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第22話 悲劇

キメラの襲撃からおよそ三時間後。

マリア達は新しい集落へと到着していた。

集落だった、というのが正しい。


建物は軒並み壊され辺りには血が散乱している。

キメラが暴れ回ったことは明白だった。


せめて生き残りがいないかマリア達は周囲を捜索する。


「あっ!」

ロイが一番に声を上げる。

彼が見つけたのは大木をくり抜いたほら穴のような場所だった。

中を覗くと何人かのエルフが見えたのだ。


「マリアさん!ここに生存者が!」

すぐにマリアへと知らせると捜索に当たっていたエルフらが大挙して押し寄せる。

顔を覗かせたロイの顔を見てもう大丈夫と判断したのかほら穴から数人のエルフが出てきた。

顔は泥だらけで所々に擦り傷がある。


「おお、良かったぞ無事で」

「ま、まだ生き残りはいます。いくつかのほら穴に逃れたので」

その言葉通り集落の生き残りエルフがちらほらと顔を出し始めた。


全てのエルフが出てきたがそれでも元の数に比べれば半分程になっていた。


「半分がやられたか……」

「はい……私達も応戦したのですが……歯が立たず」

マリア達ですら苦戦を強いられたのだから普通のエルフが勝てる道理はない。

悔しそうに歯を食いしばりマリア達は亡くなった戦士達の墓を建ててやった。



「無名殿とレインはまだなのか」

「彼らの方でも戦闘があったはずだ。無事ならじきに合流する」

既に集落にいるマリア達の元には未だ姿を見せていない二人を心配するエリーゼだったが、マリアとしては長老の身も心配だった。


「あんな大魔法を行使すれば寿命を減らしたのではないか?」

「ふん、心配される程ではない。たかだか数年の命を減らしただけだ」

エリーゼの魔法は寿命を削るほどの大魔法だった。

しかし長命種であるエリーゼはあまり事を大きく考えてないのか飄々としていた。


「もう長くないだろう、私が代わってやるぞ長老の役目を」

「何を言うか。私が死ぬまでは譲るつもりはないぞマリア」

「若くもないくせに」

順当に行けば次の(おさ)はマリアだ。

いつまでも長の席に居座るエリーゼにはさっさと隠居して欲しかったマリアは毒を吐く。

エリーゼはそれをカラカラと笑い飛ばす。


「カッカッカッ!長をやりたければ私を超える力を身に着けてから言え」

そう言われてしまえば何も言えずマリアは黙り込む。

長になるエルフは一番強い者がなる。

つまりこの中で一番力を持っているのはエリーゼであった。



「それにしてもカイルの奴、大胆な行動に出たな」

ふと我に返ったのかエリーゼは真顔で呟きを漏らす。

マリアも聞こえたのか眉がへの字に曲がる。


「キメラの生成……生半可な知識では不可能なはずだがな。何を贄としたのか」

「大方魔族であろう?あの魔力は魔族のものであった。他にも多数の魔物を繋ぎ合わせていたな」

キメラの醜悪な見た目が思い出されマリアは顔を顰める。

錬金術の代名詞とも言える人体錬成。

今回のキメラは恐らく練習だった事は容易に想像が出来た。


カイルの目的は死んだ妻を蘇らせる事。

キメラの錬成に成功したとなると彼の研究は次の段階に入った事を示していた。


「エルフが狙われるぞ」

「分かっている。ただどうしようもない」

「今は無名殿がいるから何もしてこないだけかもしれんが、彼がいなくなれば確実に奴は動く」

少なくとも短期間だけでも弟子であった無名には見せたくないのかカイルは自ら動こうとはしなかった。

その代わりに派遣されたのは練習台で創り出されたキメラだ。


「次の贄には必ずエルフを選ぶだろう。そこまで錬金術に明るくないから想像でしかないがな」

「いや、恐らく正しい。エルフの肉体は魔力の塊みたいなものだ。贄にするにはもってこいだろう」

カイルが厄介極まりない存在である事は前からだが、その厄介な理由が強さにあった。


世界で唯一のレベル7冒険者。

実力は人外の領域であり、一つ下のマリアも歯が立たないのだ。


「あれだけの力を持ちながら……邪悪に染まるとは」

「だから人間は度し難い」

二人は腕を組み難しそうな表情で遠くを見つめる。

エルフの為に命を懸けて戦っている無名とは大違いだと言わんばかりに二人は黙って歩いてきた方角を見つめていた。



――――――

その頃、無名とレインはアウルベアを討伐し集落目指して歩いていた。

膨大な魔力を感知した無名だったが距離も離れていて、戦闘中だった事もあり駆け付ける事は叶わなかった。


「無名、感知した魔力はどんなものだ」

「恐らくは上位の魔族クラスかと」

その言葉にレインも顔を顰める。

上位となればマリアや長老と同等以上。

少なくとも犠牲は免れないと考えていた。


「急ぎたい所だがな……チッ!」

「ええ、本当にッ!」

走って向かいたい二人を嘲笑うかのように、間髪入れずに魔物が襲い掛かってきていたのだ。


喋りながらも飛び掛かってくる魔物を斬り落とす無名とレイン。

どう考えても何者かの意思が存在しているのは明白であった。


「誰だか知らんが魔物をけしかけるとは。それも小物ばかりを」

「本気で僕達を殺すつもりはないのでしょう。ただ歩みを遅めたいだけ。僕にはそう感じられます」

実際襲ってきているのはゴブリンやスライム、たまにリザードマンといった下位中位の魔物ばかりだった。

アウルベアクラスの魔物が数を用意できなかったのか、もしくは無名の言う通り足を止めたいだけなのか。

二人は知る由もない。



そんな二人を遠見の魔道具で眺める男が一人。

カイルは楽しそうに口元を歪め無数の魔物を薙ぎ払う二人をジッと見ていた。


「アウルベアも結構誘導が大変だったんだけどなぁ。無名君もなかなか成長を見せてくれるじゃないか」

誰に聞かせるでもなくカイルは呟く。


実のところ、アウルベアが突然現れたのもカイルの仕業であった。

無名達の戦っていた付近に魔物寄せの薬剤を撒きアウルベアを遠くから呼び寄せていたのだ。



「うーん、キメラの方もすぐ倒されちゃったか。やっぱり長老はなかなか強敵みたいだね」

長老エリーゼがいなければもっと被害は大きくなっていた。

カイルもエリーゼを警戒しており、真っ向から戦えば流石に無事では済まないと理解している。


「まあでもいい感じじゃないかな。素材に魔族を使ったのは正解だったよ」

下位の魔族を使ったキメラは想定より弱かったが人体錬成へと一歩近付いた。

ただやはりもっと品質のいい素材を使いたくなってきたカイルは当然エルフへと目をつけた。

彼らエルフの身体は全てに利用価値がある。


「人体錬成の技術は問題なさそうだし、後は素材だけだねぇ。やっぱり魔力に優れているエルフを捕まえるべきか……」

不穏な事を呟きながら今度は少し前にキメラに襲わせた集落を遠見の魔道具で覗く。

半分のエルフが死んでしまったのは勿体ないと感じたが、これも実験結果を見る為に仕方のない犠牲だとほんの少しだけ胸を痛める仕草をする。


「心苦しいねぇ。こんな私でも受け入れてくれてエルフの森に住むことを許可してくれたエルフを殺してしまうなんて」

口では申し訳なさそうな言葉がいくらでも出てくるが、内心は笑いが止まらない。

カイルにとってエルフも人間も魔族も全て研究の材料でしかないのだ。


「まあでも今回はいい収穫もあったし、よしとしようかな。それに無名君の成長も見られたし満足満足」

遠見の魔道具を懐に仕舞うとご機嫌に鼻歌を奏でながら足元の袋を持ち上げる。


白い袋は赤黒く染まり液体が滴り落ちていた。


「ふふふ、新鮮なエルフの心臓だ。何に使おうかなぁ」

カイルは微笑みを浮かべながら森の奥へと消えていった。

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