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第15話 行方不明の勇者

グラシャラボラスがレブスフィア帝国へと戦争を仕掛けた。

この情報は瞬く間に各国へと広がっていった。

結果は散々たるもので、配下である五千人の魔族の殆どが死に絶えた。

生き残った魔族は数える程しかいなかった。



帝国の最高戦力は何も勇者だけではない。

アルトバイゼン王国には剣聖がいるように、レブスフィア帝国には賢者がいる。

それ以外にも優秀な戦力を保持している帝国は、人類陣営でも最大の国家であった。



「クックック、馬鹿者め。やはり返り討ちにあっているではないか」

ベリアルは当然の結果だと配下の魔族と笑い合う。

グラシャラボラスが死んだであろうことは明白であり、強硬派の力はベリアルの意図せずところで削られた。


「どうであったグラシャラボラスの最期は」

「ハッ。言わせて頂くとしたらとても気分の良い死に様でした」

片膝を突いてそう述べたのは穏健派の頭脳でもあるバエルと呼ばれる魔族だった。

バエルは知略に優れ主に作戦立案を任される事が多い。

今回グラシャラボラスを偵察しにいったのも今後の作戦に必要な情報が手に入るからである。


「それでどうだったのだ、帝国の勇者は」

「強いてあげるとすれば、公爵位魔族をも屠る事ができる力を保有しております」

「そんなものは知っている。グラシャラボラスが死んだのだからな。そうではなくお前から見て勇者の脅威度は如何程かと聞いている」

「そうですね……私が知る限り最強格の勇者かと」

バエルも長い時代を生き抜いてきた魔族だが、それでも帝国に召喚された二人の勇者は別格と言わざるを得ない力を持っていた。


「余とどちらが強い。正直に述べよ」

「私の見立てではまだベリアル様の方が強いかと。ただ、人間の成長速度は目を見張るものがあります」

「つまり、いずれは余を超える勇者に成り得るということか」

ベリアルは顔を顰める。

魔神が復活すればいよいよ魔国全土を上げて人間の領域に攻め込むつもりだがそれまでに矛を向けてくる可能性を危惧していた。

派閥が別れた状態で戦争が起きればどれだけ魔族が種族的に優れていても敗北する可能性が高いのだ。


「それともう一つ、気になる事があります」

「ほう?バエルが気になると言えば聞くのが怖いが……まあよい、申してみよ」

「ハッ。王国の勇者の件ですが、召喚された五人の内一人だけ行方の分からない勇者がおります」

「行方が分からない?どういう事だ。勇者は基本的に所在が分かるはずだぞ。既に何人もの魔族を各国に派遣している」

「そうなのですが、どうしても一人だけ分からないのです」

「行方の分からん脅威ほど恐ろしいものはない。何としても調べろ」

「ハッ」

ベリアルの下まで上がってこない情報。

無名の事だが、唯一無名の行方を知っている魔族はハルファスのみ。

裏切り者の魔族がいるかもしれないとベリアルはその場にいる魔族を睨みつける。


「分かっているな?余に報告を怠るのなら、それはただの怠惰ではない。明確な裏切り行為とみる。その場合は即処刑だと知れ」

「ベリアル様、王国の調査についてはフラウロス殿の担当ではないですか?彼が情報を握りつぶしている可能性はないでしょうか?」

声を上げたのはフラウロスにライバル意識を持つクロセルだった。

同じ公爵位であり、実力も拮抗しているクロセルは何としてもフラウロスを蹴落としたい。

穏健派でもそれなりの発言力を持つフラウロスを蹴落とせば自身の格が上がるのだ。


「だ、そうだがフラウロス、言い分はあるか?」

ベリアルはクロセルからの問いをそのままフラウロスへと投げた。

愚鈍な魔族を演じているフラウロスはベリアルと視線で言葉を交わし、ニヤッと笑う。


「カッカッカ!儂が魔王様に嘘を付いたと申すかクロセルよ」

「実際そうではないですかフラウロス殿。貴方こそ怠惰の象徴と言えるべき魔族です。仕事は全て右腕であるハルファスに丸投げでは、まともに仕事をこなしているかも怪しい」

「ほう?そこまで言うなら証拠の一つでも見せてみよクロセル」

「証拠など……貴殿の態度が物語っているではないか!」

クロセルが机を勢いよく叩きつけると周りの魔族もざわめき立つ。

魔王の前で感情を露わにしていい顔をしてもらえるはずがなく、ベリアルが静まるよう片手を上げて口を開いた。


「クロセル、落ち着け。フラウロスに対して思う所があるのは認めよう。しかし、証拠もなく弾劾するのは如何なものか」

「クッ……失礼しました。フラウロス殿、私は貴方がわざと情報を握り潰しているとしか思えない。だから……ベリアル様、私が王国の調査に名乗り出てもよろしいでしょうか」

フラウロスに何としてでも辛酸を嘗めさせてやりたかったクロセルはあろうことか他の魔族領の担当地域である王国に自分が行くと言いだした。


「あらあら〜それはどうなのかしらねぇ?ベリアル」

「アスモデウス、お前は黙っていてくれ」

「そう?でも他人の領域で身勝手な振る舞いはいくら公爵でも許される行為ではないわ」

クロセルの言いだした事は本来考えられぬものだった。

フラウロスの領土に足を踏み入れ、尚且つ担当している調査まで横取りしようというのだ。


「クロセル、儂は許可は出さんぞ?」

「何故!貴殿が裏切り者である証を見つけようと言うのだ!これで見つからなければ私は笑い者で貴方の汚名は晴れる。貴方にとっても不利益はないはずです、嘘をついていないのであれば、ですが」

「ふぅむ、まあ、良いか。許可してやろう小僧。ただし、勇者の所在を明らかにする際、万が一にも後れをとったとて儂は助けんぞ?」

「そんなもの必要ありませんよフラウロス殿。私はこれでも公爵級。勇者といえどたかが人間だというのをお忘れか?」

「カッカッカ!お前こそ忘れたか!そう言って逸る気持ちを抑えきれず返り討ちに合ったグラシャラボラスがなぁ!?」

フラウロスが手を叩いて大笑いすると、周りもクスクスと笑いが立ち込める。

気恥ずかしくなったのかクロセルは視線を落とし、拳を握りしめた。


クロセルも公爵級であり、実力はフラウロスに近しい。

欠点を挙げるとするならば、戦功を求めるがあまり視界が狭まるという点だった。



「だからお前はいつまでも儂より格が下なのだ!馬鹿者が!」

「もうよい!そこまでにせよフラウロス、クロセル」

流石に聞くに堪えないとベリアルが声を張り上げその場を取り仕切る。

フラウロスとクロセルの言い合いは今に始まった事ではない。

昔から何かと突っかかるクロセルを煽り、小馬鹿にするフラウロスという毎度の光景だった。


「クロセル、そこまで言うのならお前で所在が知れぬ勇者を見つけ出せ。フラウロス、これに関しては余が今決めた。後から愚痴をこぼすなよ」

「カッカッカ、当然で御座いますなベリアル様。儂は魔王様が決めた事なら何でも聞き届けますぞ」

「……感謝致しますベリアル様」




――結局クロセル陣営で勇者の捜索を行う事に取り決まったが、足取りが一切掴めない以上捜査は難航していた。


「クソッ!フラウロスのジジイめ!ヤツの手下から情報を掴む事が出来ればサッサと見つけ出せるのに!」

クロセルの苛立ちは物に当てられる。

彼の部屋は散乱し、ソファやテーブルも破壊され見るも無残な姿に成り果てていた。


「こうなれば……リンネの教会だったか?奴が人間組織を使ってコソコソと王国に根を張っているはず。その人間を捕まえて吐かせれば足取り程度は掴めるかもしれんな」

良いことを思いついたと言わんばかりの表情で、悪巧みを考えつく。

リンネの教会はフラウロスの手下、というよりかはフラウロス陣営に所属する末端組織のようなものだ。

それに手を出すという事はつまりフラウロスに喧嘩を売るのと同意。

クロセルの狭まった視界で物事を決めていく、そんな様を配下の魔族は黙って見ていた。

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