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第34話 勇者VS勇者

無名が数多の兵士に囲まれていた場所に辿り着いた時には少し遅かった。

一人は瀕死、もう一人は涼しい顔で突っ立っている。

どちらが味方側かはこの際どうでもいいとして、無名は血塗れのドレイクへと駆け寄った。



話を聞き彼こそが王国軍のリーダーを務めていたと分かり、すぐに彼から許可を貰うため続けて苦しそうなドレイクへと話し掛ける。

苦しいながらも頷き、これで準備は整ったと言わんばかりに視線をもう一人へと向けた。


エミリアと名乗った法国軍の勇者を相手に、歴戦の騎士と思わしきドレイクが完全敗北している。

勇者の力を見せつけられた気がして無名は警戒を強めた。


しかし、無名の目線はある一点へと注がれた。


自身の手の甲にもある紋章の色だ。

エミリアは剣の本数こそ見えないが赤色である事が確認できた。

つまり、自身の黒色よりも力は劣る。


ただし、それはこの世界での能力値に差があるだけだ。

彼女が元の世界でも名を馳せた剣士であった場合、肉薄すれば自分の魔法も斬り裂くのではないかと一抹の不安を覚える。


とはいえ赤色と黒色の紋章には隔絶した力の差があると聞いており、不安なのは肉薄した場合のみ。



「よかった……赤い紋章で」

ついつい溢れた言葉に無名はハッとする。

油断した時こそ一番危険だとフランから口酸っぱく言われていた事を思い出し、考えを改める。


エミリアは法国軍唯一の勇者だ。

もしかすると五人分の実力を兼ね備えているかもしれない。

警戒するに越したことはないだろうと自身の身体を覆うように何重にも結界を展開した。



「見た所魔法使いのようですが、接近さえしてしまえば怖くはありません」

エミリアが自身を奮い立たせるかのように言葉を放つと無名は片手をエミリアへと向けた。


「接近さえしてしまえば?僕が接近を許すと?」

「それは今分かる事です!風刃斬撃(エアリアルストライク)!」

エミリアは最初から全力で挑むつもりで、突きを放つ。

勢いよく放たれた風刃は無名へと迫り、触れると乾いた破裂音と共に霧散した。


「なっ!?」

「その程度では僕の身体に傷すらつけられませんね」

煽る無名に苛立ちを覚え、エミリアは再度腰を落とし構えるとドレイクの足を貫いた技名を口にする。


天をも穿つ嵐撃一閃(テンペストセイバー)!」

無名の心臓目掛けて放たれた一撃は、真っ直ぐに目標を貫く……はずであった。


連続して響き渡る破裂音が無名の結界を破っている事を示していた。


直撃したはずの無名はやはり無傷で突っ立っている。


「一体どれだけの結界を張っていたのですか……」

「三十枚。これだけあれば貴方の技を防げるかと思ったのですが、残ったのは八枚ですか。派手な割に威力がありませんね」

無名は決して煽っている訳では無い。

ただ正直に結果を伝えているだけだ。


しかし捉え方次第では煽りとなる。

現にエミリアは煽られたと感じ、苛立ちを募らせる。


「貴方は恐らく私よりも能力値が高いでしょう……ですが驕るのもそこまでにしておいた方がいいですよ!天をも穿つ嵐撃一閃(テンペストセイバー)!」

エミリアは先程よりも力を込めて剣を突く。

飄々としている男の驚く様を見たいというのもあるが、自身のオリジナル技をもってしても無傷で終わるのは我慢ならなかった。


「また同じ技……もう見飽きましたよ」

エミリアの攻撃を防ごうと無名はまたも何重にも結界を展開した。


「そちらこそ同じ手をッ!無駄です!」

威力が増したエミリアの剣技は三十枚の結界を貫いてなお、勢いは衰えない。

それでも無名は驚く様は見せず淡々と次の行動へと移る。


稲妻よりも疾く(クイックスパーク)

一筋の稲妻を残し無名の姿は掻き消える。

エミリアの剣が空を斬ると無名は既に後方数メートルの位置に移動していた。


「速さが取り柄のようですが……僕も素早さなら負けず劣らずですよ」

風属性を得意とするエミリアと雷属性で対抗する無名。

速度という面においてはお互い譲らなかった。



「避けた……ということはそれなりに脅威と感じたのでは?」

エミリアはここぞとばかり無名に仕返しと、煽り始めた。

しかし無名の顔色は変わらない。



「いえ、ただ単に速度で勝てるか試しただけです」

「強がりですね……そろそろ終わりにしましょう。貴方が倒れればこの戦い我々の勝利です」

エミリアは次の一撃で終わらすつもりで、剣に魔力を込め始めた。

いよいよエミリアの本気の攻撃が来ると察し、無名も警戒を強める。


勇者対勇者の構図が出来上がっており、他の兵士達も動くに動けなかった。

ここで勝敗が決まると戦況は一気に動き出す。


法国軍はエミリアの一挙手一投足を、王国軍は無名の一挙手一投足を観察する。



「エミリア……負けるなよ」

ルクレティアは不安そうな眼で自国の勇者を眺める。

王国の勇者が強敵である事は遠目からでも分かった。


ルオール法国最高戦力とも言えるエミリアが敗れれば、後は物量で押し切る事になり被害は計り知れない。

最悪の場合、ルクレティア自ら参戦しエミリアを保護するつもりであった。



「覚悟はよろしいですか?」

エミリアが無名に問う。

無名はそれに無言の頷きで応えた。


エミリアの周囲は暴風が吹き荒れ、眼は真っ直ぐに無名だけを見据えている。

無名は両手を広げ周囲に複数の魔法陣を浮かび上がらせた。


自分達のところにまで被害が及ぶのではと周りを取り囲む兵士達は距離を開けていく。

エミリアに関しては王国の英雄であったドレイクを破った戦いを見ており、脅威である事は明白である。

しかし無名もまた、常人には理解できない魔法の同時詠唱を行っており、兵士らからすれば十分脅威であった。



「魔法使いが剣士に勝るのは優位に立つ距離を保てる時だけ……私ならその距離、瞬きの内に詰められます」

エミリアが地面スレスレまで身体を前に倒す。

踏み出した足で地面を抉るように蹴ると、弾丸のような瞬発力を生む。


暴風を纏いながら無名目掛けて駆け出したエミリアは剣を顔の横で水平に構えた。


「風より疾く、音すら残さぬ神速の一撃、隔絶たる剣の閃き(エアリアルフラッシュ)!」

ドレイクの頑丈な防御魔法ごと斬り裂いたエミリアの持てる最高の技を繰り出す。


朧げな現身(アバター)


「ハァァァァァッッ!」

気合の入った一撃。

エミリアの手には確実に斬り裂いた感覚があった。

肉を裂き、骨を断ち、人を斬ったとそう思えるほどリアルな感触。

今まで何人もの人を斬ってきたエミリアにとって、それは慣れた感触だった。


斬りかかる寸前に聞こえた無名の呟きが引っかかったが、今更止まる事などできない。

エミリアは二撃三撃と矢継ぎ早に斬撃を加えていく。


最後の一撃が決まると、風は止み一瞬の静寂が訪れた。



「なるほど、当たっていれば危なかったですね」

エミリアの背後から聞こえた声は今しがた斬ったはずの無名の声だった。


「……なぜ、私の後ろに」

「僕の魔法ですよ。貴方が斬ったのは僕が生み出した分身。なので残念ですが貴方の負けです」

エミリアが振り向くと無名の手には剣が一本握られていた。


「剣……?魔法使いではなかったのですか?」

「まあ、剣も使えるというだけですが」

無名はそれだけ言うと姿が掻き消える。


咄嗟にエミリアは防御の構えを取ったが、無名の動きの方が早かった。


無名は目に見えぬ速度でエミリアへと肉薄し剣を振るう。

雷属性の魔法によりエミリアですら目で追う事ができなかった。


鮮血が舞う。


「グゥゥゥゥッッッ!!!」


左腕を犠牲にかろうじて身体ごと斬られる事を避けたが、腕はもう使い物にならなくなっていた。

片手で剣を構えるが出血が酷く、眩暈もしてきたエミリアは片膝を突く。


「魔法……だけが得意というわけではなかったのですね……」

「聞かれなかったので」

無名は飄々とした態度でエミリアに剣先を向けた。

フランから魔法指導を受けていたが、魔法だけでは近づかれたら負けるだろうと慣れない剣術も練習させられていた。

その為無名もそれなりに剣が扱えるくらいには成長していた。


「さあどうしますか?」

歯を食い縛るエミリアに剣先を向けたまま無名は無表情で問い掛けた。

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