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第二章 プロローグ

辺りは一面森。

木々が生い茂り、自然の香りと野生動物の鳴き声が周囲に響き渡る。

無名が目を開くとそんな光景が目に飛び込んできた。


深き森とも違うまったく別の森の中。

戦場でフランから転移魔法により何処かへと飛ばされた事までは理解していたが、ここがどこなのかは分からなかった。


深き森のような禍々しさはない。

どちらかと言うと自然豊かな優しい土地のような感覚に陥る。


突如として景色が切り替わってしまい無名は辺りを見回し深呼吸を一つする。

こういう時は慌ててはいけない、そう自分に言い聞かせながら周囲を警戒しつつ探知魔法を展開した。


周囲一キロ圏内に人らしい気配はなかった。

探知に引っ掛かったのは動物と思わしき魔力のみ。


この世界の生き物には全て魔力が宿っている。

動物であろうと虫であろうと。


しかし人間や魔族、亜人といった言語を操る生き物は大きな魔力が宿っており、魔力探知に引っ掛かればすぐに分かる。



何も成果は得られず探知範囲を広げると、大きな魔力を持つ者が集まっているのが分かった。

とにかくここがどこなのか知る必要があると無名はその大きな魔力が集まる所へと向かう事にした。



木々を縫うように歩く事数十分。

少し開けた場所に出た無名は見られているような気がして念の為結界を張る。

その瞬間、どこからともなく矢が飛来し張ったばかりの結界に当たる音が響いた。


(誰かが僕を狙っているな……)

気配は複数感じ取れた。

一度だけ矢を射ってきたのは様子見のようであった。


「誰ですか?」

結界越しに見えない相手へと声を投げ掛ける。

しかし返答はなくしばらく待っていると草木をかき分け一人の女性が姿を見せた。


容姿の整った金髪の女性。

美しいという言葉以外見当たらなかった無名は黙って相手の様子を伺う。


「貴様、なぜここにいる?」

数秒待つとその女性から声を掛けられたが、明らかに友好的な雰囲気ではなかった。

まだ結界は張ったままの方がいいだろうと無名はそのまま返答する事にした。


「転移魔法で飛ばされました」

「転移魔法だと?フンッ!ふざけた事を抜かす輩だな」


女性の手には弓と矢があり、油断のできない状況に無名も気を抜けなかった。


「本当の事を言ったらどうだ?エルフを探して森へ入った来たのだと」

「エルフ?それは耳の長い種族の事でしょうか?」

無名にはエルフという言葉に心当たりがあった。

元の世界にいた時に聞いた種族名。

耳が長く容姿が整っているファンタジーの産物だ。


それをこの世界で聞くことになると思っておらず、無名は少し動揺を見せた。


「何を当たり前の事を……とにかく、貴様をこのまま帰す訳にいかぬ」

「ではどうすれば?」

「決まっている……全員矢を放て!」

金髪の女性が合図を送ると一斉に四方八方から矢が放たれた。

突然の事に無名は驚きを露わにするが、全身を覆う結界のお陰で傷一つ負わなかった。


「結界魔法か……多少は魔法技術に長けているらしいな。だが私の矢を弾けると思うなよ!光芒一閃の矢(ビームアロー)!」

女性が番えた矢は目を覆いたくなる程の光を発しながら、無名目掛けて一直線に放たれた。


まさに光線の如く真っ直ぐに向かってくる矢を無名は警戒し結界を重ねて張り直す。


ガラスの砕ける音と共に無名の結界は破られた。


もう一枚の結界もヒビが入り辛うじて防ぐ。

後少し威力が高ければ結界は突破され無名の心臓は穿たれていただろう。

無名は冷や汗を垂らし金髪の女性をジッと見つめる。


魔力は洗練されており、今まで見た魔法使いより魔力量も多い。

自身の結界が破られたのも納得できる魔力の質であった。



「ほう?多少はやるようではないか。人間のくせに私の矢を防ぐとは」

「ギリギリ、という言葉が付きますが」

「ふん、それでも珍しい事だ。……これ以上は私の独断で行動はできん。……ついて来い」

金髪の女性は弓を背中に担ぐと顎でついて来いと合図する。

周囲で矢を番えていた複数の気配も殺気を消した。


やっと敵対心がなくなったのかと無名も一安心し、ひび割れた結界を解いた。


言われるがまま金髪の女性へと着いていくと、CGかと思えるような集落へと到着した。

中央にはビルかと思える程大きな大木が鎮座しており、その周りには木でできた家が並んでいる。

ほぼ全ての建築に木が使われているのか仄かに木々の香りが漂っていた。


「ここは……?」

「いいからついて来い」

無名が口を開くと黙ってついて来いと金髪の女性が睨む。


無言の二人と着いてきているであろう複数の気配が、ある地点を目指して歩き続けた。

やがて一際大きな木の家の前に着くと入って来いと手招きする。


警戒しながらも家へと入ると広間のような大きさの部屋が一つあり、その中央に妖艶な見た目の女性が座っていた。


「長老、侵入者を連れてきた」

「ほう?マリアが人間を村に招き入れるなど、珍しい事もあったものだ」

長老と呼ばれた妖艶な女性は目を細めニヤッと笑う。


「コイツは私の矢を防いでみせた。なかなか面白い人間だ」

「ふむ……レベル6のお前がそんな事を言うとは。どれ、ワシも味見させて貰おうか」

何の話だと無名が小首を傾げていると、長老と呼ばれた女性が徐ろに手を前に突き出した。


妖精達は死ぬまで踊るデッドエンドフェアリー

「|降りかかる災厄は湾曲する《ゼロダメージ》!」


長老が唐突に魔法名を口にしたのと同時に無名も即座に魔法を発動する。

暴風が吹き荒れ無名の側にいたマリアは風圧で真横に吹き飛ばされたが、無名だけは無傷で突っ立っていた。


「ほう!なかなか見込みのある男じゃあないか。上級魔法を中級魔法で相殺とは恐れ入る」

「……随分なご挨拶ですね」

いきなり攻撃されたせいで無名は不機嫌そうに顔を顰めた。

普通の人間であれば身体は切り刻まれ見るも無残な死体と成り果てていただろう。


「クックック、まあそう怒るでない。その程度問題ないだろうとおもただけよ」

長老は口を抑えクツクツと笑う。

彼女には無名の内なる魔力が見えていた。

上級魔法でも恐らく大丈夫だろうと魔法を放ったが、まさか無傷だとは思わずつい笑いが溢れてしまう。


「長老……私まで被害を受けたぞ」

ジトッとした目つきで吹き飛ばされたマリアが長老へと詰め寄ると申し訳なさそうに頭をポリポリと掻いた。


「ああ、すまなかったなマリア。それにしてもなかなか面白い人間を連れてきたじゃないか。で?こんな辺境に来た理由は何だ?」

「自分の意志で来たわけではありません。師匠の転移魔法で飛ばされたんです」

「転移魔法?アッハッハッ!笑わせてくれるじゃないか人間。ああ、聞くのを忘れていたな、名前は何という?」

「無名です」

「なに?……まさか勇者か?」

大口を開けて笑う長老だったが、名前を聞いて真顔に戻る。

何か気に障っただろうかと訝しむ無名をよそに、長老はそのまま話を続ける。


「勇者をここに飛ばしたという事は……クックックあの女狐め、なるほどなるほど」

一人で納得しウンウンと頷く長老にマリアが問いかけた。


「長老、勇者だったら何だというんだ?」

「勇者をここに飛ばした理由など一つしかあるまい」

「意味が分からん」

マリアはやはり理解できず怪訝な表情で首を振った。


置いてけぼりに話が進んでいる様子に無名も黙ってはいられず、つい口を挟む。


「理由を知っているんですか?……いえそれよりも師匠と旧知の仲のようですが……」

「旧知?まあそうだな、古い付き合いではあるが仲はいいわけではない」

「では僕がこの地域に飛ばされた理由はなんでしょうか?」

意味もなくこんな意味のわからないエルフの集落付近に飛ばす訳が無い。

フランがそんな無意味な嫌がらせはしないだろう。

だから無名は知りたかった。


そんな無名に意味深な視線を向けながら長老は口を開く。

「クックック、そんなもの一つに決まっている。……命の重みを知るためさ」

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