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第17話 疑惑と確信

カイルとの訓練も二ヶ月が過ぎた。

ここまでに無名はレッドカラーの冒険者を十人以上殺してきた。

このままカイルの下で指南を受け続けていれば技術が身に付くかもしれないが、人としての大事な心を失いそうに思えてきて、無名はマリアの下へと向かう事にした。



エルフの集落に戻ると、心なしかエルフの数が少なく感じた無名は不思議に思いながらもそのまま自宅へと戻る。


そう言えばマリアの自宅が何処にあるか聞いていなかった事を思い出し、長老の家に聞きに行くことにした。


無名が集落を彷徨いていれば当然人目につく。

エルフ達は無名をジロジロ見ていたが、気にせず長老の家へと向かった。



長老の家へと入ると丁度マリアも来ていたらしく二人が何やら話し込んでいる途中であった。


「む?久しいではないか勇者。どうした、こんな所に」

「少し相談したい事がありまして」

「ああ、カイルの事か?」

マリアは察したのか無名にも座るように促した。

空いている椅子に腰掛けると、無名は本題を話し出す。


「カイルさんの下で学ぶことはまだまだ沢山あります。ただ……」

「何を教わった?何を言われた?全て話してみよ」

無名はレイオールの死後から今までの経緯を全て話した。

話し終える頃には日も暮れていたが、マリアと長老はたまに相槌を打ちながらも黙って聞き続けた。



「――それで、このままカイルさんの下で学び続けるのは人として失ってはいけないナニカまで無くなってしまいそうでして」

「まあ、当然だな。分かっただろう、奴が普通ではない事くらい最初から言っていた筈だ」

「マリアさんの言っていた事が最初はあまり理解できていませんでしたが、今ではあの時に警告していてくれて助かったと思っています」

「ではお前はどうしたい?カイルが何の目的もなくお前に指南をつけてやる訳が無いし、何らかの目的があるのは明白。それが何かは分からんが」

カイルの戦闘技術は目を見張るものがあり、何としても自らのモノにしたいという思いが無名には少なからずある。

ただ、不気味なのは無名がカイルの望むレベルにまで成長した後だ。

魔族との繋がりも不明で、口では否定していたが明確な証拠はない。

だからこそ不審感というものが沸々と沸き上がる。



「とにかく、お前がここで踵を返したのは正解だったかもしれんぞ?」

「それはどういう――」

「カイルが魔族と繋がりを持つ事が確定した」

マリアの話によると、レイオールの死後ずっとカイルに監視をつけていたようで、そこで魔族との繋がりがあるという証拠を見つけたそうだ。


「その証拠というのは?」

「私も驚いたがな……設置型転移魔法陣というのを知っているか?」

無名は首を横に振る。

文字からだいたいは想像できるが見たことはない。


「奴が錬金術師というのは知っているだろう。そして魔法の技術にも明るい。おおよそ長年の月日をかけて編み出した魔法陣なのだろうな」

「そんなものを一体どこで……」

「エルフの森のある場所、としか言えん。目印となるものが自然しかないのだからな」

魔法陣が見つかり魔力の残滓からかなりの距離を移動する為の代物である事も分かったそうだ。

ただ起動するには膨大な魔力が必須になる。

流石に調査を任せていたエルフには荷が重いと、マリアが赴く事になり実際に転移魔法陣を起動させた。


転移魔法陣に登録されていた地点はマリアにも見たことが無い場所。

空気中に漂う魔力は濃密で、若干薄暗い景色。

一度も見たことは無いが話で聞いている魔国と似通った光景だった。


すぐにもう一度転移魔法陣で元の場所に戻り今に至るとの事だった。


「魔国と繋がっている魔法陣、これはもう動かぬ証拠だろう。我々エルフの集落はもう一つの隠された集落へと引っ越している最中なのだ」

「どうりで集落にいる人が少なくなっていると思いました」

もう一つの集落はまた別の場所にあるといい、そちらは今までに人間が訪れた歴史はないそうだ。


「お前はどうする?我々と共に連れて行ってやりたいが流石にこればかりは私の独断では決められない。といってもここにいる長老が良いと言えば可能だが」

無名とマリアは長老へと視線を送る。

長老は苦笑いを浮かべたが、小さく頷いた。


「別に構わんぞ。ただし、他のエルフにも認められなければならんがな」

「それはどうやってですか?」

「認められるような事をすればいい」

「それが分からないから聞いているのですが……」

「では分かりやすく教えてやろう。ここにまだ残っているエルフは三十人ほど。それら全てと言葉を交わしてくるといい」

たったそれだけかと無名は身構えていたのが馬鹿らしく感じてしまった。


「言っておくが……エルフは排他的だぞ。そう簡単にいくとは思わぬ事だ」

長老はニヤッと笑い、ネックレスを無名へと投げ渡す。


「それを身に着けておけ。集落でそれを着けていない者はのけ者にされるからな。では健闘を祈るぞ勇者殿」


無名はネックレスを着けると家を出た。


三十人ほどと聞いたが、目に付くエルフだけだと七、八人程度。

まずはそこから始めようと無名は三人で固まって喋っているエルフ達へと近付いた。


数メートルの距離まで近づくと無名に気付いた三人はそそくさと解散しその場から去って行った。


気を取り直し今度は二人組のエルフへと近づく。

しかしそれも一定の距離に迫ると無名に気づき散っていった。


(これは……大変かもしれないな)


長老が簡単ではないと言っていたのが分かった気がして、アクションを起こすにもベクトルを変えた方がよい気がして無名は策を練る事にした。


マリアから聞いた話によると、エルフは魔力を直接目で見ることができるという。

それを利用し逆に相手から興味を湧かせればよいのではないかと、無名は両手に小さな魔法陣を浮かべ自分の周囲に水玉をいくつか漂わせた。


その様子を見ていたのか、離れた所からエルフの子供が数人無名を黙って観察していた。


しばらく水玉を浮かせて遊んでいると、おずおずといった様子で一人の女の子が近付いてくる。

無名は警戒させないようできるだけ目線をそちらに向けずに水玉を自在に動かしながらもう少し近づくのを待つことにした。


いよいよ一メートルの距離に女の子が寄ってくると、ようやく無名はその子に話しかけることにした。


「君は魔法が好きですか?」

「……うん」

「水玉だけじゃなくてこんなのもありますよ」

無名は反応してくれた女の子が喜びそうな事をしようと、魚に形を変えて目の前で泳がせる。

魚がまるで生きているかのように泳ぐその姿を見て女の子は目を輝かせた。


「凄い……本当に水の中で泳いでるみたい」

「そうでしょう?この魔法は簡単です。君にもできますよ」

「……できるかな?私魔法があまり得意じゃないの」

女の子は悲しそうな顔を浮かべて俯く。

無名も焦ったのか目を彷徨わせ、言葉を選ぶ。


「できますよ。良ければ僕が教えましょうか?」

「……いいの?」

「もちろんです。まずは手に魔力を集めます」

女の子に分かりやすいよう丁寧に説明を続ける。


「手に魔力を集めたら目を瞑ってイメージするんです。魚が空を泳ぐ姿を」

集中しているのか女の子はグッと目を瞑って両手を胸の前に持ってくる。

小さな小さな魔法陣が女の子の両手に浮かび上がると、ゆっくりと陣が回り始めた。


「その調子です。そのまま魔法陣を維持したまま水が掌から溢れてくるイメージを浮かべて」

水滴程度の水玉が女の子の胸の前で出現すると、少しずつ大きくなっていく。


「最後に魚を思い浮かべてみましょう」

水玉はぐにゃぐにゃと形を変えて(いびつ)ながらも魚らしき姿へと変化した。


「できたっ!」

女の子が薄っすら目を開けると無名ほどではないが、魚のような水玉がフワリフワリと空中に浮かんでいた。


「できたよ!!」

「ええ、後は練習を重ねていずれは大きな魚を浮かべられるようになれば完成です」

満面の笑みで喜ぶ女の子を見て、無名は人に教えるのも悪くないなと思えるようになっていた。

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