第28話 人智を超えた魔法
「貴様は一体なんなのだ!人間の皮を被った魔族か!?それとも既に失われた神族の生き残りか!?」
クロセルは叫ぶ。
カイルの力は異常としかいえぬもので、いよいよ人間である事を疑い始めていた。
魔法を消す魔法は一応古い魔導書を読み漁れば書いてあるものだが、それでも神級魔法をかき消すような力はない。
錬金術と魔法を極め昇華させたカイルだからこそそれを可能としていた。
「もう手札はないのかな?」
「だ、黙れェェェッ!」
いよいよ後がなくなったクロセルは真っ黒の剣を亜空間から召喚するとカイルを亡き者しようと突撃する。
「破れかぶれの突撃ってとこかな?残念だよクロセル。もう少し公爵らしく私をアッと驚かせるような魔法を見せてくれるかと思っていたんだけどね」
剣を突き立てんと飛び込んでくるクロセルを横目にカイルは欠伸を一つする。
「剣山迷宮」
カイルがその言葉と共に地面へと鉄剣を突き刺すと、無数の剣がクロセルに襲い掛かった。
躱すことなどできず剣山の如く四方八方から突き刺されたクロセルは大量の血を吐きその場に磔となった。
「これ……は……」
「私が何者か知らなかったのかな?私はこう見えて魔法使いじゃないんだ。錬金術師なんだよ」
地面に転がる小さな石一つ一つがカイルにとっては攻撃へと手段に成り代わる。
石から鉄剣を生み出しクロセルを磔にしたままカイルは話を続けた。
「魔族も痛みを感じるのは知っているよ。今君はどんな気持ちかな?」
「き、貴様……」
もがけば藻掻くほど剣は深く突き刺さり止めどなく血は流れていく。
既にこの場にはクロセル以外の魔族はいない。
大半の魔族が消え失せ、生き残った魔族はクロセルを置いて逃げていた。
「人徳のない公爵位だね」
「黙れ!雑魚どもが私から離れようと構わん!」
「まあまあ、そんなに暴れると短い命が更に短くなるよ?」
クロセルは何とかここから離脱しようと突き刺さった剣を一本ずつ抜いていく。
激痛が走りながらもカイルを睨みつける目にはまだ殺意が宿っていた。
「さて、最後に言い残す事はあるかい?」
カイルは手は地面から剣を抜くといつでもまた刺せるよう空中で静止する。
「勇者を……勇者を殺すよりも貴様が危険である事が分かった。貴様も今後追われる事になるぞ」
「追われる?結構じゃないか!私に歯向かう魔族がまだいるというのなら連れてきて欲しいものだよ!」
この時のクロセルはまだ知らなかった。
カイルが過去に魔族を虐殺していた事を。
その頃の魔族には恐れられ近付く事は避けるべきだと言うのが全魔族の共通認識だった。
「人間が……驕るなよ!?魔族より劣る種族が調子に乗れば淘汰されていく!貴様も――」
「ああもういいよ」
カイルはクロセルの言葉を遮り地面に剣を突き刺した。
それと同時に一本の剣がクロセルの核を貫く。
公爵位であろうと魔族は全て核が壊れれば死に至る。
クロセルの身体は灰に変わっていきやがて全てが塵となった。
その最後までカイルを睨みつけていたクロセルの殺意は相当高かったのだろうと想像できた。
「公爵位といってもあんな雑魚は倒しても大して意味はないね」
カイルは呟き地面に突き刺した剣を消す。
消えた剣はその場に丸い石となって転がった。
「カイルさん……貴方の力は魔王にも通用するのではないですか?」
無名がカイルへと近づき声を掛ける。
圧倒的とも言える力で公爵位魔族をねじ伏せた。
その一部始終を見ていた者なら誰でも無名と同じ感想が脳裏をよぎる事だろう。
「うーん、そうでもないさ。私も人間の中では頂点にいるかもしれないと思う事もある。でもね、魔王は別格さ。あれは人の敵う相手じゃない」
カイルの目は真剣だった。
過去に一度対峙した事があるのではないかと思えるほど、その言葉には力が篭っていた。
脅威は去り、エルフ達は続々と避難していた家屋から外へと出てくる。
激しい戦いの跡を見て身を震わすエルフもいた。
その中で一人険しい表情で近付いてくる者がいた。
「カイル!!!貴様どの面下げてここにいる!!」
声を荒げていたのはマリアだった。
無名はすぐさま二人の間に割り込みマリアを抑え込む。
「どけ無名!奴は我らが同胞をその手に掛けたのだぞ!」
「落ち着いてください。僕もそれについては何も言うつもりはありません。ただ今回はカイルさんの力あっての事です。カイルさんがいなければあの公爵位魔族は倒せませんでした」
「落ち着けるものか!同胞の仇をここで討ってやる!」
顔を真っ赤にしてマリアは矢を番えた。
流石にそれは不味いと無名は彼女へと歩み寄る。
「エルフの仇であり、エルフを救った恩人でもあります!武器を下ろしてください!」
「殺された者の中にはまだ幼い者もいた!」
「分かっています!ですが今回死者が最小限に抑えられたのもカイルさんのお陰です!」
「そもそも何故この場に奴がいる!無名!お前が呼んだのか!」
マリアの怒りは収まらず未だ矢を番えてカイルを睨みつけていた。
「まあまあ落ち着きなよ。どのみちその矢で私は殺せないよ?」
カイルが無名を横に追いやりマリアへと問い掛ける。
マリアは無言でカイルへと照準を合わせた。
「やってみなければ分からんぞ」
「じゃあやってみてくれるかい?」
間髪入れずにマリアは矢を放った。
光を帯びた矢は真っすぐにカイルの心臓目掛けて飛翔する。
当たるかと思われたその時、突然カイルの心臓辺りに岩でできた盾が生み出され矢を弾いた。
「ほら、無理だろう?とりあえず落ち着きなよ」
「一度で無理なら何度でも!」
マリアは高速で矢を番えて放つ速射と呼ばれる技術でカイルへと複数本の矢を放った。
そのどれもがカイルに当たる直前に盾に阻まれ弾かれる。
「もういいかな?」
「マリアさん落ち着いてください」
絶対の防御を誇るカイルをこの場では殺せないと踏んだのかマリアは弓を下ろした。
「……それで何故お前が我々を助ける。理由もなく手を貸す道理などないだろう」
「それは無名君に頼まれたから、ということにしておこうかな?」
「頼まれたから公爵位魔族と対峙したとでも言うつもりか」
「まあそんなとこさ」
マリアからすれば頼まれても公爵位魔族とやり合うなど冗談ではなかった。
魔族の中でも特に強大な力を持つ公爵位は、レベル6のマリアでも勝てる相手ではない。
カイルがあまりに別次元の強さを持つが故に勘違いされやすいが実際にはレベル6と7の間には隔絶した差がある。
「まあ今回だけは見逃してもよいではないか?マリア」
そんなやり取りを見ていたのかエリーゼがやってきてマリアへと言葉を投げ掛けた。
腹立たしい気持ちなのは変わらないはずだが、エリーゼはマリアを諫める。
「長老、気が触れたか?此奴は大罪人だぞ」
「理解しておるよ。ただ多数のエルフを救われたのも事実。私も腸が煮え返る思いだがな」
そう言いながらエリーゼはカイルへと視線を向けた。
その眼には感謝しつつも殺意が込められていた。
「これ以上ここに長居してると殺されそうだ。私はここらで去るとしよう。また会おうじゃないか無名君」
カイルもその場の空気感を察し、去ろうとする。
無名もそんなカイルを止めるような事はせず、無言で見送ることにした。
「ああ、それと言い忘れていたよ。私は確かに人間としての心は失っているかもしれない。しかし人間としての矜持は捨てた覚えはないよ」
カイルはそれだけ言い残しエルフの集落を出て行く。
残された無名達は誰も発言することなく彼の後姿を見送った。
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