第3話 謎の男
カイルと名乗った男は無名の隣まで来ると座り込む。
無名も警戒は解いてまた地面へと座り込んだ。
「君はどうしてここに連れてこられたか知ってるかい?」
「……先程マリアさんと長老と呼ばれていた方には命の重みを知る為と言われました」
「そうかそうか。沢山人を殺したのかな?」
「……敵兵ですが」
無名は掻い摘んで今までの自分の行いを話した。
カイルは黙って頷きながら話を聞いていた。
「なるほどなるほど、うーんそれは確かにもう少し命の重みを理解した方がいいかもしれないね。ほら、例えば君が殺した敵兵にも家族や友人はいるだろう?その人達からの報復があるかもしれないとか考えなかったかい?」
「あるかもしれませんが、降りかかる火の粉は払うだけです」
「それは驕りだね」
カイルの言葉に無名は一瞬ムッとしたような表情を見せた。
無名は驕っているつもりはない。
ただ聞かされた側は驕っていると感じてしまうだろう。
「無名君がなまじ力があるからそういう思考になるんだろうね」
「ではどうすれば?」
「自分の力でも乗り越えられないような壁にぶつかるとかどうかな?」
既にそれは経験しているつもりだと無名は頭の中でフランとの訓練を思い出す。
フランの実力は無名をもってしても計り知れない。
それは壁ではないのだろうかと考えているとカイルが話を続けた。
「例えばこういうのはどうだい?おじさんと一騎打ちをして勝てたら君を王都まで帰してあげよう」
「貴方とですか?……失礼ですがそれほど力を持っているようには見えませんし、それに……」
無名はそう言いながら無くなっている腕へと視線を移した。
もし魔法技術に長けていたとしても片腕がなければ手数で劣る。
実際無名は複数の魔法を同時に発動する事ができる為、カイルと戦った所で負ける事はないだろうと考えていた。
「あ、もしかして見た目で判断したかな?実際にやってみれば分かるよ。丁度開けた場所がそこにあるから場所を移そうか」
「今からやるんですか?」
「もちろん。善は急げと言うだろう?」
カイルがなぜ日本のことわざを知っているのか気になったが、とりあえず二人で広い場所へと移動する。
湖の傍、テニスコート程度の広さだが一騎打ちをするなら十分すぎる広さの空間だった。
お互いに距離を取り、無名は開始の合図を待つことにした。
「ルールは決めておこうか。私からの致死性のある攻撃はなし、無名君はそうだな……私に傷の一つでも付けたら勝ちとしようか」
「それはあまりにも僕に有利すぎる気がしますが……」
「んーまあこれくらいはハンデを付けといた方がいいかなと思ってね」
カイルこそそれは驕りではないのかと言いたくなった無名だが、ここはグッと飲み込んだ。
それにしてもえらく自分の力に自信があるような雰囲気で無名も少しだけ警戒を強める。
「一応言っておくけど、怪我したらごめんよ」
「善処します」
カイルの装備に武器はない。
恐らく自分と同じ魔法使いだろうと想定し、無名は戦闘開始までに思考を巡らせる。
「じゃあこのコインが地面に落ちたら開始としよう」
カイルがポケットから一枚のコインを取り出し、指で弾いた。
それなりの高さまで上がるとゆっくり速度を増しながら落ちてくるコイン。
地面に落ちた瞬間無名が先に動いた。
「稲妻よりも疾く」
音を置き去りに加速した無名は一瞬でカイルの懐へと潜り込む。
腰に差していたナイフを取り出すと、その勢いでカイルの腹へと突き刺した。
魔法使いは距離を詰められると弱い。
これは対魔法使い戦におけるセオリーであり、無名もまたそれに倣った形だ。
しかし、突き刺したナイフは鉄の壁に阻まれ刃先が僅かに欠けた。
「残念だね。もしかして私が接近されると弱いと考えたかな?」
壁の裏側でカイルの余裕そうな声色が聞こえてくると、返事はせず無名はその壁に掌を当て、魔法を唱えた。
「破砕する波動」
無名の掌から魔法陣が出現すると微細な振動を生み出し、壁は粉々に砕け散った。
瓦礫が吹き飛ぶと壁の裏が露見する。
しかしそこにカイルの姿はなかった。
無名は咄嗟に振り向くと結界を五枚同時に張るが、カイルが片手を結界へと添えた。
「臨界」
カイルがボソッと呟くと結界は全て弾けるようにした砕けた。
流石に無名も何が起こったか理解できず目を見開き動きを止めてしまった。
「足を止めちゃいけないなぁ。鉄剣生成」
今度はカイルはその場でタップを踏むようにして片足で地面と叩いた。
同時に無名の足元から鉄の剣が刃先を上にして勢い良く飛び出す。
「ッッッ!?」
あまりに突拍子もない攻撃に無名の反応は遅れた。
即座に身体を捻るが躱しきれずに脇腹を刃がすり抜けた。
「まだまだ終わらないよ?鉄剣生成」
そんな無名の気持ちなど知ったことかとカイルは三度地面を足で叩く。
一度見ている攻撃は躱しやすい。
そう考えていた無名を嘲笑うかのように、鉄の剣は無名から少し離れた場所に生み出され切っ先を向けながら無名へと迫った。
「ッ!稲妻よりも疾く!」
無名の扱える魔法で最速の移動魔法。
稲妻が光り無名はカイルから距離を取った。
「貴方は一体……?」
「お喋りはまだ早いねぇ。爆砕」
カイルは距離を取った彼に手を向けると無名が聞き覚えのない魔法を唱えた。
「くっ!」
小さな火の玉が真っ直ぐ飛んできたと思うと無名の目の前で爆散する。
熱波と風圧で体勢を崩した無名を畳みかけるようにカイルが駆け出した。
「……チェックメイト、ってやつかな?」
無名が気づいた時にはカイルがいつ取り出したのかも分からない鉄の剣を持ち、刃を首元に添えていた。
戦闘技術といい魔法の腕も全て無名の上位互換とも思える強さ。
近接戦闘も魔法戦闘も何もかもが自分より上だと認識した無名は小さく両手を挙げ降参のポーズを取った。
「ふむ、じゃあ私の勝ちだね」
「……はい。負けました」
無名は決して手を抜いていた訳では無い。
ただ純粋に尊敬に値すると素直に敗北を認めた。
「おじさんの方が少しばかり強かったかもしれないね。これで、分かっただろう?」
少しではなかった。
明らかにカイルは手を抜いており、それは戦った無名が一番良く理解していた。
「カイルさん、貴方はもしかして過去の勇者ですか?」
日本のことわざを知っていたりチェックメイトという言葉を使ったりと勇者でなければ説明が付かない事が多かった。
無名はほぼ確信めいて聞いたのだが返ってきた言葉はまた別のものであった。
「ああ、違うよ。私は昔勇者の指南役をやっていてね、少しだけ君達のような別世界の話を知っているんだ」
「ちょっと待ってください。前回の勇者召喚は百年以上前だと聞いたのですが……」
「そうだね。だから私はおじさんなんだよ」
そんな言葉で片付けられるものではない。
百年も生きていれば老人といっても過言ではないのだ。
「百年前に指南役をされていたにしてはお若いのでは?」
「まあ私はこれでも錬金術師だからね〜」
今まで出会わなかった珍しい職を口にするカイルに無名は興味が湧いた。
錬金術師――無名の印象では常に屋内で研究に明け暮れるようなものだったが、目の前のカイルはイメージと乖離しすぎていた。
「ただの錬金術師、ではありませんね?」
「ん?まあ少しばかり有名かもしれないね」
「差し支えなければお聞きしてもよろしいでしょうか?」
明らかに格上であり、過去の勇者の指南役ともなれば剣聖ランスロットと同格だろう。
カイルは少し悩む素振りを見せたが、口を開いた。
「レベル7冒険者だよ。巷では隻腕の錬金術師と呼ばれていたかなぁ」
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