第14話 葛藤
カイルに指南を受け始めて一週間が経過した。
無名の飲み込みの早さは別格で、重りを着けた状態でもそれなりに動けるレベルにまで昇華していた。
「いいねぇ、惜しいよ。今のもう少し踏み込んだら掠ってたかもしれないね」
「……はぁ、はぁ」
息切れすると一旦休憩を挟みまた剣を振るう。
一週間毎日同じ事の繰り返しとはいえ、剣を振るう技量は着実に上がってきていた。
「これならそろそろ次の段階に入ってもいいね」
「次の段階、ですか?」
「そう。次は実戦訓練ってやつさ」
魔物と戦わされるのだとばかり思っていると、カイルから驚くべき発言が放たれる。
「対人訓練だよ。丁度この森の近くにレッドカラーの冒険者の集まりがあってね。このまま放置しておけばいずれエルフの森に立ち入るかもしれない。だから無名君には彼らを始末して貰おうと思うんだ」
「人を、殺せと?」
「ううん、人じゃないよ。社会のゴミさ」
「え?」
いきなりの暴言に無名は目を見開く。
カイルの口から出たとは思えない発言につい聞き返してしまう程に。
「え?じゃなくてね。冒険者の成れの果てを始末しようか」
「ま、待って下さい。僕に命の重みが何だと説いておいて今度は人殺しを助長する発言ですか?」
「あー駄目だね。無名君はまだこの世界の常識を知らないようだ」
カイルは語ってくれた。
この世界で暴漢に身をやつす者は人権がなくなり、どちらかと言えば魔物と同じ扱いだと説明を受けた無名は黙って話を聞き続ける。
「要は罪を犯した冒険者は討伐してこそ世界への貢献になるんだよ。犯罪者はこの世界ではただの賞金首って事だね」
「理解はできましたが納得はできませんね」
「そうかい?じゃあ逆に聞くけど君の家族を殺した冒険者を許せるかな?」
無名は少し考え込んだ後首を横に振る。
あまり両親にいい感情は抱いていないがそれでも肉親を殺されれば流石に仇は討ちたくなる。
「そうだろう?彼らが殺してきた人達にも家族や友人がいたんだ。だからそういった人達はギルドに依頼を出す。暴漢の殺害依頼をね」
「国が殺人を認めるというのも変な話ですね」
「まあ、君達のいた世界からじゃ考えられないだろうけど。とにかく、明日は実戦訓練だ。いいね?」
無名は頷くことしかできず、黙って首を縦に振る。
カイルの言葉に反発するつもりはない。
今は彼の言う通りに行動し力をつける時だと無理矢理自分を納得させていた。
――――――
無名がカイルからレッドカラーの冒険者を始末するよう伝えられていた時、マリアはエルフの長老と真剣な表情で会議を開いていた。
「エルフの森に入ったと思われる魔族だが、何者かの手引きによるものだ」
「ほう?どうしてそう思ったマリア」
「エルフの森には微弱だが多少なりとも神聖なる力が働いている。魔族にとっては気持ちが悪く感じ望んで入って来る者はいない」
「では誰が?」
「……カイルしかいないだろう」
マリアはやはりカイルの事が信用ならなかった。
ロイに頼んでカイルの跡を追わせたが、やはりある地点から忽然と痕跡を消していたと聞いている。
どうやってかは分からなかったマリアだが、おおよその想像はついていた。
「カイルは恐らく転移魔法を使える。でなければいきなり痕跡が消えるなど有り得ん」
「ふうむ。では状況証拠のみしかないという事だな?」
「ああ。奴はやはりエルフの森から追い出すべきだ。このままではあの勇者すら手籠めにされてしまうぞ」
あの勇者とは無名の事を言っているのだと察し、長老は目を瞑り少し考える素振りを見せた。
「あの勇者も少し歪んでいるだろう?歪みが大きくなったとて変わりはあるまいよ」
「無名がカイルのように魔族と結託しこの集落を攻めればひとたまりもないぞ」
「えらく心配しているじゃないかマリア。そんなにあの人間が気に入ったのかえ?」
当然のようにカイルが魔族と繋がりがあるかのように話すマリアをよそに長老はニヤニヤした顔つきで彼女に問い掛ける。
「アイツの魔力が気に入っただけだ」
「エルフは魔力の質に惹かれるものよ。ま、お前さんがあの勇者の手綱を握ってやれば話は早いと思うがなぁ?」
「色ボケババアめ。そういう話ではない。あの勇者を味方に引き入れた方が有益だと言っている」
長老の茶化しにイライラしたのかマリアは怒りを露わにして長老との会議を早々に切り上げ部屋から飛び出ていった。
「ふん……若いのもよいが、のめり込みすぎるなよマリア」
長老の呟きは誰も居なくなった広間に消えて溶けていった。
――――――
無名がカイルから指南を受け始めておよそ一か月。
王都ではある話で持ちきりになっていた。
「おい、聞いたか?魔族がレブスフィア帝国に攻め込んだらしいぞ」
「ああ、知ってるぜ。でも返り討ちにあったって話じゃねぇか」
「その返り討ちにされた魔族はどうなったのかしら?」
商人や平民達が道端で交わす会話はどれも同じようなものばかり。
もちろん貴族の中でも話題に上がるのは帝国の話だった。
「聞きましたか?どうやら帝国は攻めてきた魔族の軍勢を追い払ったそうですぞ?」
「ほう、やりよるではないか。やはり大国と言われるだけはあるな」
「私が聞いた話によると二人の勇者が獅子奮迅の活躍だったとか」
魔族に攻め込まれて無事で済むどころか返り討ちに出来たのは、二人の勇者のお陰であると噂になっていた。
当然この噂は四人の勇者の耳にも入った。
「レブスフィア帝国の話聞いたか?」
黒峰拓斗が三人を集め開口一番噂になっている話を持ち出した。
勇者パーティーではリーダーを務める彼は週に一度の頻度で他の勇者を集めて意見交換をしている。
「聞きましたよ〜。なんかぁ、召喚された勇者がバカほど強いらしいじゃないですか」
「俺達も負けてはいられない。明日から更に訓練の質を上げていこう」
黒峰の言葉には全肯定の三嶋茜だったが、この時ばかりは無言を返す。
誰も訓練が厳しくなるのを望んではいないのだ。
黒峰は負けず嫌いであり、更なる力を求めて訓練の質を上げたかった。
「でも今でもキツイのに耐えれねえっすよオレ」
弱音を吐くのは斎藤大輝。
金髪でチャラそうな見た目でありながら、案外真面目な所がある。
「もう義手にも慣れてきたでしょ」
呆れた表情で大輝の肩を小突くのは朝日莉奈だ。
真面目で大人しい彼女は大輝の同級生でもある。
リンネの教会からの襲撃により、片腕を失った大輝は義手を着けている。
まだ元通りというほど動かせはしないが、初めて取り付けた時にはそれはもう大喜びであった。
「大輝もそろそろ本格的に訓練に参加するんだ。今や一番弱い勇者だなんて巷で言われているぞ」
「ええー!?マジっすか!?クソッー!じゃあやってやるっすよ!」
煽られればすぐに乗ってくる彼の扱いはとても簡単だった。
黒峰は剣帝の勇者としてメキメキと力をつけてきており、莉奈も最優の勇者に相応しい回復魔法を行使できるまでに成長している。
あまり成長が見られないのは茜と大輝だ。
大輝はリハビリもあってかあまり訓練には参加できていない。
しかし茜は飽き性なのかちょろっと訓練に参加するだけして後は空を飛び回りサボっている。
「茜もそろそろ真剣に取り組め。いつ魔族が攻めてきてもおかしくはないんだぞ」
「分かってますけど〜、アタシって空を飛ぶだけの勇者ですよ?正直一番外れな気がしてるんですよね〜」
茜は椅子にもたれ掛かり気怠そうに足をブラブラさせながら、自身に与えられた能力の愚痴をこぼす。
「空の勇者だって強みはあるだろ。例えば空中から特大魔法を放つとか」
「言っときますけど空飛ぶのも結構魔力使うんですよ?そんなアタシにもっと魔力を使わせるんですか?」
「それは分かるが……」
「というか黒峰さんって熱血すぎじゃないですか?真面目すぎっていうか。もっと気楽にやりましょうよー!せっかく異世界に来れたんですし!毎日毎日訓練訓練訓練!こんなのアイドルやってた時と変わんないですよ!てか大輝だってさ――」
茜はよくも悪くも気分屋である。
結局、茜の愚痴は朝まで続いたのだった。
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