第9話 連携
カイルとの二戦目を終えた無名とレイオールはログハウスへと戻って来ていた。
上級回復薬のおかげか身体は軽く、さっきまでの戦闘が嘘みたいな感覚だった。
「カイルさんの強さには驚かされますね……」
「……ああ。もっと策を練らねばならんな」
二対一だというのに傷一つつけられない事に焦りを感じている二人は今度こそ一撃入れてやるという意気で策を練り始めた。
出会ってからまだ数日しか経っていないが意気投合したお陰で友人のように接する事が出来ていた。
「レイオール、二方向から火属性魔法で牽制する事は可能ですか?」
「……問題ない。まずは逃げ場を塞ぐという事だな?」
「そうです。残りの二方向ですが、一つは僕が壁を出現させて塞ぎ残った一方向から全力で魔法を放ちます」
「……避ける隙間がなければ正面突破するしかないな。しかし、カイルは剣術も遥か高みいるぞ」
「大丈夫です。確かに剣術では負けますが僕に秘策があります」
秘策という言葉にレイオールは興味津々といった様子で耳を傾けた。
「転移魔法、存在ぐらいは知っていますよね?」
「……まさか無名、使えるのか?」
「まあ短距離でかつ膨大な魔力を消費しますが」
正面突破しかないと思わせカイルに飛び込んで来るのを誘導しながら、無名は転移でカイルの背後を取る。
そして不意を突くという秘策だった。
「……それなら一撃くらい入れられそうだ」
「そうでしょう?さあ明日に備えて寝ることにしましょう」
無名とレイオールは次の戦いを楽しみにしながら、就寝した。
夜が明け、昨夜の続きをおさらいしながら二人はお互いの位置や動きを確認する。
万全の態勢だった。
今回が三度目の正直であり流石にここで結果を出せなければカイルに見限られてしまうだろう。
「……無名、もう少し接近してから転移魔法を行使した方がカイルの不意を突ける」
「なるほど、ではもう一度」
何度も何度も不意を突く為に同じ動きを繰り返す。
やがて日は暮れていき、いつもの場所へと二人で赴く。
若干違和感を覚えたのかレイオールが立ち止まり辺りを見回した。
「ん?どうかしましたか?」
「……いや、気のせいか?森が騒がしい、気がする」
エルフの勘は侮れない。
精霊に愛される種族ということもあり、自然においての第六感は無視できないものであった。
「探知魔法を使います」
無名は両手を広げ目を瞑る。
異常が見つかればレイオールに報告するつもりであったが、何も引っ掛からず不発に終わった。
「……やはり気の所為だったのか」
「どんな感覚でしたか?」
「……異物が体内に入り込んだような、そんな感覚だった」
レイオールは不思議そうな顔で周囲を観察していたが、無名の探知魔法にも引っ掛からないとなると打つ手はない。
二人は胸に突っ掛かりが残ったままいつもの場所へと到着した。
「やぁ、二日ぶりだね」
カイルの様子は何ら変化はない。
変わったのは無名とレイオールの心構えだけだ。
「今日は場所を変えたいと思うんだけどいいかな?」
「ここでやらないんですか?」
カイルから告げられた言葉に無名とレイオールは顔を見合わせた。
やはり三度目の正直ともなると場所も変えて新たな気持ちで挑めという事だろうかと考え二人は頷いた。
カイルに着いていく事十分。
エルフの森でもかなり集落から離れた開けた場所へと到着した。
「ここでやろうと思うんだけど、どうかな?」
「ここなら広さも十分ありますし問題ないと思います」
レイオールも頷き無名はそう言葉を返した。
カイルと距離を取りいよいよ戦闘が始まると思ったその時、レイオールが何かに気づき空を見上げた。
「……無名、何か来るぞ!」
「え?」
カイルとの戦いに向けて頭の中ではシミュレーションしていた無名はレイオールの言葉に呆けた返事をする。
無名が空を見上げると特大の火の玉がカイルに向かって勢い良く飛んできた。
「うわっ!」
カイルの驚いたような声と共に火の玉は地面に到達するやいなや大爆発を起こした。
「カイルさん!」
呆気にとられた無名だったが、すぐに駆け寄ろうとすると空から聞き覚えのない男の声が降り注ぐ。
「お前が勇者か?」
声に反応した無名が空を見上げるとそこには翼の生えた魔族がこちらを見下ろしていた。
異様な雰囲気を纏っており、邪悪な気配も感じる。
明らかに敵意がある魔族に無名は反射的に手を翳す。
「白亜の雷槍」
一直線に放たれた雷槍を魔族は忌々しそうに手で払うとあらぬ方向へと曲がり飛んでいった。
「ふん、この程度の児戯……私に通用すると思うたか」
カイルの安否も気になるがコイツから目を背けてはならない、そう感じた無名は更に魔法を連発する。
「白亜の雷槍、赤色の炎槍」
「属性が変わった所で意味はない!」
魔族が大きく手を真横に振るい無名の魔法を逸らす。
「……烈風の弾丸!」
レイオールも追撃と言わんばかりに風の弾丸を連射する。
「無駄だ」
今度は何もせず空中で手を組んだまま自身の周りを紫色のオーラで包みこんだ。
レイオールの魔法がそれに触れると何事もなかったかのように霧散した。
「……何者だ。ここはエルフの森だぞ」
「知っている。だからどうした」
エルフの森には邪悪な存在は入ってこれない。
レイオールは集落から距離が遠ざかれば高位魔族なら入って来れる事を知らなかった。
「そんな事よりお前が勇者だな?」
魔族の男はレイオールに興味を失ったのか無名へと視線を戻した。
「勇者だったら、どうするんですか?」
「無論殺すまで」
「ということは、魔国が攻めてきたという認識で合っていますか」
「いいや、これは独断に過ぎん」
無名は冷静に相手の情報を得ようと質問を投げ続けた。
「では貴方の立場は?」
「それを知った所でお前はここで死ぬ」
「死ぬ前に教えてくれても良いでしょう?」
「……まあいい。私はハルファス。伯爵級魔族だ」
爵位を持つ魔族は総じて強い。
それは無名の頭の中にも残っている常識であった。
カイルにすら一撃入れられない二人ではどう足掻いても勝てる相手ではない。
冷たいものが無名の背中を流れた。
「ハルファス、貴方はどうして勇者を殺すのですか?」
「決まっている。お前達勇者は魔神をも殺せる力を有すると聞く。しかし召喚されて間もない頃であればまだ脅威ではない。だから私が芽を摘むために来たのだ」
ハルファスの殺意は高かった。
背中を少しでも見せれば即座に攻撃行動に移るだろう。
無名は考えを巡らせ一瞬だけレイオールへと視線を送った。
レイオールもそれに気付いたのか小さくハルファスに気づかれない程度に頷く。
対カイル用に考えていた作戦をハルファスに使う。
無名はそれをレイオールに視線だけで伝えた。
逃げる事はできない。
カイルの安否次第だが少しでも時間を稼げば彼が助けてくれるかもしれない。
そんな淡い希望の元無名とレイオールは戦う覚悟を決めた。
「何を考えているのか知らんが無駄な抵抗はよせ」
「何も考えていませんよ。ただ伯爵級魔族というのがどれ程の力を持つのか、気になっただけです」
今の無名の魔力量は爵位級に匹敵する。
フランからもそう言われていたが技術という面では圧倒的に劣るだろう。
魔力量は互角。
ただし経験値は雲泥の差。
後は二対一という状況を上手く活かせるかどうかにかかっていた。
「レイオール!」
「……任せろ、風絶の壁!」
無名が叫ぶと同時にレイオールが魔法を発動した。
ハルファスの左右に暴風吹き荒れる壁が出現し逃げ場を減らした。
「行きます!」
今度は無名が足に強化魔法を掛けると、一気に跳び上がった。
ハルファスは迫りくる無名を面倒くさそうに見つめ片手を彼へと向ける。
「直線的な行動は死を早めるぞ」
「いいえ、それは貴方の方ですよ空間転移!」
勇者が視界から瞬時に消えるとハルファスは目を見開き固まる。
そんなハルファスの背後には今先ほど転移した無名が剣を振り下ろそうとする姿があった。
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