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第24話 共同作業

エルフの集落を覆う大結界はエリーゼだけで張れる代物ではない。

魔法を得意とするエルフが数人がかりで全方位を守る形に成形していく必要がある。

一人で張ろうものならそれこそエリーゼ数人分の魔力が必要となるだろう。


ただ悲しい事にその数を半分にまで減らしてしまった状況で前と同じ強度の結界は張れないだろうというのがエリーゼの見解だった。


そんな折に無名から手を貸す旨の申し付けがあった。

渡りに船だとエリーゼはすぐに陣頭を取る。


「よいか?これは一人の失敗も許されん。全員の魔力を均等に巡らせなければ綻びが生じ、やがて瓦解する」

エリーゼの他にもマリア、レイン、ミンフと魔力量に優れたエルフが集っている。

そこに無名を合わせて五人での共同作業だった。



みな顔つきは真剣そのもので、五芒星を描くように集落の端へと立ち合図を待つ。


エリーゼが杖を上空に掲げると青白い魔力線が伸びていく。

次第にそれが次のポイントであるマリアの元へと降りてくると、今度はその線を次の者へと送る。


上から見れば星のマークを描き、全員に行き渡った所でエリーゼが声を大にした。


「魔力を全て流し込め!」

その合図と共に全員が魔力を流し膨大な量の魔力が集落全体を覆っていく。


最初に顔を顰めたのはレインだった。

五人の中では一番魔力量に乏しい彼が最初に脱落するのは分かりきっていた事だ。


そろそろ限界が近いレインが膝をつきかけたその時、無名が更に魔力を送り込みレインの分までカバーし始めた。


「すまない無名……」

物理的に離れている無名に聞こえるはずがないがレインは申し訳なさそうに感謝を述べた。


無名がカバーに入った事でいよいよ結界の完成も間近となると、全員の表情が曇りだす。

全員の魔力がかなり消費され立っているのも苦しくなる。


「踏ん張れ……最後まで気を緩めるな!」

エリーゼが激を飛ばす。


最後の方で結界の展開に失敗すれば、また日を改める必要がある。

そうなれば無防備な日数が伸びてしまう。


ただでさえ数を減らしてしまったエルフをこれ以上減らすわけにはいかないとエリーゼは他の者の魔力も補いながら気合で耐えた。



青白い大結界が集落を覆いきると、五人はその場にへたり込んだ。

無尽蔵の魔力を持つと言われていた無名も流石にキツかったのか大量の汗をかいていた。



「みな……よくやってくれた。大結界の展開に成功したぞ」

一度展開してしまえば後は時折結界に魔力を流し込むだけで結界は維持できる。

これで一安心だと見守っていたエルフ達は歓喜の声を上げていた。


全員よろめきながら集落の中心、大樹の下に集まると腰を下ろした。


「ふぅ……すまなかったな無名。俺がこの中では一番魔力量が少ない。こうなる事は分かっていたんだが」

「構いませんよ。結果が全てですから」

別に無名はレインの尻拭いをしたとは思っていない。

共同作業というものはそんなものだと理解しているからだ。


誰かが足並みを揃えられないのであれば、揃えられるよう合わせてやればいい。


「これで安心だといいですが」

「大抵の魔物は入ってこれん。魔族ですらな。ただ高位魔族なら分からん」

マリアが危惧しているのはカイルだ。

五人がかりの大結界を突破できるとは思えなかったが、魔族と手を組んでいるとなると話が変わってくる。


膨大な魔力を持つエリーゼと無名、レベル6の実力とそれに相応しい魔力を持つマリア、そしてレベル5のミンフとレインが全力で張った大結界。

高位魔族ですら突破できるか怪しい代物だった。


しかしそれは一人だけなら、の話である。


カイルが高位魔族を引き連れ大結界へと攻撃を加えれば流石にもたないだろうとマリアは考えていた。


「カイルさんはこの場所を知っているんですよね?」

「知っている。でなければあんなキメラをここに送り込んでは来ない」

「もし、カイルさんが完全に敵に回れば勝てると思いますか?」

無名はもしそんな時が訪れたらここの戦力だけでは勝てないだろうと思っている。

だがそれはエリーゼの本気を知らないからでもあった。


「カイル一人だけならこれだけの面子が揃っているのだ。負けはせん」

エリーゼが恐れるのは魔族だ。

カイルよりも凶悪な魔族は存在する。

それらが群れをなして襲いかかれば勝ち目は薄い。


カイルは確かに人外の領域へと足を踏み入れている。

それでも彼は一人の人間なのだ。

不老の身体を持てども不死にはなれない。

それはエリーゼがよく知っている。


先代長老がそうであったように。


「正直言えば僕はカイルさんと比べれば足元にも及びません。それでも勝てると言えますか?」

無名はエリーゼが自分を過大評価しているせいだと思ったのか再度質問を繰り返す。


「問題ない。私が何年生きていると思っている。カイルも長生きしているが私に言わせれば小童に過ぎん。経験値の差が一体どれだけ離れているか」

「随分とカイルさんの事を知っているような口ぶりですね」

「知っておるよ。奴に錬金術の基礎を教えたのは私だからな」

エリーゼの言葉に全員が目を見開く。

マリアですら聞かされていなかったのか驚愕の顔に染まっていた。


「そもそも奴がなぜエルフの森に暮らしているか考えた事はないのか?普通の人間ならば私がとっくに追い払っておる。そうしなかったのは過去に指南をつけてやった縁があるからだ」

「なるほど……昔の弟子なのですね」

「そうだな。だからカイル一人ならば問題ないと言ったのだ。弟子は師を超えられん」

過去に指導してやった事があるのなら、弱点もよく知っているはずだ。

無名は納得したのか頷いた。


「私も聞いていなかった話だぞ」

マリアは不服そうな顔でエリーゼに詰め寄った。

そんなマリアをエリーゼは鼻で笑い飛ばす。


「言ってなかったからのぉ」

「何故だ」

「聞かれなかったから」

流石の無名も今のやり取りはエリーゼに対してキレてもいいのではないかと思った。


「長老が指導していたなど……それこそ手が付けられん化け物じゃないか」

「いいや、そうでもない。奴の弱点はただ一つ。愛する妻だ」

「それがどうして弱点になる。もう死んでいるのだろう?」

「クックック、奴は既に非人道的な行為に手を染めた。ならばこちらも遠慮はせん」

意味が分からず無名はエリーゼの話を黙って聞く。


「奴の妻、ミランダの名を出せば必ず隙ができる」

「……死んだ者の名を使うなど、死者を愚弄する気か?」

「バカを言うな。我らが同胞の仇を取れるならそれくらい、安いものだ?そうだろう無名殿」

突然話を振られた無名は動揺し目を彷徨わせた。

仇を取るという大義名分の下、死者の名を使い戦況を変える。

それはいかがなものかと考えてしまったが、カイルに殺されたエルフの数は百を超えるのだ。

それくらいは許されるべきかとも思ったが、やはり無名には答えが出せず沈黙が続く。


「長老、俺もそれは最後の手段で良いと思います。戦うのなら正々堂々と真正面から戦うべきだ!」

レインの言葉はまさに正論。

エリーゼは鼻で笑うと面白くなさそうに顔を背けた。


「カイルはもう人の子とはいえん。奴はもう、人の心などとっくの昔に失っておる」

「人の心を失ったアイツを殺す為に我々が非道な手を使うと?それを容認するのが長老のやる事か!」

「お前達は何も分かっておらんな。奴の恐ろしさを。まあいい、いずれ私の言葉に従っておけばよかったと後悔する日が来なければよいな」

エリーゼはそれだけ言うと自分の家へとゆっくり戻って行った。

残された無名達の間には何とも言えない空気が漂う。



「少し頭を冷やそう。いくらなんでも死者の名を使いカイルの心を揺さぶるのは気が引ける。たとえ同胞の仇といえどな」

マリアはそう呟くと彼女もゆっくり立ち上がり自分の家へと戻って行く。

無名とレイン、ミンフは顔を見合わせ首を振ると各々与えられた家に戻った。

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