぞ」
剛剣ドレイクも今では辺境から王都まで出てきて国王を守る剣となっていた。
法国との戦争に勝利した後、国境を守る必要はなくなった為、王都に出てきていたのだ。
治療の件も考えれば王都のほうがより高度な医療にかかることができる。
それもあって、ミストルティン領は子供に任せ足を運んだ折に今回の襲撃沙汰に巻き込まれた。
兵力が削られていく中、ドレイクの存在はまさに英雄に相応しく士気も辛うじて維持できていたのは彼のお陰ともいえる。
「無名殿、あの時はあまり会話もできんかったからな。改めて名乗ろう。儂はドレイク・ミストルティン。剛剣と呼ばれておる」
「こちらこそ改めまして、神無月無名です」
少し笑みを浮かべて握手を交わすと、ドレイクは険しい表情に戻った。
「それで話は戻るが、無名殿。貴殿が一人で戦うにはあまりに危険過ぎる」
「僕にはそれだけの力があります。今使わずしていつ使うと?」
「それは傲慢と言うやつだ。いや、慢心ともいえるか。とにかく貴殿一人に前線へ立たせる訳にはいかん」
そうは言っても他に誰が共に戦えるというのだと無名は心の中でボヤく。
そんな無名の心を読んだのかドレイクはニヤッと笑って話を続けた。
「忘れてもらっては困るぞ。儂はこれでも英雄と呼ばれた男だ。ランスロット程ではないがそれなりに戦える」
「高位魔族を相手にどれだけ善戦できますか?」
「ふむ……時間稼ぎくらいはできるぞ。貴殿は魔法を得意としているのだろう?ならば時間稼ぎは必要な筈だ」
確かに言われてみればそうだが、無名には速攻で放てる魔法もあった。
とはいえここまで言ってくれているドレイクにそれを言うのも野暮かと黙っておくことにした。
「決まったな。儂と貴殿、それとそこにおる冒険者二人で前線に赴こうではないか!フハハハ!魔族共め……目にもの見せてくれるわ」
ドレイクは豪快に笑うと、無名も口を挟むような真似はせず頷いた。
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