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第5話 ボヤ騒ぎ

エルフの森が燃えている。

誰が火を放ったか分からないが、ほんの数時間前まで静かな鳥のさえずりが木霊する森だった。

しかし今は至る所で煙が上がり、エルフ総出で鎮火活動を行っている。


「水魔法を使える奴はこっちに来てくれ!」

「バケツで水を汲んできたわ!この辺りは私達で消化する!」

「熱い熱い熱い!何だってこんな事になってるんだ!」

「子供達は集落から外に出すなよ!」


無名は自宅で目が覚め、窓から阿鼻叫喚のエルフ達を見て何が起きているのか分からず困惑する。


煙の上がり方から見て森が燃えているのは理解したが、火の気などなかった所に煙が上がるなど有り得ないとこの状況を作為的なものだと予想していた。


外に出るとエルフが集落を走り回り右往左往している様が目に入った。

その中でも一際冷静な雰囲気で佇んでいるエルフに近づくと声を掛ける。


「すみません、何があったのですか?」

エルフは突然人間に声を掛けられたからかビクッと驚き無名をジロジロと見る。


「……何だ人間?」

「あの、この騒ぎは一体?」

「……森が燃えている」

「誰かが火を放ったという事でしょうか?」

「……知らん」

必要最低限しか喋らないエルフはそれだけ言うと何処かへと足を進める。

無名も彼に着いていく事にした。


「……なぜ付いてくる」

「消火活動をするんですよね?僕も手伝おうかと」

「……俺は……水魔法が使えん」

「では何をするつもりですか?」

「……役立たずのエルフは必要ないそうだ」

要約すると水魔法の使えないエルフが居たところで邪魔にしかならないとの理由で消火活動に参加させて貰えないそうだ。

手持ち無沙汰な無名と同じ境遇である彼はやる事もなくただボーっと右往左往する他のエルフを眺めていたらしい。


「僕が水魔法を使えます。消火する場所まで案内してもらえますか?」

「……こっちだ」

エルフはやっと役割ができたと少しだけ口角が上がり、無名を案内する事にした。



現地に到着すると燃え広がる火の勢いは激しく、かなりの範囲が燃えていた。


「……ここら一帯が消火範囲だろう」

「分かりました。あちら側は人手が足りていそうなのでこの辺りを僕らで消火していきましょう」

「……俺は水魔法を使えないと言った」

「分かっています。風魔法は使えますか?」

無名の考えは、まず自分が大量の水を生み出しそれを風魔法で拡散させ雨のように上空から一気に消火しようというものであった。

無名のやろうとしている事が分かったのかエルフは強く頷く。



「では僕が大きめの水球を沢山作ります。それを風で上空へと運んで頂けますか?」

「……分かった」

無名が頭上に複数の水球を生み出すとエルフが風魔法で上空へと運んでいく。

無数の水球が上空に浮かぶと無名が指を弾いた。


それを皮切りに上空の水球は全て弾け、雨のように水が降り注ぐ。

鎮火するにもそれなりの水量が必要となるが、弾けた水球の数は五十を超えその一つ一つが人間を包み込める程の大きさがあった。


「な、何が起きたの!?」

「うおおおお!雨か!?雨なのか!?」

「火が消えていくわ!」

無名とエルフの魔法により火はみるみると鎮火していく。

魔法の範囲はかなり広く燃え広がっていた大部分が鎮火した。


「……俺も役に立てた」

「ええ、そうですね。貴方の風魔法があったからここまで一気に消火できました」

自分に自身がなかった彼は少しばかり顔が綻ぶ。

恐らくエルフの集落で初めて役に立ったのだろうと無名も彼を持ち上げておいた。


「ん?そこにいるのはレイオールではないか」

騒ぎが収まると消火活動に参加していた一人のエルフが無名の横にいるエルフを見つけ驚いた表情を浮かべる。


レイオールと呼ばれたエルフは無名の斜め後ろに下がると顔を背けた。


「役立たずのレイオールがなんでこんな所にいるんだ?それよりもそこの男、お前人間だろう。何をしている」

「こちらのエルフの方と消火活動に参加していました」

「レイオールと?そいつは風魔法と火魔法しか使えない役立たずだぞ?どちらの魔法も加減できないせいで訓練にも参加できやしない」

レイオールはニ属性の魔法しか扱えず、尚且つ魔法の威力が高すぎて他のエルフ達と訓練にも参加できたためしがなかった。


単純に魔力が多すぎて微調整ができないというだけなのだが、魔法使いとしてなら優秀な部類である。


「彼の魔法があったから雨のように水を降らす事ができたんです」

「風魔法を使ったってことか?……人間にしてはやるではないか」

エルフの魔力は人間より遥かに多く質も高い。

それ故に自然と人間を見下してしまう事が多く、無名の事も若干見下した目で見ていた。


「とにかく、礼は言おう。我々だけでは手が足りなかったからな」

「それなんですが、エルフの方々は総じて魔力が多いと聞きました。消火するには十分だったと思いますがなぜ手が足りなかったのですか?」

無名は不思議に思っていた。

エルフの魔力、魔法技術があれば消火などすぐにできた筈だと。

ただ、一つだけ見落としていた事があった。


「我々エルフは確かに魔法技術に長けていて魔力も多い。しかしな……悲しい事に数が少ないんだ」

「なるほど、それで人手不足という事だったんですね」



消火活動に参加していたエルフの数は二十人ほど。

無駄に広く大きな森に広がっていく火を消すにはあまりにも人手が足りなかった。

そこに参加したのがレイオールと無名だった。


レイオールは魔力量こそ多いが水魔法は使えない。

無名はそもそも協調性がなく、複数人で事に当たるというのは苦手であった。

しかし、今回ばかりは多少なりとも手は貸した方がいいだろうとレイオールと協力し消火活動に参加した。

それが功を成し無事被害は最小で抑えることができたのだ。



「む、お前達は」

レイオールに絡んできたエルフと会話していると無名の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「レイオールではないか、珍しいなお前がこんな所にいるとは」

声の主はマリアだった。

無名を一瞥した後側に居たレイオールに視線を向けると先程のエルフと同じような事を言う。

やはりレイオールが集落の外に居るのが珍しいのか、マリアも相当驚いた顔をしていた。



「レイオール、お前も消火活動に参加していたのか」

「……ああ」

「珍しい事もあったものだ。それもそこの人間に感化されたか?」

「……分からん」

レイオールの有用性を見つけた無名は彼にとっての恩人になっただろう。


「無名だったか。お前にも感謝しておこう」

「いえ、それは構いませんが原因は分かったんですか?」

「まだだ。だが少なくとも自然発火とは考えにくい。何者かが火を放ったのだろうな」

マリアも無名と同じく作為的な何かを感じ取っていた。


「エルフの森を焼くなど罰当たりにも程がある。恐らくエルフの仕業ではない」

「言っておきますが僕もやってませんよ。煙が上がっていたのも家から見て気付いたので」

「私は別にお前を疑ってはおらん。だが他のエルフはどうか分からんがな」

マリアが言うには一番怪しまれているのは無名なのだそうだ。

無名がエルフの集落に現れてから起きた放火。

誰が見ても無名を怪しむのは当然だった。


「当分集落を彷徨く事は辞めておけ。今はまだボヤ騒ぎでお前の事を言及する奴はおらんが、落ち着けばどうなるか分からん」

「となると自宅として充てがわれた家にも帰らない方が良さそうですね」

「うむ……この森は広い。何処かに居を構えて当分姿を隠しておいた方がいいだろう」


これから少しでもエルフ達と交友を深めようと思っていた無名だったが、残念ながら叶わなくなってしまい少し残念そうな顔を浮かべていた。


目立たないよう今のうちにと、無名はその場を離れ静かな所まで行くとレイオールがある提案を持ちかけた。


「……無名、滅多にないが、俺が狩猟に出掛ける時に使っている家がある。そこを使えば誰にも見つからず過ごす事ができるぞ」

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