第6話 仲間意識
レイオールの別荘は森の中に突然現れた。
木々に囲まれ目立たないような立地で、できるだけ他のエルフから見られないような奥地に建てられていた。
全て木材で建築されており、ログハウスと呼ばれる家だそうだ。
「結構立派な家ですね」
「……滅多に使わないから埃を被っている」
レイオールの言う通りログハウスの中は埃まみれで咳き込む程だった。
まずは掃除から必要だなと無名は腕まくりをする。
「本当に使っても良いのですか?」
「……構わん。俺も消火活動で活躍させてくれたから」
「ありがとうございます、助かります」
掃除は必須だが、寝床を提供してくれたのは純粋にありがたくレイオールに礼を述べた。
レイオールも手伝ってくれるようで二人がかりで掃除する事数時間。
ピカピカに磨かれた椅子に腰掛け一息つく。
無名はこの世界にきて初めて気を許せるような仲間を見つけたと少し嬉しく感じていた。
「レイオールさんはいつも一人で行動しているんですか?」
「……敬称は不要。そうだ、一人で動いている」
「分かりましたレイオール。一人だと困る事とかあったりしますか?」
「……困る事か。あまりない。……ただ、誰にも頼る事ができないのが辛い」
レイオールは無口な性格もあって集落内では浮いている。
当然仲の良い友人などもおらず、常に一人だった。
一人で居ることは悪いことではない。
しかし、一人では解決できない壁にぶち当たる事もあった。
そんな時に頼れる友人がいればと何度も思ったのは言うまでもない。
「頼る……ですか。僕も誰かに頼った事は殆どありませんね」
「……仲間だな無名」
レイオールと無名はお互いに仲間意識が芽生え始めていた。
無名が心を開くのも時間の問題であった。
「……そういえば無名。お前は勇者、というものなのか?」
どこから聞いたのかレイオールに問いかけられ無名は少しだけ口を閉ざす。
しかしすぐに口を開いた。
「はい、万能の勇者としてアルトバイゼン王国に召喚されました」
「……どうりで。人間とは思えぬ魔力量だと思った」
レイオールも他の人間はほぼ見たことがないが、人間は魔力量で劣るというのはエルフの常識だった。
それを覆す程の魔力量を持つ無名は恐らく勇者にではないかと疑問に思っていたのだ。
「……なぜこの集落にきた」
「話すと長くなりますが――」
フランによって転移させられた経緯を掻い摘んで話すとレイオールは黙って聞いていた。
やがて無名の話が終わると徐ろにレイオールが口を開く。
「……命の重みを理解するのならエルフの集落ほど適した場所はない」
「やはりそうなんですね。ああ、そういえば話は変わりますがカイルさんから与えられた課題がクリアできなくて。カイルさんというのは――」
また無名が長々と話をする。
それをレイオールが黙って聞くという流れが出来上がる。
「……あの常軌を逸脱した錬金術師か」
「知っていましたか」
「……知っている。もう何年も前からエルフの集落に住み着いた変わり者だ」
カイルは人間でありながら錬金術の深淵を覗こうとした変わり者。
それがエルフの中でのカイルの評価だった。
「……アイツの片腕が無いのは戦闘などで失ったのではなく錬金術の秘奥を試した結果だそうだ」
「そうなんですか。片腕を失う程の秘奥……どんなものか興味が湧きますね」
「……知らない方が良いこともある。ちなみに俺も知らん」
そんなカイルに師事してみたい。
一体どのような戦闘技術を学べるのだろうかと無名はワクワクした気持ちになったが、課題をクリアできなかった事を思い出しまた落ち込む。
「……課題か。多分正解はない、のが正解ではないか?」
「正解がないのが正解?」
「……そうだ。他者か自分かを選べという選択肢。俺なら他のエルフに力を貸してもらい苦難を乗り越える道を選ぶ」
レイオールの言葉にハッとした無名は今までそんな選択肢が思いつかなかった事を悔やむ。
カイルは言った。
自分が戦えば王国を救えるが命を落とす。
しかし逃げれば命は助かるが王国は滅ぶと。
ならば協力者を募り戦いに挑めば良いではないか。
自分一人でできる事などしれている。
カイルはそれを言いたかったのではないかと思うと無名の胸のつっかえが取れたような気がして幾分かスッキリとした。
「ありがとうございますレイオール。もう一度カイルさんに出会ったらその答えを伝えてみます」
「……彼の望む結果かは分からないが恐らく合っている、と思う」
今まで全て己の力で解決してきたのだ。
誰かに手を貸してもらうという考えには至らず、それをカイルは指摘していた。
無名は日本に居た時から大抵の事は短い期間で習得し人より優れた結果を残してきた。
そのせいで誰かに手を貸してもらうという発想が出てこなかった。
幸か不幸かレイオールと出会い意気投合した事により無名は一つ人として成長できた。
普通の者なら真っ先に近しい知人に相談するところを無名にはそれに該当する人物がいなかった。
レイオールは無名にとって大切な友人と言える程度には仲を深めていた。
「……そのカイルはどこで会える」
「恐らくいつもの時間にいつもの場所かと。日が落ちたら行ってみます」
「……俺も行こう」
「レイオールもですか?」
「……ああ。俺もカイルと話してみたい」
レイオールも無名と仲を深めたお陰で一つ成長していた。
無口であまり自分の意見を口にしない彼が、自分から話してみたいというのも今までであればなかっただろう。
その後も他愛もない会話を繰り広げ夜は更けていった。
夜も深まり湖のほとりへと無名とレイオールが赴くと、剣を一本持ち湖を眺めるカイルがいた。
「待ってたよ無名君。それとレイオール」
「気付いていたんですか?」
無名とレイオールはゆっくり足音を立てずに近付いたつもりだったが、既に気配を読まれておりカイルは背中越しに声を掛けた。
「さて、答えを聞かせてもらおうか。ああ、先に言っておくけど、これは最後のチャンスだからね。慎重に答える事をオススメするよ」
振り向いたカイルは表情こそ柔らかかったが目は笑っていなかった。
無名とレイオールは顔を見合わせ、一歩踏み出す。
意を決して無名が口を開いた。
「僕一人で勝てないなら他者に手を貸してもらいます」
「なるほどなるほど、例えば?」
無名は隣にいるエルフに視線を移す。
「レイオールに手を借ります」
レイオールも無言で頷いた。
数秒黙ったままのカイルはニコッと微笑むと無名とレイオールへと近付いた。
「いいね、私の求めていた答えだよ」
合っていたのだと無名とレイオールは胸を撫で下ろす。
「他者に協力を求める。大事な事だよね。でも今まで無名君は自分の力で解決する事ばかりに意識が向いていたんだ。それだと本当に救いたい人を救えないんだよ」
カイルの言葉には重みがあった。
まるで自分の事のように。
「よし、じゃあ一つ目の課題はクリアだね」
「一つ目?あの、どういう意味でしょうか?」
師事するには条件があると言われていた無名は困惑した表情で問いかける。
その条件が二つだとは聞いていなかったのだ。
「言ってなかったね。二つ目の条件は一つ目の答えをもって私にかすり傷の一つでも負わせること。それができなければ私は君に指導してあげるわけにはいかないなぁ」
「……なかなか意地悪な条件ですね」
想定していなかった二つ目の条件を聞かされ、無名は苛立ちを覚えた。
しかしここで感情に任せて動けば一生指南を受ける事は叶わないだろう。
「さ、やろうか。そっちは二人、私は一人。すぐに終わりそうだね」
カイルは剣を構えると不敵に笑った。
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