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第19話 危険はすぐそばに

エルフの集落から引っ越し。

といっても普通の引っ越しとは違い持っていく物など手で持てる程度だ。

引っ越す先の集落には既に先住しているエルフがおり、家財もほぼ揃っている。

貴重品である宝石やアクセサリーを持っていくだけなので大して苦労はしない。

護衛として付き添う無名は常に魔力探知の魔法を展開し、安全の確保に努めていた。


「無名、何も引っかかってはいないか?」

無名の横を歩くのはレインだ。

殿(しんがり)を任せられている二人の実力はこの中ではトップクラス。

先頭は当然マリアが任されているが一番後ろもまた危険には変わりない。


「今の所は何も。ただ警戒はしておいた方がいいでしょう」

「カイルがどう動くか分からんからな……」


実のところ無名はここ最近カイルのところへは顔を出していなかった。

というのもマリアの言葉に気持ちが揺らぎこのままカイルの下で学ぶのはよろしくないのではないかと思うようになってしまったからだ。

その為カイルの動向は一切分からなくなっていた。



「奴なら魔族に声を掛けてエルフを襲わせる、なんて事もやりかねん」

レインもカイルの事を信用していないらしく、悪感情を露わにした。


「ですがそれはカイルさんにとって益になるのでしょうか?」

「なるだろう。エルフは潜在的な魔力が多く質もいい。生贄にするにはもってこいの素材だ」


カイルが未だ妻を生き返らせるという野望を持っているのだとしたら、エルフを標的にする可能性が高い。

ただこれだけの実力者ばかりの集団を狙うにはいくらカイルといえども厳しい戦いを強いられる。


レインやマリア、それに長老も秘めた力を有している。

他にもレベル4と同等の力を持つエルフが多い。

レベル5と同等となると数人しかいないが、それでも十分過ぎる程だった。


「今はお前もいる。カイルであっても簡単にはいくまい」

「そうであったらいいんですが」

無名が警戒を緩めることはない。

カイルには絶対に勝てないだろうという確信めいたものが無名の頭に刻まれている。

マリアやレインがいてもそれはそう簡単に覆せるものではないだろう。


長老の実力が分かれば勝率も変わるかもしれないが、謎が多い人だ。


「ひたすら歩いていますが後どれくらいで着くんですか?」

「ああ、無名は知らなかったか。このペースなら後数時間といったところだな」

既にここまでで半日歩き続けている。

子供達は馬車に乗せているが大人は全員歩きだった。


「体力がそこまで持てばいいですが……」

この中で一番体力がないのは当然無名である。

日頃から自然の中で暮らしてきたエルフに比べれば、多少体力作りに精を出したところで敵うものではない。


「最悪疲れたら馬車に乗ればいい」

「いや流石にそれは……」

子供しか乗っていない馬車に乗るなど恥晒しもいいところである。

無名はレインの提案を即座に否定した。


「よし、ここらで休憩としよう。半刻で出発するから十分休息を取るように」

長老が手を挙げてみなの足を止める。

やっと休憩かと無名は近くの岩に腰掛けた。


「無名ー!」

疲れた様子の無名に走り寄ってきたのは一番最初に魔法を教えたエルフの女の子だった。

今では呼び捨てにしてくれる程懐いている。


「マイですか。どうしたんですか?」

「冷たいお水出してー!」

エルフの女の子、マイも水魔法は使えるが温度管理まで完璧に出来る訳ではなく、無名のようにキンキンに冷えた水を出現させる事はできない。


「いいですよ」

無名は掌をマイが手に持つコップに翳し魔法を唱えた。

冷蔵庫から取り出したばかりと思えるような冷えた水がコップに並々と注がれる。


「ありがとー!」

「え!俺も俺も!」

「マイだけずるい!」

「わ、私もお願いします!」

マイが冷たい水を注いでもらっているのを見てか次々に無名の周りへと子供達が集まってきた。

一人ずつ順番に注いでやると最後に申し訳なさそうな顔でミンフがやってきた。


「すみません無名さんもお疲れですのに」

「いいえ、構いませんよ。これくらいの魔力だったら大して消費しませんから」

水を数人分出す程度痛くも痒くもない無名は正直にそう話す。

無名はせっかくだからとミンフのコップにも入れてやると何度もお礼をされ満更でもない気分で少し疲れが癒された。



休息後また道なき道を歩く。

道中魔物と遭遇する事は何度かあったが、先頭にいるマリアが全て排除していたので無名やレインの出番はなかった。


「ここまで順調だと逆に怖いな」

「そうですね……何処かからずっと観察されているような気がして落ち着きません」

あまりに順調すぎて不気味に感じた無名は探知範囲を広げていた。

魔力消費は大きくなるが事前に接近を把握できておいたほうが安全だと判断した為だ。



いよいよ新たな集落も間近となった時、ふと無名の足が止まる。

レインもその様子に気づき同じように足を止めた。


「どうした」

「……何かが近付いてきます」

無名の魔力探知に引っ掛かるのは一定の魔力を持つ生物のみ。

徐々に距離を詰めてくるナニカは確実に一定の魔力を有した存在である事を示していた。


「どうする、俺達だけで対処できそうか?」

「恐らくは。ナニカは分かりませんが近付いてくるのは一体のみです」

「よし、ならそう伝えてくる」

レインが急いでエルフの集団へと声を掛けに行く。

無名は目を瞑り集中し敵の位置を正確に把握する。


(速さは……走っているのか。魔力量的にも魔族ではなさそうだ)


魔族の魔力量はハルファスで把握している無名は、近付いてくるモノが魔族ではないと分かっていた。

とはいえ油断は禁物。

エルフの森は強力な魔物が現れる。

魔物にもレベルはあるが、レベル5相当の魔物であればそれなりに凶悪である。



探知に集中している無名の耳にレインの声が聞こえてきた。


「よし、伝えてきたぞ」

レインは弓を構え周囲を警戒する。

マリア程ではなくともレインは十分信頼できる実力者だ。


「来ますッ!」

無名が声を上げると共に何処からともなく咆哮が耳を劈く。


オオオオオオオオオオォォォッッ!!


「チッ……想定していた中でも厄介な部類だぞ」

レインは咆哮で敵意を持って近付いてきたナニカを理解したらしく顔を顰めていた。

一方無名は声だけでは判断ができず未だナニカが分かってはいない。


「これは……」

いよいよ二人の前に姿を現したナニカは、四足歩行で高さは五メートルはあろう一本角の魔物であった。



「コイツは……エルフの森を住処とする凶悪な魔物、アウルベアだ」

「認定ランクは?」

「レベル5。紛うことなき強い魔物だぞ」


無名も戦闘態勢を取りレインも矢を番えた。

アウルベアは涎を垂らし目は真っ赤に光っている。


「おかしいな……奴の目が赤い」

「目が赤いというのはどういう現象ですか?」

「凶暴化した魔物に現れる症状だ。ネームドと呼ばれる魔物と同等の力を有する」

ネームドというワードも初めて聞いた無名はイマイチ脅威度が分からない。

そんな無名を察してかレインは話を続けた。


「つまりだな……奴はレベル6相当の魔物だということだ」

「それは……不味いですね」

流石に無名もレベル6と聞けば警戒度合いが跳ね上がる。

冒険者レベルが一つ違うだけでも力の差は歴然だからだ。


オオオオッッ!


「来るぞッ!避けろ無名!」

レインの言葉で我に返った無名は咄嗟に横へと跳ぶ。


二人の間をすり抜けるように突進したきたアウルベアの一本角が大木を貫きなぎ倒した。


レベル6と聞いた無名は半信半疑だったが、人間数人が両腕を広げてやっと手を繋げるかと言えるほどの太さを誇る木がいとも簡単に折れる様を見て、無名はアウルベアがレベル6に匹敵する強さだと認識した。

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