第33話 王国騒乱
獣王国を出て二日が経った。
道中魔物に襲われる事無く平和な旅になっている。
ただ、あまりに平和すぎるからかミルコは退屈しているらしく、時たま大きな欠伸をしていた。
「ねー無名ー、暇だよー」
「暇な方がいいじゃないですか。王国に辿り着く前に疲弊していれば、後々大変ですし」
魔物が出てこない理由が無名には何となく分かっていた。
竜車の存在だ。
馬ではなく竜が牽いている時点で、低級な魔物は襲い掛かって来ることはない。
竜は食物連鎖の中でも上位に君臨している。
そんな竜が荷車を牽いていれば近づこうとする魔物はほぼいない。
「暇だよー!」
ミルコの限界が来たのかリューの背中で手足をばたつかせ始めた。
無名にもこればかりはどうする事もできない。
「ん?」
そんなミルコがふと動きを止め一点を見つめる。
まさか本当に魔物が寄ってきたのかと無名もそちらに視線を向けた。
しかし魔物の姿などどこにもなかった。
あまりに暇すぎていよいよミルコは幻覚を見だしたのではないかと疑っていると、リューもそちらに視線を向け固まる。
「あれ人かも」
ミルコが呟くとリューも首を縦に揺らし肯定したような動きを見せた。
無名には何も見えていない。
「行こう!なんかフラフラしてる!」
ミルコが合図するとリューが突然走り出す。
無名はバランスを崩し尻餅をついた。
「な、何がいたんですか?」
「んー、多分人!血だらけみたい!」
無名よりも獣人の方が視力はいい。
その差が如実に出たのだろうかと無理やり納得すると、無名は座り直した。
しばらく走り続けていると、徐々に無名の目でも確認できる人影が見えてきた。
ミルコの言う通り足元はおぼつかず、血だらけのようにも見えた。
「あれは……」
「背中に剣を担いでるよ。多分冒険者かな?」
近付くにつれてその者がかなりの大怪我を負っているのが分かってきた。
血は滴り鎧もボロボロ、よほどの事に合ったのだろうと無名とミルコは心配そうに見つめる。
ある程度の距離まで縮まると無名は竜車から飛び降り、駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
至近距離まで近付くとその者は足を止め、ボソボソと何かを呟く。
小さくて聞き取れなかった無名が肩を貸しその場に座らせると、持っていた水筒を手渡してやった。
冒険者らしきその者は無名の水筒を両手で掴み一気に飲み干した。
「はぁはぁ……あ、ありがとう」
「いえ、礼には及びません。それより一体何があったんですか?」
息も絶え絶えに喋る冒険者は憔悴しきっていた。
布切れを渡すと、水に濡らし顔を拭く。
赤い髪で顔立ちは整っている女性だった。
無名は焦らせないよう相手の言葉を待つ。
「私は紅き旋風のリーダー、レイラです。王国騒乱で増援を呼ぶ為外に出たまでは良かったのですが……途中で馬が逃げてしまい……」
無名は彼女の事を見たことがあった。
冒険者ギルドでセニアと訪れた際に、興味があると言わんばかりに無名に話しかけたそうにしていた方だった。
「貴方はもしや、セニアさんのお知り合いではないですか?」
「え……?あ!もしかしてあの時の勇者!?」
レイラも気付いたらしく目を丸くし驚愕する。
無名はあの時、クロウとジェシカにぶっ飛ばされている。
だからか無名の事を覚えていたレイラは口を大きく開けとても驚いていた。
「まさかこんな所で会えるなんて、ね。丁度よかったよ。どうしてこんな所で油を売ってるのか知らないけど、今王国は危機に陥ってる。手を貸して欲しい」
「そのつもりです。だから今王国に向かっていたんですが、そんな折に貴方を見掛けたので」
「獣王国に助けを求めるつもりでここまで来たけど貴方に会えたのは僥倖ね」
ミルコにもレイラの事を伝え、竜車へと乗り込む。
二人だと流石に狭すぎて膝を折り曲げで窮屈な状態になってしまうが仕方ない。
「悪いね……乗せてもらって」
「構いませんよ。それより話を聞かせてもらえませんか?」
「そうね……何処から話したものか――」
――――――
無名がフランの魔法により何処かへと飛ばされてしまった。
その情報は瞬く間に王国全土へと広がっていった。
勇者が一人欠けた状態だが、比較的大きな騒ぎになることはなかった。
元々無名はあまり名前が公になっておらず、それが幸いしたのだった。
その後も研鑽を続けていた四人の勇者は、少しずつ力を身に着けていく。
しかし、その日は突然訪れた。
王国各地でリンネの教会が決起し、暴動を起こし始めたのだ。
あまりに突発的な事で対処が遅れた王国軍は後手に回る。
すぐに冒険者ギルドにも緊急依頼が飛んでくると、冒険者達は暴動を抑える為、各地で抵抗を始める。
ただそれも長くは続かなかった。
リンネの教会は一体どれだけの戦力を蓄えていたのかと思える程数が多く、いくら抵抗しようが一向に暴動が収まらなかった。
そのうち勇者の一人がリンネの教会に協力する魔族によって命を落としたと噂が一人歩きし始める。
そうなると王国の士気は下降を続け、もはや内乱状態へと移行した。
レイラ率いる紅き旋風も魔族と出会い死闘を繰り広げた。
命からがら倒せたのはいいが、被害は大きくレイラ以外の仲間を全て失った。
このままでは王国は滅ぶ。
そう考えたレイラは手を貸してくれそうで、身体能力に秀でた亜人だけで構成された国、獣王国へと馬を走らせた。
道中レイラが疲労により落馬すると馬はそのまま走り去ってしまう。
仕方なくよろめきながらも歩いていると無名達と出会ったのだった。
「――とまあこんな感じだよ。私にもっと力があれば結果は違ったかもしれないけど」
「こうして状況を伝えてくれただけでも十分です。ミルコさん、速度を上げられますか?」
「もちろん!リュー?全力でお願い!」
話を聞いていたミルコも急いだ方がいいと判断しリューへと命令をくだす。
リューは唸ると加速し始めた。
その速度は馬車の数倍。
揺れも大きく、ギュウギュウ詰めの無名とレイラは頭をぶつけるほどだった。
もう遅いかもしれないが、急げばまだ間に合うかもしれない。
そんな希望を胸に無名は、まだ見えない王国をじっと見つめる。
レイラは喋り疲れたのか寝息を立て始めた。
レイラはレベル5のセニアと同じランクだった。
そんな彼女ですらこんなボロボロになるほど王国は追い詰められている。
そう思うと無名は自分一人でどこまで抵抗できるのか不安になってきていた。
ミルコもいる。
リューも恐らくそこらの冒険者よりも強いだろう。
それでも圧倒的に戦力が足りなかった。
せめてカイルがいればと無名は、転移魔法陣を使わせてくれた彼を思い出す。
あれだけの力があれば一人でも戦況を変えられる。
もっと力があればと思うのは仕方のない事であった。
八日間かけて、無名一行はようやく王都の外壁が見える所までやって来ていた。
本来十日掛かる所をリューが全速力で駆け抜けてくれたお陰で二日間も短縮していた。
「お疲れ、リュー。ここで休んでおいていいよ」
「グルル……」
流石に疲れたのだろう、リューは地面に這いつくばるとそのまま目を瞑る。
外壁までまだ少し距離があるが、これだけ離れていれば中で暴れているであろうリンネの教会や魔族に見つかる恐れはない。
「レイラさん、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。回復薬もあれだけ使わせて貰ったんだ。勇者に比べれば劣るけどこれでもレベル5。役に立って見せるから」
レイラも大きな傷は治り、擦り傷が少し目立つ程度まで回復していた。
ミルコを含めて三人。
王都がどんな状況になっているかは想像できないが、少なくとも平和な状況ではない事は分かる。
三人は王都を目指して外壁へと歩き始めた。
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