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第13話 穏健派と強硬派

魔国の中でも一番人間の国に近い地域を治める魔族は、魔王から送られてきた手紙を破り捨てた。


「何を考えている!あの臆病者め!」

手紙には魔神が復活するまでは勝手な行動を慎むように書かれていた。


魔国といえども一枚岩ではない。

魔神の命令が下るまでは他国を攻めるべきではないという穏健派と過去の勇者に封印された魔神の言葉など無視して今すぐにでも人間が治める国を滅ぼすべきだという強硬派がいる。


苛立ちを露わにして憤慨する伯爵級魔族グラシャラボラスは当然強硬派であった。


「魔王は何を考えているのだ!!今こそ勇者どもを抹殺するべきだろう!?」

「グラシャラボラス様、こういうのはいかがですか?魔王のような臆病者は置いておいて我々だけで制圧するというのは」

憤慨するグラシャラボラスに助言するのは彼の側近であるカイムと呼ばれる魔族だった。

カイムの口のうまさとゴマすりは魔国でもトップクラス。

グラシャラボラスも彼の助言はしっかり聞く耳を持っていた。


「貴方様の方がよほど魔王に向いているかと。ここで戦果を上げゆくゆくは魔王の座を奪い取るというのも一興ではないでしょうか?」

「ほう……カイム、おだてても何も出んぞ」

「ええ、ええもちろんです。私めに褒美を出すなどもったいない!そのお金を少しでも戦力増加に使いましょう」

カイムが両手をすり合わせながらグラシャラボラスを持ち上げる様は、この屋敷ではよく見られる光景である。


「そうと決まればまずはどこを攻めるか。カイム、何か案を出せ」

「はい、それでは帝国はいかがでしょうか?噂によると王国は勇者が五人、帝国は二人と聞いております。流石に五人もの勇者を相手取るには戦力が乏しいでしょう」

「ふむ、しかしレブスフィア帝国は人間が治める国では一番の大国であろう」

「それでも所詮は人間……我々魔族と比べる事すら烏滸がましいかと」

「カッカッカ!確かにそれもそうだ!ではカイム!戦争の準備をせよ!」

グラシャラボラスは高らかに笑い帝国へと攻める準備へと取り掛かることにした。

帝国に召喚された勇者は規格外だという事を知らずに。




――――――

「何?グラシャラボラスが戦争の準備をしているだと?」

斥候の魔族から聞かされた話に、フラウロス公爵は眉をひそめる。

穏健派であるフラウロスにしてみれば信じられない行為であり、難色を示すのは当然であった。


「チッ……奴め、功績欲しさに焦ったか?それとも魔王の座を奪うつもりか……」

「始末しますか?」

「馬鹿め。奴はお前程度の魔族でどうにかなる魔族ではないわ。無駄に力を持っておるからな……」

「ではハルファス様に出て頂くというのは?」

「ならんぞ。奴は儂の右腕、無駄に死なせはせん」


グラシャラボラスは実力だけでいえば、公爵位に相応しい力を持っている。

始末するとなれば同格以上、少なくとも伯爵級をぶつけなければならない。

ハルファスは伯爵級の中でもトップクラスに君臨する力があるが、それでも公爵級との差は大きい。


「奴が動くとなれば他が黙っておらんぞ……儂は一旦魔王様の所にいく。ハルファスが戻れば代理を任せると儂が言っていたと伝えておけ」

フラウロスはそれだけ言い残し、転移魔法でその場から姿を消した。

ハルファスからの評価は愚鈍で考えが甘い、だったがフラウロスは決して馬鹿ではない。

穏健派の中でも中核であるフラウロスは大局を見れる程度の頭はある。




魔王の元へと参上したフラウロスは謁見の間で膝を突く。

「フラウロス、此度は何用だ」

魔王の重々しい声を耳にしゆっくりと顔を上げる。


「ベリアル様、儂の手下が仕入れた情報ですが――」

フラウロスはグラシャラボラスが反旗を翻した旨を簡潔に伝えた。

黙って聞くベリアルの圧は少しずつ重くなっていく。


やがてフラウロスの言葉が途切れるとベリアルは口を開いた。


「グラシャラボラス……強硬派が動いたか。それも帝国に攻め入るだと?ククク、笑わせてくれる」

「儂も正直結果は見えておりますが、まあこれで強硬派の戦力は削れるでしょう」

「いっその事共倒れしてくれれば楽なのだがな」

ベリアルは既に帝国の情報を仕入れていた。

曰く、帝国に召喚された今代の勇者は規格外であると。

元の世界でも英雄と名高い人物を二人も召喚しており、魔王であるベリアルも容易に攻め入るのは得策ではないと考えていた。

そんな時にグラシャラボラスの反旗だ。

帝国の勇者がいかほどのものなのか、知れるいい機会になると笑いが止まらなかった。


「ただ、奴が動くとなれば恐らく他の強硬派も動く恐れがあるかもやしれません」

「そっちには余の配下を監視に付ける。お前は今まで通り愚鈍な魔族を演じておれ」

フラウロスは広大な地を治める魔族な為無闇には動かせない。

そこで白羽の矢が立ったのはまた別の魔族であった。


「ちなみにその配下の名を聞いてもよろしいので?」

「ダンタリオン公爵を使う」

その名を聞きフラウロスは愉快そうに笑う。

ダンタリオンは顔を変える特殊な魔術を得意としており、身バレすると不味い作戦では必ず動いているような魔族だった。


「彼ですか、なるほどなるほど。確かに彼ほど適任者はおりませんな」

「うむ。さて、帝国の勇者と一戦交えて無事に帰ってこられるのか……楽しみで仕方がない」

二人は束の間の談笑を楽しみ、フラウロスは魔王城を後にした。



魔国の中心地には魔王城がある。

魔王ベリアルの居城であり、魔神の封印が施されている場所。

穏健派の中心的存在がベリアルであり、現在の魔国を支配しているのは彼らだ。


強硬派にも強大な力を持つ魔族もいるが、総数でいえば穏健派の方が多い。


「勇者……か。四百年前が懐かしいものだ……」

ベリアルは過去を思い出し、顔を顰めた。


百年単位で召喚される勇者により、魔族と他の種族は一進一退を続けている。

魔神が封印されたのは四百年前だ。

特に勇者の力が突出していたその時代は全魔族のうち半分の命が失われた。


勇者の陣営も多大な被害を被ったが、被害の規模でいえば魔国は大敗している。

魔王ですら足元にも及ばない魔神を封印するところまでいったのは前にも後にもその時代だけ。


今でも腹が煮えくり返る思いだが、下手に人間の国に手を出せばその時のように返り討ちに合ってもおかしくはない。

だからこそベリアルは穏健派という派閥を立ち上げ、魔神の復活までは大規模な戦いを挑むのを辞めるべきと唱えた。


当然反発はあった。

グラシャラボラスのように強硬派と呼ばれる派閥が生まれ、ベリアルら穏健派に反旗を翻したのだ。


同族で争うのはそう珍しい事ではない。

とはいえ今は力を溜める時だと考えたベリアルは全戦力をもって強硬派のリーダーであったバラムを亡き者にした。


それ以降鳴りを潜めていた筈の強硬派が今になって動き出したというのがベリアルはどうにも引っ掛かっていた。


「まさかバラムが復活したのか……?いや、それは有り得ん。奴の魂は完全に消滅させた筈。しかし……」

頭を悩ませるベリアルの下に一人の魔族が近寄ってきた。


「何してるのかしら?魔王が考え事?」

「む、アスモデウスか」

魔王アスモデウス。

事実上今はベリアルが魔国の王となっているが、本来は四大魔王が魔国を支配していた。

その中で自ら王の座を降り、ベリアルの側近となった彼女は穏健派の中核である。



「いや、あのバラムが復活したのかと思ってな」

「そんな訳ないじゃないの。あの時ワタクシも一緒にバラムの魂を消滅させたのよ?あれで復活できるなんて本物の化け物よ」

アスモデウスの言葉は最もだ。

しかしどうしても引っ掛かるベリアルはいつまでも考える仕草でテラスから広大な魔界を眺めていた。

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