第26話 魔族襲来
エルフの集落でマリア達は臨戦態勢で周囲を警戒する。
嫌な予感は既に近くまで迫ってきていた。
「生命反応からしておおよそ数十の魔族がここを目指してきているな」
なぜ今になって突然襲撃が増えるのか、大体の想像はついていた。
カイルからもたらされた情報と無名の存在だろう。
カイルに関しては何も言うまいとみな頭から消し去っていたが無名の存在はかなり大きい。
エルフに味方していてくれる無名はありがたい存在でありながらも、魔族を引き寄せる要因であるだろうとエリーゼは推測していた。
魔族がわざわざエルフ如きに躍起になるはずがない。
唯一魔族が全力で排除しようとするのは勇者だけだ。
「今更出ていけなどと言えるはずもないか……」
マリアが引き連れてきた時、どう対処するべきか悩んだエリーゼだったが、結果的にはエルフ存続の危機を自ら招いた形なっている。
無名に罪はない。
勇者であることが問題なのだ。
「まあ仕方あるまい……全員魔族が来るぞ!ミンフは結界の維持を。その他の者は万が一に備え略式詠唱で魔法の準備をしておけ」
エリーゼはみなに指示を飛ばす。
姿の見えない無名は置いておくとして今はとにかく襲撃に備えなければならない。
徐々に近づいてくる巨大な魔力の渦。
それは結界の外で止まると、一時の静寂が訪れた。
「来る……」
エリーゼの呟きとほぼ同時に大結界に亀裂が走った。
外から強烈な攻撃を加えられた証である。
大結界にヒビを入れるなど普通の人間ではほぼ不可能であり、攻撃を加えているのは魔族である事は明白だった。
「長くはもたん!奴らは一気に押し寄せてくるぞ!」
今か今かとエルフは武器を片手に構える。
遂にその時が来た。
盛大に音を立てて崩れ散った結界を悠々とすり抜け一体の魔族が姿を見せた。
「どこだ……どこにいる勇者ァ!」
マントを翻し空中に浮かぶ魔族に付き従うように複数体の魔族が現れる。
襲撃のリーダー格と思われる魔族に先手を打ったのはマリアだった。
「光芒一閃の矢!」
一直線にその魔族へと迫る光線は触れるか否かの所で霧散し跡形もなくなった。
大したダメージにはならなくとも避けるくらいはするだろうと思っていたマリアは呆気に取られその魔族から目を離せなくなっていた。
「チッ羽虫が囀るな。失せろ反転する自壊の波動」
リーダー格の魔族が片手をマリアへと向けると魔法を発動する。
邪悪な紫色の光線が刹那の速度でマリアへと迫ると即座に真横へと跳んで回避した。
地面は抉れ深い穴を空けたのを見て、心臓を貫かれていれば即死だったと冷や汗を流した。
「動きの素早いことだ」
賞賛しているわけではないが、純粋にマリアの回避能力を感心したように拍手を送る。
「聞け!劣等種ども!我が名はクロセル!公爵位を持つ魔族だ、跪け!」
クロセルの言葉にエリーゼも額に汗が滲む。
公爵位ともなれば勝ち目のある相手ではない。
どうしてそんな大物がわざわざ出張ってくるのか疑問にも思ったが、今はそんなことどうでもいいとエリーゼは首を振る。
「この集落にいるのだろう、勇者が。我が前に差し出せ。ならば命くらいは助けてやろう」
クロセルの言葉は信用できるものではない。
魔族がわざわざ手下を引き連れてここまで来たのだ。
勇者を見つけたからとエルフに手を出さない道理などない。
「知らんなクロセルとやら。見当違いの場所を探しているのではないか?」
エリーゼはクロセルへと答える。
そんな答えを告げればクロセルが苛立つのは目に見えているのにどうしてと他のエルフはエリーゼを見た。
「貴様……そうか、その魔力量。ここの長だな?」
「いかにも。私はエルフの長老エリーゼだ。そんな私が言っているのだぞ?彼はここにはおらん」
エリーゼは徹底して無名の事を隠すつもりだった。
証拠もない。
運がいい事に無名がこの場に姿を見せていないのだから、クロセルには真偽の判断はつかないだろう。
「クックック……エリーゼとやら、今貴様は口を滑らしたぞ」
「何?」
クロセルは堪えるようにクツクツと笑いを零す。
何か不味い事を言ったのかとエリーゼは自分の発言を思い出すが、何も間違った事は言っていない。
「今貴様は彼、と言ったな?私は勇者と言っただけで男の勇者とは一度言ってはおらんぞ」
「ッッ!?」
確かにエリーゼは彼と言っていた。
しかしそれは当然の事。
無名は男で彼と呼ぶのは何も間違ってはいないのだ。
ただ今このタイミングで彼と言ってしまったのはミスだ。
クロセルに無名の存在を仄めかしたようなものだった。
「集落を探せ!奴はここにいる。そして貴様は万死に値する反転する自壊の波動」
間髪入れずにクロセルはエリーゼへと先ほどと同じ魔法を放った。
背丈ほどもある杖を携えていれば回避は間に合わない。
エリーゼは身を守ろうと目前に結界を張った。
結界へと触れたクロセルの魔法は音もなくジワリと結界を紫色に染め上げていく。
「我が魔法は貴様の結界などあってないようなものだ!死ね!」
「くっ!風絶の壁!」
結界でダメなら物理的干渉を受けない風でクロセルの魔法を阻む。
「無駄だと知れ!」
それでも浸食を止めないクロセルの魔法は徐々にエリーゼへと迫った。
「無効空間」
昔よく聞いた声でエリーゼの耳元に届いた言葉は彼女も知っている魔法だった。
クロセルの魔法は突如消え去り何事もなかったかのように静寂が訪れる。
「何!?」
魔法を消す魔法。
そんな魔法の理を覆すような事象は魔族であっても信じられない事であった。
「いやぁ、間に合ってよかった。お久ぶりですねエリーゼ師匠」
「助けに来たのが貴様とは……」
エリーゼの危機を救ったのは過去に指南をつけてやったカイルであった。
彼は相変わらず飄々としており真意が読めない。
ただこの場に絶対的な強者が現れてくれたのは僥倖だった。
「それにしても魔法を消す魔法まで会得しているとは……いよいよ人間を辞めたかカイル」
「そんな事はありませんよ。ただ、少し研究に精を出しただけですね」
カイルは簡単に言ってのけるがそう簡単な話ではない。
魔法が何たるかを理解し打ち消す為の魔法を生み出したのだから天才と言っても過言ではない。
「では私が代わりましょう。エリーゼ師匠は後方で大魔法を詠唱するのが得意でしょうし」
「ふん……礼は言わんぞ。貴様のやった事は到底許される行為ではないのだからな」
エリーゼはそう忠告しカイルよりも後ろへと下がっていく。
他のエルフもエリーゼと同じくカイルよりも後ろへと下がって行った。
「さてと、挨拶はしておいたほうがいいかな。私はカイル。一応レベル7なんて言われてる人間さ」
「カイル……そうか、貴様が今の魔法を」
クロセルは目の前の男が普通の人間には思えず、警戒を露わにする。
クロセルにもある程度の人間の国においての序列は分かっていた。
レベル7と呼ばれる者は世界でもただ一人だと。
「人間の切り札、といったところだな」
「いやいや、持ち上げすぎじゃないかな」
カイルはニヘラと笑い頭を掻いた。
そんな様子もまたクロセルは警戒する。
「で、えっと君は公爵位だっけ?」
「……そうだ。勇者を探しに来た」
「なるほどなるほど……うーん、私も最終的な目的は魔王討伐だからね。悪いけど教えてあげることはできないかな」
「ふん、どのみち正攻法で知るつもりなどない」
クロセルが地上に降り片手をカイルへと向ける。
カイルもまた片手をクロセルへと向けると不敵に笑う。
「じゃあ、やろうか。私は人の心がない悪魔のようだと揶揄される事もあるけど、根本的な所は人類寄りだからね。悪いけど死んでもらうよクロセル」
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